「あいつのせいで」──5億円の焦げ付き、孤独な債権回収の半年間
──逆境経験について教えてください。
大手総合商社に入社して3年目の頃、ある取引先の経営状況が悪化し、約5億円規模の債権対応に追われる出来事がありました。以前から財務面に不安を感じ、取引の見直しを上司や役員へ提案していたものの、長年の信頼関係もあり、大きな方針転換には至りませんでした。結果として、担保を差し引いても約2億円の回収対応が必要となり、その回収担当を任されたのが、私でした。
倒産した会社の先にいた100社以上のお客様を回り、「支払いを待ってください」と頭を下げる日々。当然、激怒されることもありました。朝7時半から深夜0時まで、土日も返上で半年間働き詰めました。スーツを買いに行く時間すら惜しく、店に入るなり「このサイズで合うものをください」と15分で買い物を済ませるほど、心身ともに追い詰められていました。
しかし、最も辛かったのは、社内からの目でした。この焦げ付きによって本部の業績目標が未達となり、管理職のボーナスが減額されたのです。すると一部の人から「あいつのせいでボーナスが減った」と陰口を叩かれるようになりました。過去の膿を出し切るために必死で戦っているのに、その頑張りは誰にも理解されていなかった。組織の中で、私は完全に孤立していました。
「頑張りは見えていない」。組織の理不尽さが、起業への覚悟をくれた
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
この経験を通じて実感したのは、「自分なりに努力を重ねていても、その過程や苦労が必ずしも周囲に伝わるとは限らない」ということでした。また、年次や慣習を重視する組織文化にもどかしさを感じる場面もあり、「もっと自分自身の市場価値を高めたい」という思いが強くなっていきました。そこで、社外でも通用する知識や視野を身につけるため、MBA留学を意識するようになりました。
転機が訪れたのは、留学準備のために訪れたニューヨークでのこと。学生時代にお世話になった起業家の先輩に「MBAを取った後、どうしたいんだ?」と問われました。「外資系企業の役員にでも」と答えると、「その時、自分より仕事のできない上司がいたらどうする?今と変わらないじゃないか。お前は自分でやるしかないんだよ」と言われ、雷に打たれたような衝撃を受けました。
幼い頃、経営者だった父が資金繰りに苦しむ姿を見て、「絶対に経営者にはならない」と誓っていました。しかし、この一言で覚悟が決まったのです。帰国後、すぐに会社に辞表を提出しました。理不尽な経験と、先輩の言葉が、私を起業という新たな道へと突き動かしてくれたのです。

パワハラにならない“愛のムチ”。若者の可能性を解き放つパーソナル研修
──会社の強みや魅力について、教えてください。
現在は、経営サポートと研修事業を二つの柱としています。特に研修事業では、前職時代に外注費がなく、すべて自分でプログラムを組んで教えていた経験が活きています。私の研修の根幹にあるのは、単なる知識の伝達ではありません。受講者一人ひとりの「現在地」を正確に理解させ、次の一歩を踏み出させることです。
例えば、自己紹介のワーク一つとっても、多くの若者は「自分は話すのが苦手だ」と自己評価を低く見積もりがちです。しかし、他者評価をさせると80点以上の高評価がつく。一方で、「聴く力」は自己評価90点でも、実際にはほとんどの人が相手の話に耳を傾けられていない。このギャップを客観的なデータで突きつけ、「君たちが本当に課題なのはこっちだ」と気づかせるのです。
「今のままだと、来年には後輩に追い抜かれて見捨てられるぞ」。外部講師という立場だからこそ、社内の上司が言えばパワハラになりかねない厳しい言葉も、彼らの未来を思って真っ直ぐに伝えられます。数千人の若者を見てきた経験から、伸びる人材とそうでない人材の分岐点がどこにあるのか、私にはわかります。その現実を突きつけ、一人ひとりに合わせた処方箋を提示する。それが私の研修の価値だと考えています。
スマホを置いて、人に会え。君が思うほど、大人は怖くない
──若者へのメッセージをお願いします。
今の若い人たちは、とても素直です。しかし、コロナ禍を経験した影響か、「嫌われたくない」「ダメだと思われたくない」という気持ちが強く、失敗を恐れて挑戦できない人が増えているように感じます。
伝えたいのは、「スマホばかりいじっていないで、もっと人と会って話しなさい」ということです。ChatGPTに答えを求めるのではなく、生身の人間に相談してほしい。皆さんが思っているほど、おじさんやおばさんたちは、若者の話をぞんざいに扱ったりしません。むしろ、もっと話を聞きたいと思っています。
自信がないのは、自分の現在地を知らないからです。少しでもプラスになりそうな人がいたら、ビビらずに飛び込んで話を聞いてみてください。そこで得られるフィードバックこそが、自分を客観視する一番の近道です。行動すれば、自分が何をすべきか、何が足りないのかが必ず見えてきます。失敗を恐れず、まずは一歩を踏み出してみてください。
