労働人口の減少に伴い、多くの企業が深刻な採用難に直面しています。特に有効求人倍率が高止まりを続ける現代において、従来の求人広告や人材紹介会社に頼るだけの手法では、自社に最適な優秀層を確保することが年々難しくなっています。
このような採用市場の変化を受け、新たな獲得チャネルとして脚光を浴びているのが「リファラル採用」です。自社の社員を介して知人や友人を紹介してもらうこの手法は、単なるコスト削減の手段に留まりません。企業の成長を左右するマッチング精度の向上や、組織の活性化、さらには社員の定着(リテンション)にも大きく寄与します。
リファラル採用の定義と注目される背景
本記事では、リファラル採用の定義や注目される背景といった基礎知識から、導入による利点、運用の際に留意すべきリスクと対策までを詳しく解説します。採用課題を解決し、強い組織を作るための実践的なノハウとしてぜひお役立てください。
リファラル採用が現代の採用戦略で重要視される理由
リファラル採用(Referral Recruitment)とは、自社の社員に知人や友人を紹介・推薦してもらう採用手法を指します。この手法が日本国内で急速に普及した背景には、従来の採用活動における限界が顕著になってきたことが挙げられます。
まず、マクロ経済の視点では、少子高齢化による労働力不足が深刻化し、採用市場は「超・売り手市場」となっています。求人広告を出しても応募が集まらない、あるいは人材紹介会社への手数料が高騰し、1人あたりの採用単価(CPH:Cost Per Hire)が企業の収益を圧迫するケースが増加しました。
こうした環境下で、自社の魅力を深く理解している社員が窓口となるリファラル採用は、非常に合理的な選択肢となります。紹介される候補者は、事前に社風や実際の業務内容、チームの雰囲気について社員から直接聞くことができるため、情報の透明性が保たれます。その結果、入社後の期待値調整がスムーズになり、ミスマッチを最小限に抑えることが可能となるのです。
縁故採用(コネ採用)との決定的な違い
リファラル採用は、しばしば「縁故採用(コネ採用)」と混同されることがありますが、リファラル採用と縁故採用の二つには選考プロセスにおいて明確な違いが存在します。
従来の縁故採用は、経営層や有力な取引先との人間関係を重視し、優先的に採用を決定する傾向があります。この場合、個人の能力やスキル、適性よりも、その背景にある「血縁」や「人脈」が重視されやすく、選考基準が不透明になりがちです。
一方で、リファラル採用は、あくまで自社が定める標準的な採用基準に基づいて選考を行います。社員から紹介された候補者であっても、他のチャネルからの応募者と同様に、適性検査や複数回の面接を実施するのが一般的です。自社のスキル要件に合致しなければ、不採用となるケースも少なくありません。社員の役割はあくまで「自社に合う人材を推薦し、接点を作ること」であり、合否判定は人事や現場責任者が客観的に行います。
引用:厚生労働省「リファラル採用(社員紹介採用)の活用」
「リファラル採用(社員紹介採用)とは、自社の従業員等に知人等の紹介を受ける採用手法のことです。」
URL: https://www.mhlw.go.jp/content/001155823.pdf
リファラル採用を導入する4つのメリット
1. 採用単価(CPH)の大幅な低減
リファラル採用を導入する最大の直接的なメリットは、採用単価(CPH)を低く抑えられる点にあります。人材紹介会社を利用する場合、一般的には採用決定時に年収の30%〜40%程度の手数料が発生します。これに対し、社員紹介であれば外部への紹介手数料は発生しません。紹介協力への感謝として社員に支払う「インセンティブ(紹介報奨金)」を設ける企業も多いですが、その相場は数万円から数十万円程度であり、外部媒体を利用する場合と比較してコストを劇的に低減できます。
2. マッチング精度の向上と「リアリティ・ショック」の防止
リファラル採用を経由した入社者は、他のチャネルからの入社者に比べて定着率が高い傾向にあります。紹介者である社員は、候補者に対して自社の良い面だけでなく、課題や忙しさ、独特の文化なども含めたリアルな実態を伝えます。候補者はそれらを納得した上で選考に進むため、カルチャーマッチ(社風との適合)が事前になされた状態となります。入社後も社内に信頼できる知人がいることで、心理的安全性が確保され、早期離職の防止につながるのです。
3. 転職市場に出てこない「潜在層」へのダイレクトアプローチ
リファラル採用は、転職サイトやスカウトサービスに登録していない「潜在層」への接触を可能にします。信頼している元同僚や友人からの「一度うちの会社を見に来ないか」という誘いであれば、心理的ハードルが下がり、コンタクトに応じる可能性が高まります。他社との激しい争奪戦に巻き込まれる前に、自社の魅力を直接伝えられることは大きな強みです。
4. 自社社員のエンゲージメント向上
自社を誰かに勧めるという行為は、自身の仕事や職場環境を肯定的に捉え直すプロセスを伴います。「知人を誘うからには、自社の強みを整理して伝えなければならない」という意識が働き、結果として自社に対する愛着や帰属意識、すなわちエンゲージメントの向上につながります。社員が自ら「仲間集め」に参加することで、組織の一体感を強める副次的効果も期待できます。
引用:中小企業庁「2023年版 中小企業白書」
「自社の魅力を発信し、従業員を通じた紹介等を活用することで、コストを抑えつつ自社に適合した人材を確保できる可能性がある。」
URL: https://www.chusho.meti.go.jp/pamphlet/hakusyo/2023/PDF/2023_pdf_01.pdf
導入前に知っておくべきデメリットとリスク回避策
紹介者・候補者の関係性悪化と不採用時のケア
社員が最も不安に感じるのは「不採用時の友人との関係悪化」です。このリスクを回避するためには、選考プロセスの透明化が不可欠です。まず「紹介=採用確定ではなく、厳正な選考を行う」という方針を全社員に周知します。万が一不採用となった場合には、紹介者に対しても丁寧に理由をフィードバックすることが重要です。誠実な対応を心がけることが、企業ブランドと人間関係の両方を守ることにつながります。
「ホモフィリー」による組織の硬直化
リファラル採用には、似たような価値観を持つ人材が集まりすぎる「ホモフィリー(同質性の選好)」というリスクが伴います。組織が同質化しすぎると、新しい視点が生まれにくくなる懸念があります。これを防ぐためには、明確な採用基準を設け、多様な視点を持つ面接官を選考に加えることが有効です。人事部門から「現在のチームに足りない要素」を具体的に発信し、あえて異なる経験を持つ人材の紹介を促す工夫も求められます。
運用負荷と法的な報酬管理
制度の周知や進捗管理など、人事担当者の実務負荷が増大する課題もあります。また、インセンティブに関しては法的な注意が必要です。日本国内では、職業安定法により、許可なく「報酬」として多額の現金を支払うことは制限されています。
引用:職業安定法(第四十条)
「賃金、給料その他これらに準ずるものであつて、現役の従業者に対して支払われるものについては、これを報酬とみなさない。」
URL: https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000141
報奨金はあらかじめ「就業規則」に明記し、給与の一部として支払う必要があります。必ず法務・労務部門と連携して制度設計を行ってください。
リファラル採用を成功させる運用のポイント
制度を形骸化させず、継続的に紹介が発生する状態を作るには、以下の3点が重要です。
- 紹介の心理的ハードルを下げる:いきなり「本選考」ではなく、「カジュアル面談」からスタートできる仕組みを整えましょう。
- 継続的な情報発信:全会一致のMTGや社内チャットツール等で定期的に告知を行います。「今、このポジションが特に必要です」と具体的に提示することが効果的です。
- ツールの活用による効率化:リファラル採用専用の支援ツールを導入し、紹介リンクの発行やステータス管理を自動化することで、人事の工数を削減できます。
まとめ
リファラル採用は、深刻な人材不足を打破し、質の高いマッチングを実現するための極めて有効な手法です。採用コストの低減や離職率の低下といったメリットがある一方で、人間関係への配慮や法的な運用ルールの遵守といった注意点も存在します。これらを正しく理解し、自社に最適な制度設計を行うことで、社員一丸となった「強い採用組織」を創り上げることが可能です。
参考文献・出典
- 厚生労働省:職業安定法等の改正について
- 中小企業庁:中小企業白書
- e-Gov法令検索:職業安定法
