挑戦の果てに訪れた「最大の危機」
──逆境経験について教えてください。
新卒で大手企業に入社し、当初は今の会社を継ぐ気は全くありませんでした。しかし入社から3年半後、母親から「会社がピンチだから助けてほしい」と電話がかかってきたのです。人に喜んでもらうために仕事をするのが私の目的でしたから、親に喜んでもらうのは当然必要なことだと感じ、ほとんど迷わずに大阪へ戻ることを決意しました。
しかし、その危機は私の想像をはるかに超えていました。当時の年商は3億5千万円でしたが、借金は4億5千万円。毎月2千万円もの赤字が出ている状況だったのです。サラリーマンだった私には桁違いの金額で、どうしていいか全く分かりませんでした。
約9年間、売上は伸びるものの、借金も減らない苦しい日々が続きました。メインバンクの変更やリスケジュールなど、あらゆる手を尽くし、なんとか銀行から「要注意先」のギリギリ手前までで会社を立て直しました。
そんな頃、ある経営者仲間から自己啓発セミナーに誘われ参加しました。最終日の課題は「今、自分が最も不合理だと思う行動を1時間でしなさい」というもの。当時の私にとって、それは「社長になること」でした。まだ借金も多く、専務として社長を支える立場でしたが、私は父親に電話をかけ「社長をやる」と宣言しました。父は「まだ早い」と猛反発しましたが、勢いのまま3ヶ月後には社長に就任。そして5億円もの借金の保証人となった時、初めてその重みに「もう逃げられない」と覚悟が決まりました。
社長就任後、私は「エンジョイカンパニー」という経営理念を掲げましたが、父からは猛反対を受け、3年間にわたる激しい対立が続きました。最後は父を半ば追い出す形でようやく私の経営がスタートしたのです。
しかし、本当の逆境はそれからさらに後に訪れました。今から約4年前、コロナ禍です。リアル店舗向けの販促支援が主な事業だった弊社は、イベントがなくなり、お店が休業する中で、売上が激減しました。このままではいけないと、「ファン創りを通じて笑顔溢れる世界を創る」というミッションを掲げ、新たな事業にチャレンジすることを決意します。
特に打撃を受けた飲食店さんを救いたいという思いから、飲食店の投稿動画を集めたアプリ開発に着手しました。事業再構築補助金も満額で採択され、上場スキームも視野に入れるなど、プロジェクトは急ピッチで進みました。アプリリリースから1ヶ月で1万ダウンロード、動画投稿も800本と最高の滑り出しでした。しかし、その裏で致命的な問題が発覚します。システムのバグで動画が再生されないという欠陥、そしてサーバー負荷を大幅に削減できるという技術が実際には全く不可能だったという事態が判明したのです。
半年経っても問題は解決せず、プロジェクトメンバーとの関係も悪化。結局、アプリ事業は撤退を余儀なくされ、総額2億円の損失が発生しました。当時年商8億円規模の弊社にとって、この損失は本体事業をも揺るがす危機でした。80人いた社員を50人にまで減らし、既存事業からも解雇者を出さざるを得ませんでした。最もやりたくなかった「解雇」を行わなければならなかったことは、今でも私にとって大きな痛手です。
「正しい危機感」と「社会性」を重視する経営哲学
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
この大失敗から得た教訓は、大きく二つあります。一つは「正しい危機感を持つ」こと。そして「間違った優しさを発揮しない」ことです。私はこれまで、良くも悪くも社員を放任するタイプでした。しかし、小さな違和感を感じた時に「大丈夫だろう」と放置せず、その時点で修正する方向に動くことの重要性を痛感しました。甘さから来る「優しさ」は、時に会社を破滅に導くのだと。
もう一つは「人選び」の重要性です。今回のプロジェクトでは、パートナーを選ぶ目を完全に間違っていました。共に事業を行う上で、手段や方向性が同じであることはもちろん、何よりも「何のための事業をやるか」という志が同じでなければなりません。そして、それを確かめるためには、仕事を抜きにしても1年くらいは付き合って相手を見極める必要があると学びました。
私は経営の三要素である「収益性」「独自性」「社会性」の優先順位を「儲かるかどうか」を最初に考えていましたが、フォーバル創業者の大久保秀夫氏の教えを受け、一番大事なのは「社会性」であると確信しました。社会に役立つ事業でなければ、いくら儲かっても意味がない。その上で独自性を追求し、収益へと繋げる。この順番で考えるようになってから、社員やお客様との関係性が劇的に変わりました。
私が私利私欲のために事業を進めていたら、きっと社員は離れていったでしょう。しかし、飲食店さんを救うという「社会性」を掲げていたからこそ、社員たちは苦しい時も私についてきてくれたのだと思います。
アプリ事業撤退の際、私は社員に涙ながらに謝罪し、「これから頑張るからついてきてほしい」と伝えました。すると多くの社員が会社に残ってくれて、本業に特化して懸命に働いてくれました。固定費が削減できたことも大きいですが、社員たちの努力によって売上を維持し、5千万の赤字から一気に5千万の利益を出すV字回復を成し遂げたのです。
この最大の危機があったからこそ、私自身の経営者としての意識も大きく変わりました。社員たちも「社長は変わった」と感じたでしょう。以前は遠慮して言えなかったことも、今では「本当に大丈夫ですか?」と臆さず言ってくれるようになりました。財務諸表も全社員にオープンにしているので、会社の状況を皆が把握した上で「頑張ろう」と決意してくれた。あのピンチがなければ、今の強いアサヒ・ドリーム・クリエイトはなかったと確信しています。

社員との絆と透明性が生む、未来を切り拓く強み
──会社の強みや魅力について、教えてください。
弊社の最大の強みは、社員と築き上げてきた信頼関係と、それを支える透明性の高い経営です。2億円の損失という最大の危機を経験した時、社員全員に会社の財務状況をすべてオープンにしました。それでも多くの社員が残ってくれ、共にV字回復を成し遂げたことは、何物にも代えがたい財産です。この経験を通じて、社員一人ひとりが「自分ごと」として会社を考え、主体的に行動してくれるようになりました。
また、私たちは「ファン創りを通じて笑顔溢れる世界を創る」というミッションを掲げています。これは、ただ商品やサービスを提供するだけでなく、お客様やその先のユーザーの「ファン」を創り出すことで、社会全体の笑顔に貢献するという考え方です。この社会性を第一に置く経営理念が、社員のモチベーションとなり、お客様からの共感にも繋がっています。
これからも私たちは、常に「正しい危機感」を持ち続けることを大切にしていきます。小さな違和感を見過ごさず、常に改善を求める姿勢は、組織の成長にとって不可欠です。そして、変化を恐れずに新しいことにも挑戦し続けていきます。たとえ失敗しても、そこから学び、次に繋げていく。この精神こそが、アサヒ・ドリーム・クリエイトの持続的な成長を支える原動力だと考えています。

自分の選択をチャンスと捉え、覚悟を持って進め!
──若者へのメッセージをお願いします。
私が若者の皆さんに伝えたいメッセージは「チャンス&トライアル」という言葉です。これは「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ!」というリクルート時代に教わった言葉を、私なりにアレンジしたものです。
人生や仕事において、ありとあらゆる出来事を「チャンス」と捉えてみてください。困難な状況も、新たな挑戦も、全ては自分を成長機会るための「機会」です。そのチャンスを捉えて果敢に「トライアル(挑戦)」することで、人は必ず成長できます。そして、その成長が最終的に皆さんの幸せへと繋がるのだと信じています。
また、もし後継者として家業を継ぐ立場にある方がいれば、「代々初代」という意識を持って欲しいと思います。先代が築き上げてきたもの、引き継いだものは大切にしながらも、自分の代で初めて会社を創るのだという気概で経営に臨んでください。良い状態の会社を継ぐ人ほど、この意識を持つのが難しいかもしれませんが、この気持ちがなければ、真の経営者としての人生はもったいないものになってしまいます。
家業を継ぐかどうか迷っている人もいるかもしれません。しかし、その状況自体を「チャンス」と捉えることができるかどうかが重要です。目の前にある選択肢を深く考え、自分自身で覚悟を決めてください。どんな道を選んだとしても、それをチャンスと捉えて挑戦し続けることが、皆さんを幸せにする秘訣だと私は思います。

