超過労働の日々の果てに訪れた、娘からの「一言」
──逆境経験について教えてください。
独立から2、3年が経った頃、事業は急成長の真っ只中にありました。ありがたいことに多くの方に応援していただき、お客様もスタッフも順調に増えていきました。しかし、その成長スピードに組織が追いつかず、様々な歪みが生まれていたのです。私自身、朝7時から翌朝4時まで、土日も関係なく働くような毎日。スタッフにも深夜までの残業を強いてしまっていました。
その結果、サービスのクオリティは低下し、お客様への対応も遅れがちになる悪循環に。家庭を顧みる余裕など全くなく、妻との関係も限界に近づいていました。そんなある日、事件は起こります。
1ヶ月ぶりに夜8時頃に帰宅できた日のことでした。当時4歳だった娘が私を見て言ったんです。「お帰り」ではなく、「あ、今日は来たんだね」と。その一言を聞いた瞬間、自分が必死に積み上げてきたものが、ガラガラと音を立てて崩れていくのを感じました。売上を伸ばし、会社を大きくすれば、スタッフも、お客様も、家族も、みんな幸せになれると信じて疑わなかった。でも、現実はどうだ。一番大切にしたかったはずの家族の心は、とっくに離れていたのです。「一体、何のために仕事をしているんだろう」。一時は、もう事務所を畳んでしまおうかとさえ考えました。
「頑張りの方向性」を再定義した、新たな理念
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
娘の一言をきっかけに、私は初めて「本当に大切にしたい人を幸せにするには、どうすればいいのか」を真剣に考えるようになりました。そして、「私たちに関わる全ての人を幸せにする」という新しい理念を掲げたのです。
最大の学びは、闇雲に頑張るのではなく「頑張る方向性」が何よりも重要だということでした。兵庫から東京を目指すのに、地図も持たずに歩き出せば、岡山に着いてしまうかもしれない。まずは明確なゴールを設定し、そこへ至る最適なプロセスを考える。私のゴールは「関わる全ての人の幸せ」であり、そのための地図とコンパスが必要でした。
具体的には、「スタッフの幸せ」を「成長・環境・待遇」の3要素、「お客様の幸せ」を「質・スピード・理解・提案」の4要素と定義しました。この理念と方針を軸に、働き方からサービス内容まで、数百、数千というレベルで改善を重ねていきました。すると、組織は劇的に変わり始めたのです。残業時間は目に見えて減り、生まれた余裕がサービスの質を向上させました。お客様からの紹介がさらに増え、結果として売上は倍に、利益は7倍にまで伸びたのです。そして何より、家族と過ごす時間をしっかりと確保できるようになりました。

理念がもたらした好循環と、スタッフが主役の組織づくり
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちの最大の強みは、税務会計という枠にとらわれず、中小企業の経営者が抱えるあらゆる悩みにワンストップで応えられることです。創業支援や資金調達はもちろん、M&A、IT化による業務改善まで、グループ8社体制で幅広くサポートしています。
この事業の根幹には、「中小企業にとっての最高のITとは何か」という問いがあります。私自身がITを苦手としているからこそ、経営者の皆様が求めるのは「簡単・安価・便利」なツールだと理解しています。この想いを込めた「最高のIT税理士法人」という社名は、実はスタッフたちが投票で決めてくれたものなんです。「戸越裕介の事務所」ではなく「みんなの会社」にしたいという想いから、全員で考えました。
この全員参加の姿勢こそが、私たちの文化であり強みです。現在、スタッフ約70名のうち半分以上が県外からのフルリモート勤務ですが、理念を共有し、一丸となってお客様の成功を支援しています。その結果が業界内での高い評価にも繋がり、今では全国から多くの税理士が私たちの事務所に見学に来てくださるようになりました。
「自分と未来は変えられる」恐れずに、自分だけの未来を創造してほしい
──若者へのメッセージをお願いします。
人生は一度きりです。ぜひ、思いっきり楽しんで、全力で色々なことに挑戦してみてください。失敗を恐れる必要はありません。「やらない後悔より、やった後悔」と言いますが、大抵のことはなんとかなります。もし、なんとかならなくても、なんとかすれば、なんとかなるものです。
私が好きな言葉に、「他人と過去は変えられない。でも、自分と未来は変えられる」というものがあります。世の中の流れや変えられないことで悩むよりも、自分自身という変えられるものにフォーカスしてほしい。目の前のことを一つひとつ変えていけば、その積み重ねが未来を作ります。
皆さんの前には、これから何十年という長い時間があります。それだけの時間があれば、どんな未来だって創り出すことができるはずです。自分の可能性を信じて、一歩を踏み出してみてください。

