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【有限会社並木商店 並木 建造】突然の逮捕から不起訴へ──絶望の淵で掴んだ、中小企業経営の羅針盤。

2026/05/01

Profile

並木 建造

有限会社並木商店 代表取締役

1983年生まれ。立教大学を卒業後、食品専門商社へ入社。大阪で5年間、東京で2年半のサラリーマン生活を経験する。第一子の誕生を機に家業への使命感を強く抱き、30歳で有限会社並木商店に入社。10年間の後継者としての経験を経て、2023年に三代目代表取締役に就任。プライベートでは大学院に通い、自身の経験を基にした研究で修士号を取得した。
「お前は将来肉屋だ」創業者である祖父から幼い頃よりそう言われ育った並木氏。一度はサラリーマンの道を選ぶも、家族への感謝と家業への使命感を胸に30歳で家業の世界へ。事業承継を果たし、会社を成長軌道に乗せた矢先、彼を待っていたのは想像を絶する試練だった。その絶望の淵から、彼はいかにして立ち上がり、何を学んだのか。その壮絶な体験の先に見た、経営の真髄に迫る。

信頼崩壊の瞬間と、経営者としての責任

──逆境経験について教えてください。

私の最大の逆境は、仕入先が行った産地偽装を一緒にやっていたと疑われてしまい、私自身が逮捕されたことです。代表取締役に就任し、会社も順調に成長していた矢先の出来事でした。

始まりは、警察からの突然の家宅捜索でした。全く寝耳に水の話で、「自分は騙された被害者であり、捜査に協力している」という認識でした。私たちも仕入先から騙されて偽装した商品を購入させられていたことを伝えるために、伝票をすべて開示し、何度も任意での取り調べに応じました。しかし、ある日「次、いつ来てください」と呼び出された先で、私はその場で逮捕されたのです。

警察署に移送されると、そこには無数の報道陣が待ち構えていました。「何か大きな事件があったのか」と他人事のように思っていたら、フラッシュの先にいたのは自分でした。その瞬間の衝撃は今でも忘れられません。私がさも悪人であるかのような報道が全国に流れ、会社の信用は地に落ちました。取引先は半減し、まさに絶望的な状況でした。

23日間にも及ぶ留置所生活の中で、取引先の不正を見抜くことができなかったのかを深く考えさせられました。

“不運”で終わらせない――逆境を価値に変えた理由

──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。

幸いにも、最終的に私は不起訴処分となりました。私も騙された被害者であり、刑事責任を問われる立場ではないことを検察官にも分かっていただいたのだと思います。しかし、この経験から得た教訓は計り知れません。最大の学びは、中小企業における「業務委託先のリスク管理」の重要性です。契約書を交わすだけでは、相手の行動をすべてコントロールすることはできません。業務委託をする際には、常に健全な関係性を保ち、定期的に立ち止まって取引全体を見直す仕組みが必要不可欠だと痛感しました。

この理不尽な経験を、単なる不運で終わらせたくありませんでした。この経験を今後に生かさないといけないという思いから、大学院で勉強し、「中小企業における業務委託先のモラルハザードのリスクと対策」というテーマで修士論文を書き上げました。

順風満帆な時には見過ごしがちなリスクも、一度立ち止まり、客観的に見つめ直すことで防げるはずです。私の壮絶な体験が、同じように日々奮闘する多くの中小企業経営者にとって、自社の足元を見つめ直すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。この経験は、私にとって経営者としての新たな使命を見出すきっかけにもなりました。

“並木の肉じゃなきゃダメ”と言われる理由

──会社の強みや魅力について、教えてください。

私たちの強みは、まず東京の新宿という都心の一等地に自社の工場と出荷拠点を持っていることです。この立地は、お客様への迅速な配送を可能にする大きなアドバンテージとなっています。

そして何よりの強みは、手間を惜しまない丁寧な加工技術と、それを支える社員たちです。例えば、鶏肉や豚肉の細かい骨を一つひとつ手作業で取り除くような、効率だけを考えれば敬遠されがちな作業も、お客様の満足のために妥協せず行っています。事件によって多くのお客様が離れてしまいましたが、「並木さんの肉じゃなきゃダメなんだ」と、私たちの仕事を信じて取引を再開してくださった方々がいます。その信頼こそが、私たちの最大の財産であり、誇りです。

また、業界全体の高齢化が進む中で、社員の平均年齢が40歳と比較的若いことも特徴です。私が10年かけて進めてきた世代交代が実を結び、活気ある組織ができています。

今後は、これまでの食肉卸という事業の枠を超え、自身の逮捕経験から得た知見を社会に還元していきたいと考えています。中小企業が陥りがちな外部委託のリスクについて警鐘を鳴らし、その対策を共に考える。そんな活動を通じて、業界や社会全体に貢献していくことが、これからの私の展望です。

困難から逃げない人が、最後に強くなる

──若者へのメッセージをお願いします。

学生時代、私は社会に出ることを「棺桶に片足を突っ込むようなもの」だと、どこか窮屈に感じていました。しかし、実際に社会に出てみると、責任は増える一方で、それ以上に世界が広がる楽しさがありました。だからこそ、特に学生の皆さんには、今のうちに自分が興味のない業界の話を聞いたり、全く知らない世界に飛び込んだりして、自分の幅を広げてほしいと思います。

そして、もし家業を継ぐかどうかで迷っている方がいるなら、私は「家業は素晴らしい価値がある」と伝えたいです。ただ待っているだけでなく、「超友好的に乗っ取る」くらいの気概を持って、積極的に関わってみてください。サラリーマンでは決して味わえない、広く深い経験ができます。

大変なことは誰にでも訪れます。私自身、人が経験しないような壮絶な体験もしました。しかし、大変な時期は永遠には続きません。若い時の苦労は、必ず将来の糧になります。タイパやコスパだけを追い求めるのではなく、何かに熱中し、困難から逃げない社会人になってほしいと願っています。

有限会社並木商店

設立 1949年8月
資本金 600万
売上高 非公開
従業員数 非公開
事業内容 卸売部 / 国産及び輸入、食肉・食鳥・その副産物 各種食肉加工品小売部 / 和牛・国産食肉類・食肉加工品
URL https://namiki29.com/about/
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