社内分裂、赤字、本社からの借金。30歳で支社長を襲った「すべてが不安」だった日々
──逆境経験について教えてください。
大学を卒業してから就職までの3年間は、同級生が社会人として活躍する姿を横目に、金銭的にも精神的にも苦しい日々でした。しかし、本当の逆境は、税理士になってから訪れました。30歳で大阪支社の責任者になったのですが、その直前に社内が分裂し、主要なメンバーやお客様、ビジネスパートナーまで、多くの人が離れていってしまったのです。
残された大阪支社は、当然ながら赤字。一般的・常識的・社会的な観点から「大阪は切り離した方がいい」という声が上がるほどの状況で、本社からの借入金だけが日に日に膨らんでいきました。私自身、税理士としての経験はまだ浅く、どうすれば売上を増やせるのか、メンバーをどう導けばいいのか、何も分かりませんでした。文字通り、すべてが不安でしたね。失った信頼を取り戻すことの難しさと、人の心が離れていくことの恐ろしさを痛感した時期でした。
信じてくれた人への恩返し。がむしゃらな毎日で見つけた「長く続けること」の価値
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
そんな絶望的な状況でも、「田口を信じよう」と守ってくれた役員やスタッフがいました。その人たちの期待に応えたい、この恩は必ず返さなければならないという想いが、私を突き動かす原動力になりました。特別な戦略があったわけではありません。ただひたすら勉強し、一つひとつの仕事に真摯に向き合い、人の縁を繋ぐために交流会へ足を運ぶ。そんな、がむしゃらな毎日でした。
その経験を通じて学んだのは、「長く続けること」の価値です。短期的な成果を求めるのではなく、着実に歩み続けることでしか見えない景色がある。そこから「走らず止まらず」という、今の私の経営哲学が生まれました。また、多くの経営者と深く関わる中で、お客様の事業の歩みと共に悩み、成長を見守ることができるこの仕事の面白さに気づきました。消極的な理由で選んだ道でしたが、この逆境が、税理士という仕事の本当の魅力を教えてくれたのです。
“全てのお客様を豊かにする”——その言葉が根づくまで
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちの最大の強みは、誇れるような特別なサービスがあることよりも、「全てのお客様を豊かにする」というミッションが、社員一人ひとりに自然な形で浸透しているカルチャーそのものだと考えています。私たちは営業活動を一切行わず、お客様からのご紹介だけで成長してきました。これは、お客様との間に深い信頼関係が築けている証だと自負しています。
その関係性を象徴するのが、2014年から続けているお客様限定の勉強会「マスマスゼミナール」です。開催回数は300回を超えましたが、これは新規顧客開拓のためではなく、あくまで既存のお客様へのフォローアップが目的です。また、社員の成長のためには投資を惜しみません。税務会計の知識は自学できますが、コーチングや研修旅行といった、人間的な成長につながる機会は会社が積極的に提供しています。急拡大を目指すのではなく、お客様と社員、一人ひとりとじっくり向き合い、共に歩んでいく。それが私たちのスタイルです。

やりたいことがなくても焦らないで。たまたま選んだ道が、いつか最高の天職になる
──若者へのメッセージをお願いします。
AIの進化によって、税理士の仕事はなくなると言われることもあります。将来どうなるかは、私にも分かりません。でも、これだけは断言できます。たくさんのお客様と出会い、その方の人生や事業に深く関われるこの仕事は、無茶苦茶楽しいです。かつての私がそうだったように、今、やりたいことが見つからずに焦っている人もいるかもしれません。でも、大丈夫です。無理に何かを見つける必要はありません。
私自身、たまたま持っていた資格をきっかけに、偶然この道にたどり着きました。目の前のことに必死に取り組んでいるうちに、いつの間にか仕事が楽しくなり、最高の天職だと思えるようになっていました。だから、焦らず、気負わず、自然体でいてください。そうすれば、きっと自分に合った道が見つかるはずです。
