孤独な戦いと組織崩壊の危機
──逆境経験について教えてください。
一番の地獄だったのは、私が37歳のときです。当時、私は父の会社でナンバー2のような立場にありましたが、突然、会社の9割の社員が辞めてしまったのです。残ったのは父と母、私、そして事務スタッフとナンバー2の社員だけで、直接利益を出せる人間がほとんどいなくなってしまいました。
それまでの私は、「落ちたら終わりだ」という恐怖心から、尋常ではない働き方をしていました。休みも取らず、毎日10km走り、走りながら国家資格の勉強をするような生活です。家族が病気のときですら仕事に行き、温泉旅行に行っても目の前で仕事が入れば途中で戻るような、まさに仕事狂いでした。しかし、その強烈な熱量とワンマンな姿勢が、他の社員にとっては息苦しかったのだと思います。「社長の息子だから」という反発もあったでしょうし、私の考え方が受け入れられなかったのでしょう。
社員が一斉に去り、大手からの依頼もそっぽを向かれ、精神的にも肉体的にも極限状態に追い込まれました。朝シャワーを浴びていて、そのままお風呂場で貧血で倒れてしまったこともあります。「こんなに辛いことがあるのか」と絶望しましたが、ここで諦めて下に下がってしまえば、もう二度と這い上がれないことは分かっていました。だからこそ、「もう一度会社を大きくするために本気でやろう」と決意し、自ら求人を出し、一から人を育て直す道を選んだのです。

一人からチームへ。経営者としての意識改革
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
一人で死ぬ気で働いて出せる結果には限界があり、チームでやればその100倍、1000倍の力になるということです。それに気づくまでは随分と遠回りをしました。
40代半ばで新規事業を立ち上げた際、年下の職人さんたちに「ジュースを買ってこい」とこき使われたり、モノを投げられたりする屈辱も味わいました。しかし、プライドを捨てて素直に教えを請うことで、人は助けてくれるのだと学びました。
そして最大の転機は、49歳のときに参加した他の経営者たちとの北海道視察です。そこで、自分とは桁違いの熱量で行動し、何十億円もの規模でビジネスを展開する女性社長や経営者たちに出会い、自分の無力さを痛感しました。彼らは「失敗したら死ぬしかない」という覚悟で挑んでいました。圧倒的な差を見せつけられ、一度は心が折れそうになりましたが、「どうせ辞めるなら、最後に本気でやってからにしよう」と奮起したのです。
それまでは作業着を着て現場の第一線に立っていましたが、その日を境に作業着を脱ぎ、本気で経営に向き合う「第二の人生」が始まりました。仕事を最優先にしていた価値観を改め、社員や関わる人たちを大切にしなければ会社は続かないと心底理解したのです。今は「自分が社員だったらやってほしいこと」を徹底的に追求する、社員ファーストの経営に振り切っています。
社員の自由を叶えるための急成長
──会社の強みや魅力について、教えてください。
当社の事業内容は、家庭用から業務用までのエアコンの修理、メンテナンス施工、施工管理、機器販売です。しかし、本当の強みは「社員に還元するために、最短で急成長を目指す組織である」という点にあります。
現在、うちの社員の9割は未経験からのスタートです。私は彼らに「生活の自由」と「時間の自由」を渡したいと考えています。お金の価値観も、時間の使い方も人それぞれ違います。高級車に乗りたい人もいれば、ドーナツを食べて幸せを感じる人もいる。仕事に没頭したい人もいれば、家族との時間を大切にしたい人もいます。そのすべての価値観を認め、両方を叶えられる環境を作るには、会社が急成長して十分な利益を出すしかありません。
だからこそ、私は成長を急いでいます。10年後に目標を達成しても、今頑張ってくれている社員たちに還元できるタイミングとしては遅すぎるからです。彼らが一番お金や時間を必要としている「今」、短期スパンで結果を出して還元したい。そのために、2030年までに売上45億円規模という高い目標を掲げ、全国で勝負できるための土台作りや教育体制の整備を全力で進めています。何人規模になろうとも、社員全員にウェットに寄り添う姿勢は決して変えません。

熱狂できるものを見つけ、わがままを貫け
──若者へのメッセージをお願いします。
焦らずに、自分のやりたいことや好きなことをとことんやってほしいですね。最終的に社会で武器になるのは、単なる仕事のスキルや技術ではなく、自分の「わがまま」を通すためにやり尽くせるエネルギーや感性だと思います。
採用面接でも「入社までにどんな資格の勉強をすればいいですか?」と聞かれることがありますが、私は「そんなものはいらないから、たくさん遊んできなさい」と伝えています。恋人ととことん遊ぶでも、映画を見まくるでも、旅行に行くでもいい。何かに夢中になって、吹っ飛ぶくらい熱狂した経験がある人の方が、結果的に仕事でも強い力を発揮します。
私自身、20代の頃は狂ったように仕事に熱狂していましたが、今振り返れば、人生において仕事もプライベートも「バランスを取る」必要なんてないと思っています。仕事に200%、家族に200%。どちらにも全力を注ぎ切るような生き方をしてほしい。もし今、何をしていいか悩んでいるなら、どうにもならないことで立ち止まるのはやめて、まずは自分が熱中できるものを見つけてみてください。その熱狂のエネルギーが、必ず皆さんの人生を切り拓いてくれるはずです。

