音楽の道を断念。アイデンティティを失った「空白の時間」
──逆境経験について教えてください。
私の逆境は、何か一つの大きな失敗というより、起業に至るまでの「遠回り」そのものだったかもしれません。18歳から35歳まで、約17年間ラッパーとして音楽活動に全てを捧げてきました。しかし、人生の節目を迎える中で、これからの生き方を見つめ直し、その道を一度諦める決断をしたんです。
すると、心にぽっかりと穴が空いてしまいました。約20年近く続けてきたものが目の前から消え、自分が何者なのか、これからどう生きていくべきか分からなくなったのです。もちろん、転職した会社での仕事はやりがいがありましたし、日々の生活にも大切なものはありました。それでも、パズルのピースが一つだけ足りないような、情熱を燃やす対象を失った喪失感は常に心のどこかにありました。
その「自分は何をして生きていくんだろう」という漠然とした不安と葛藤を抱えていた時期が、一番つらかったですね。
点と点が線になる。遠回りこそが僕の財産だった
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
その「遠回り」こそが、今の自分にとって最大の財産になっていると断言できます。音楽活動を通して、人の心を動かす表現力や、自分の想いを形にする術を学びました。一方で、未経験から飛び込んだIT企業では、責任者としてPLやキャッシュフローといった経営のリアルに触れる機会に恵まれました。この経験がなければ、自分で会社を立ち上げるという発想には至らなかったでしょう。
一見すると無関係に見えるラッパーとしての経験と、サラリーマンとしての経験。その二つの点が、副業で始めた映像制作というフィールドで一本の線として繋がったのです。音楽も映像も、根底にあるのは「誰かに何かを伝えたい」という想いです。
遠回りしたからこそ得られた多様な視点が、私の作る映像に深みを与えてくれていると信じています。無駄な経験など、何一つありませんでした。

「今を生きる人」の物語を、未来へ残したい
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちの事業は、単に綺麗な映像を作ることではありません。企業や経営者が持つ「物語」をドキュメンタリーとして未来に残すことです。決算書などの数字には表れない努力や葛藤、そのサービスが生まれた背景にある作り手の想い。そうした目に見えない価値を映像で伝えることを最も大切にしています。
この事業の原点は、ある映画を見たときの違和感でした。ビートたけしさんの半生を描いた『浅草キッド』に深く感動したのですが、同時に「有名な人のサクセスストーリーだから感動したのだろうか?」と疑問が湧いたのです。
有名でなくても、まだ夢の途中でも、自分の衝動に正直に、前に向かって進んでいる人は誰もが輝いている。私たちは、そんな身近な人々の「今、まさに走っている姿」を切り取り、10年後、20年後に価値を持つ宝物として残していきたいと考えています。
遠回りした経験が、あなただけの物語になる
──若者へのメッセージをお願いします。
もし今、自分の道が定まらず遠回りをしているように感じていても、焦る必要はありません。むしろ、その経験を大切にしてほしいです。そして、自分が「好きだ」「ワクワクする」と感じる衝動を、決して無視しないでください。
それは壮大な夢でなくても構いません。周りと比べて夢がない自分を卑下する必要もありません。ただ、自分の心が熱くなるものに素直に進んでみてください。
私自身、ラッパーとしての経験が今の映像制作に繋がるとは、当時は夢にも思いませんでした。今は点にしか見えない経験も、未来のどこかで必ず線となって、あなただけのユニークな物語を描き出してくれるはずです。

