挫折の末にたどり着いた故郷。人生のどん底で感じた「負け」
──逆境経験について教えてください。
企業に勤めていた頃は、正直、人の言うことを聞くのが苦手でした。何かを理解したり、覚えたりするのも得意ではなくて。周りの優秀な後輩や先輩を目の当たりにするたびに、「自分は不甲斐ないな」という劣等感を常に感じていましたね。結局、東京で3年、愛知で数社を転々としましたが、どこも長続きしませんでした。
そして2012年、30歳の時に体調を崩して仕事を辞め、無職の状態で三重の実家に戻ることになったんです。その時はもう、はっきりと「負けたな」と思いました。人生のどん底にいるような感覚でしたね。
すぐに農家を継ごうと思ったわけではありません。ただ、収穫期だった父の農園を手伝う中で、何気なく口にしたみかんの味に衝撃を受けたんです。「親父、こんなに美味いもん作ってたんか!」って。その瞬間、「この味で生きていこう」と、僕の進む道が直感的に決まりました。しかし、決意したのはいいものの、就農してからも苦労の連続でした。経営の知識が全くなかったので、美味しいみかんを作ることと事業を成り立たせることのギャップに苦しみました。理想の味を追求するあまり、売れる見込みの低い品種の木を独断ですべて伐採してしまい、収入が激減。両親にこっぴどく叱られたこともあります。資金繰りがうまくいかず、消費者金融に頼ったことさえありました。
「これだ!」直感が拓いた道。”やる後悔”が僕の軸になった
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
あの時、父のみかんを食べていなければ、今の僕はいません。それまでは特にみかんが好きというわけでもなかったのに、心身ともに疲れ果てていた僕の心に、あの甘さが深く染み渡ったんです。それは「正解」を探し続けてきた僕が、初めて「自分で選んだ」瞬間でした。
たくさんの失敗を経験しましたが、そのすべてが「やらない後悔より、やる後悔」という今の僕の軸を作ってくれました。特に大きな転機となったのは、就農して10年ほど経った頃に、ある人から「農家も経営者なんだよ」と言われたことです。それまでは自分が社長だという感覚すらなかった。その一言で目が覚め、自分の仕事に対する責任感が大きく変わりましたね。
また、ワーケーションの受け入れを始めたことで、本当に多くの人との出会いに恵まれました。昔は人前で意見を言うのも苦手だった僕が、今では多様なバックグラウンドを持つ方々と交流することに心から楽しさを感じています。僕が美味しいみかん作りに集中できるのは、マーケティングや販売を手伝ってくれる仲間がいるから。人との繋がりの大切さと、支えてくれる人々への感謝を日々実感しています。

「生かさず殺さず」で生み出す究極の甘み。仲間と届ける”本物の味”
──会社の強みや魅力について、教えてください。
うちの最大の強みは、マルチ栽培、通称「スパルタ栽培」で作った甘みの強いみかんです。これは、地面をシートで覆って水分量を極限までコントロールし、みかんの木に意図的にストレスをかける農法です。「生かさず殺さず」のギリギリの状態に置くことで、みかんは生きるために糖分を実に凝縮させます。これにより、「たまたま甘い」のではなく、「狙って甘い」みかんを安定して作ることができるんです。
この栽培方法は全国的にも行われていますが、手間がかかるため、その価値が正しく伝わっていないのが現状です。僕は、この特別な栽培法で作ったみかんの美味しさを、もっと多くの人に知ってもらいたい。その一心で、日々みかんと向き合っています。
僕はどこまでいっても「職人」です。美味しいみかんを作ることしかできない。でも、僕が作ったみかんの価値を信じ、広めようと動いてくれる仲間がいます。ECサイトでの販売やクラウドファンディング、ジュース開発など、新しい挑戦を共に進めてくれる最高のチームです。この「人の繋がり」こそが、ゼロイチふぁ〜むのもう一つの強みだと思っています。
遠回りしても、その経験が自分の軸になる
──若者へのメッセージをお願いします。
昔の僕のように、「自分に合う仕事はなんだろう」「どうすれば正解なんだろう」と悩んでいる人は多いかもしれません。でも、僕の経験から言えるのは、最初から用意された正解なんて探さなくていい、ということです。大切なのは、周りの意見や常識に流されるのではなく、自分の直感を信じて「自分で選んで動く」こと。
僕自身、たくさんの遠回りをしてきました。でも、その一つひとつの経験が、今の自分を形作る上で欠かせないものだったと断言できます。やりたいことが見つかったら、理屈抜きに体が動いてしまうはず。勉強嫌いだった僕が、今では新しい品種や技術について夢中で学んでいるように。
もし少しでも農業に興味があるなら、それも立派な選択肢の一つです。迷ったら、まず一歩踏み出してみてください。「やる後悔」は、必ずあなたの未来の糧になります。遠回りしたっていい。その経験が、いつかあなただけの「軸」になるはずです。

