「お釣りは20円」――大多数の“正解”の中で感じた息苦しさ
──逆境経験について教えてください。
私が自分の「らしさ」と社会とのギャップに苦しみ始めたのは、物心ついた頃からです。幼稚園の頃から「扱いにくい子」「普通ではない子」と言われ、自分の思いを発する場所も、理解してもらう機会もないまま、自分を表現できない苦しさをずっと抱えていました。
特別なことをしているつもりはなかったんです。ただ、みんなが「Aがいい」と言っても、自分が「Bがいい」と思えば、そう口にする。その当たり前のことが、日本では受け入れられませんでした。自分の意見を伝えようと手を挙げれば「出しゃばり」と打たれ、出る杭は打たれるという状況を幼心に感じていました。
象徴的なエピソードがあります。小学校の授業参観での出来事です。先生が「300円持っていて、180円のものを買いました。お釣りはいくらですか?」と問いかけました。クラスの全員が「120円」と答える中、私だけが「20円です」と答えたのです。なぜなら、180円のものを買うのに300円を出す人はいない。普通は200円を出すはずだから、というのが私の主張でした。もちろん、算数の問題としての正解は120円です。でも、私は自分の考えが間違っているとは今でも思っていません。
こうした経験の積み重ねから、次第に「この社会では、自分を殺して周りに合わせる方が楽なのかもしれない」と考えるようになりました。自分の居場所がない、学びたいことが日本にはない。そう感じた私は、高校生の時に海外行きを決意します。ここが、私の「ないなら作る」という生き方の原点になりました。
9.11が教えてくれた「伝えない後悔はしない」という覚悟
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
私の価値観を根底から変えたのは、アメリカ留学中に経験した「9.11同時多発テロ」です。当時私はボストンにいたのですが、まさにそのボストンから飛び立った飛行機が、ニューヨークのビルに突っ込みました。学校はしばらく閉鎖され、周りはパニック状態。自分ではコントロールできない理不尽な現実が、すぐそこにあることを痛感しました。
この経験を通じて、「明日が来る保証はどこにもない。だから、後悔しないように生きるしかない」と強く心に誓いました。何かを伝えたいと思った時、「どうせ伝わらないから」と諦めるのではなく、「伝えておけばよかった」という後悔だけは絶対にしたくない。そう考えるようになったのです。
かつての私は「なんでわかってくれないの?」と、相手に原因を求めていました。しかし、今は「伝わらないのは、自分の伝え方にまだ改善の余地があるからだ」と考えるようにしています。自分のことを理解してほしければ、まず相手をとことん理解しようと努める。コミュニケーションは、自分を一方的に伝えるためではなく、お互いを理解し合うためのツールなのだと気づいたのです。
最も深い学びをくれたのは、実は一番身近にいる “自分の子ども” でした。「言わなくても伝わるだろう」「これくらい当たり前だろう」──そんな大人の前提で向き合っても、まったく思うようにはいきません。その場を正論で押し切れば形だけは収まる。でも、翌日には同じことが起きる。子どもには建前がない。伝わっていなければ、すぐ態度に現れます。ごまかしも、雰囲気での誘導も効きません。毎日のやり取りの中で痛感したのは、“コミュニケーションとは、言葉を伝えることではなく、心が届く状態をつくること” だということ。
私は子どもを通して、その本質を徹底的に叩き込まれました。
親子の対話から生まれた、経営者のための「存在感デザイン」
──会社の強みや魅力について、教えてください。
現在の主力事業は、経営者の方々に向けた「Maki’s Presence Academy(M Academy)」です。これは単なる話し方トレーニングではありません。その方の人生や会社のストーリーが動き出すような「存在感」そのものをデザインしていくプログラムです。
このメソッドの根幹にあるのは、離婚後にシングルマザーとして立ち上げた「親子英会話」の事業で培った経験です。例えば、日本語の「いい加減にしなさい」という言葉は、非常に曖昧で、英語に直訳できません。何をどうすれば「いい加減」なのか、人によって解釈が違うからです。英語をツールにすることで、いかに具体的で、相手に誤解なく伝わる言葉を選ぶかが重要だと学びました。
この「心の届くコミュニケーションをどう設計するか」という本質は、相手が子どもでも、ビジネスパートナーでも全く同じです。素晴らしい情熱や技術を持っているのに、それがうまく伝わらずに損をしている経営者の方が、世の中にはあまりにも多い。私たちは、その方々の心と言葉を同じ方向に向かせ、第一印象から輝く存在になるためのお手伝いをしています。来年からは、より多くの方に届けられるようスクール化も予定しています。

欲しいものがないなら、自分で作ろう!
もし今、あなたが欲しいものや、やりたいことができる環境がないと感じているなら、ぜひ「自分で作る」という選択肢を持ってください。私自身、自分に必要なものが社会にないと感じるたびに、フリーランスになったり、会社を作ったりしてきました。
「どうやって作ればいいかわからない」と思うかもしれません。大丈夫です。私だって、一人では何もできませんでした。大切なのは、まず自分が「本当に何が欲しいのか」を人に伝えられる言葉にすること。そして、それをすでに実現している人の話を聞きに行くことです。今はインターネットでいくらでも情報を探せます。素直に人の話を聞き、まずやってみる。その行動力が道を拓きます。
特に、これから様々なライフイベントを迎える女性の皆さんには、「これだけは譲れない」という信念を持ってほしいと伝えたいです。私にとってそれは、シングルマザーとして「子どもとの時間を犠牲にしない」ことでした。その軸さえあれば、他のことは何でも挑戦できます。女性は決して弱くありません。むしろ、社会を変える力を持っています。
学歴やスキルも大切ですが、最終的にあなたの人生を豊かにするのは、自分の思いを人に届け、人とつながる「伝える力」です。どうかその力を信じて、自分だけの道を作り上げていってください。

