薬が手放せなかった日々。答えが見えない不安
──逆境経験について教えてください。
不妊治療の末にやっと授かった息子。しかし、彼が1歳になる頃、アトピーと喘息を発症しました。肌を掻きむしり、夜も眠れないほどの咳に苦しむ息子を見るのは、本当に辛いものでした。病院で処方されたステロイドを塗れば肌はきれいになり、薬を使えば咳も治まる。でも、それは根本的な解決ではありませんでした。「いつまでこれを続けるんだろう」という不安が常にありました。
体が弱く、月に一度は熱を出すため、元気な時がほとんどない。もっと公園で一緒に遊びたいのに、気づけばいつも病院にいる。そんな日々でした。私自身も二人目の不妊治療を続けており、母子ともに薬が手放せない生活。心身ともに疲れ果て、どうしたらいいのか分からない、八方塞がりの状態でした。
一杯の味噌汁が人生を変えた。信じていた常識が覆った日
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
そんな時、友人から「アトピーの子を持つママ向けの料理教室があるよ」と誘われたのが「重ね煮」との出会いでした。皮は剥かず、アクも取らない。出汁も砂糖も使わない。食材を、陰陽の順に重ねていく。理系出身の私にとって、それは信じがたい調理法でした。「美味しいわけがない」と半信半疑で口にしたお味噌汁の、その深い味わいに衝撃を受けたんです。「今まで私が信じてきた料理の常識はなんだったんだろう」と。
その日から、夢中で重ね煮を学び、毎日の食事に取り入れました。料理が苦手だった私が、作るのが楽しくて仕方なかったんです。すると驚くべきことに、あれほど苦しんでいた息子の喘息の咳が次第に治まり、アトピーの薬も少しずついらなくなりました。さらに、私自身も薬なしで二人目を授かることができたのです。制限や我慢をするのではなく、重ね煮を「おいしい」「楽しい」と続けていく中で、息子と私の体調だけでなく、日々の不安が安心に変わりました。
この経験を通して、食事は体だけでなく、人の心や生き方にまで関わるものなのだと感じています。

「重ね煮」を日本の食卓の当たり前に。次世代へつなぐ、食のバトン
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私と同じように、一人で悩んでいるお母さんたちの力になりたい。その一心で「重ね煮アカデミー」を立ち上げました。私たちが伝えたいのは、単なるレシピではありません。なぜその食材を選ぶのか、季節や体調に合わせてどう食べればいいのかという、食の本質的な考え方です。だからこそ、SNSではあえてレシピそのものは公開していません。表面的な情報だけでは、本当の意味で食卓は変わらないからです。
私たちの目標は、「重ね煮」が日本の家庭の当たり前になること。「野菜の皮は剥かないのが普通だよね。」「野菜は重ねて煮るよね。」そんなふうに、重ね煮が特別な健康料理としてではなく、煮物や焼き物と同じように、“当たり前の調理法”として認知される文化を根付かせたいのです。嬉しいことに、アカデミーの卒業生のお子さんたちが、当たり前のように家庭で重ね煮を作っているという話も聞くようになりました。
時間はかかるかもしれませんが、こうして食の知恵が次の世代へと受け継がれていくことに、確かな手応えを感じています。

「考えること」をやめないでほしい
──若者へのメッセージをお願いします。
私自身、正解が分からない時間を長く過ごしてきました。
でも、重ね煮と出会い、「なぜだろう?」「どうしたらいいだろう?」と常に自分の頭で考えるようになってから、生き方そのものが変わりました。
世の中には情報が溢れていますが、誰かが言う「正解」を鵜呑みにするのではなく、自分自身で考え、自分なりの答えを見つけてほしいと思います。たとえ失敗しても、また考え直し、進んでいけばいい。何か特別なものに出会えなくても、考えることをやめなければ、その積み重ねが、自分の歩いていく道になっていくのだと思います。
