理念と現実の狭間で。設立直後の妊娠と組織崩壊、二度の危機
──逆境経験について教えてください。
介護施設で働いていた頃、年功序列の風土や、利用者の尊厳よりも業務効率が優先される現実に強い憤りを感じていました。祖母が施設で最期を迎えた際、亡くなった正確な時刻すら知らされなかった経験は、私の心に「最高のエンディングストーリーを届けたい」という火を灯しました。一度はお金を稼ぐために不動産業界へ飛び込みましたが、福祉への想いは消えませんでした。
そして、友人の出資を得て、ついに株式会社Litを設立。しかし、そのわずか1ヶ月後、第一子の妊娠が発覚したのです。当初は自らがプレイングマネージャーとして会社を牽引するつもりでしたが、計画は完全に白紙に。急遽、人材紹介サービスを使い、高額な費用を払ってスタッフを採用せざるを得ませんでした。
資金的なプレッシャーに加え、出産というタイムリミットが迫る中、理念を共有する間もなく組織を動かさなければなりませんでした。その結果、創業から1〜2年経つ頃には、離職率が100%を超える事態に。「面接で聞いた話と違う」という理由で人が次々と辞めていきました。売上を上げる優秀なスタッフと、私の理念に共感してくれるスタッフとの間で組織は分裂。私は、会社の方向性を決める大きな決断を迫られました。
「決めれば、すべてを手にできる」。逆境が教えてくれた覚悟と対話の力
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
売上か、理念か。苦悩の末に私が選んだのは、創業の原点である「最高のエンディングストーリーが約束された世界を創る」という理念でした。その結果、売上トップの社員は会社を去り、業績は大きく落ち込みました。しかし、この決断が、本当の意味で強い組織を作るきっかけになったのです。
最大の学びは、スタッフとの関わり方でした。それまでは指示命令で人を動かそうとしていましたが、それでは人の心は動きません。そこから、一人ひとりと向き合う時間を徹底的に増やしました。月に一度、1時間の面談を設け、私が答えを出すのではなく、コーチングの手法で本人の想いや考えを引き出すように関わり方を変えたのです。手間がかかっても、あえて電話で声のコミュニケーションを大切にしました。
そして、会社設立直後の妊娠と出産という経験は、「女性は全てを手にしていいんだ」という大きな確信を私に与えてくれました。出産の翌日に病院のベッドから銀行に融資の電話をかけた経験も、今では笑い話です。仕事、結婚、出産。何かを諦める必要はない。自分が「全てを手に入れる」と覚悟を決めれば、道は必ず拓けるのだと学びました。

福祉業界の未来を創る。目指すは誰もが生きがいを感じられる「福祉の街」
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちの最大の強みは、「最高のエンディングストーリーが約束された世界を作る」という理念が、スタッフ一人ひとりに深く浸透していることです。コーチングを通じた対話を重ねることで、スタッフは自らの意思で考え、行動する主体性を身につけています。彼らが笑顔で働ける環境こそが、利用者様への質の高いサービスに繋がると信じています。
現在は、訪問介護、居宅介護、障害者グループホーム、相談支援事業の4つを柱に事業を展開していますが、私たちの挑戦は自社だけで終わりません。今後は、私たちが培ってきたコーチングやチームビルディングのノウハウを、福祉業界全体に提供していきたいと考えています。私たちの会社のような、スタッフが生き生きと輝ける組織を業界全体に増やしていくことが、次の目標です。
そして、最終的な夢は、ヨーロッパにあるような「福祉の街」を日本に作ること。認知症の方も、障がいのある方も、そのご家族も、誰もが地域社会の中で孤立することなく、生きがいを感じながら自由に暮らせる。そんな世界を実現することが、私の生涯をかけたビジョンです。
「わがままであれ、愛されることを許せ」自分に嘘をつかない生き方のススメ
──若者へのメッセージをお願いします。
若い皆さんには、「もっとわがままになっていい」と伝えたいです。「高級車に乗りたい」という物欲も、「好きな人に笑っていてほしい」という想いも、すべてがあなたの原動力になります。自分の心の声に正直に、全ての欲を叶えるつもりで、大胆に生きてみてください。
そして、キャリアやライフプランに悩む女性たちには、「あなたは愛されていい存在だ」ということを、自分自身に許可してあげてほしいです。仕事で自立できる強さを持つことと、誰かに愛されたいと願うことは、決して矛盾しません。私自身、バツイチを経て三度目の結婚をしましたが、「妻でいたい」という自分の気持ちを大切にしています。
私の根底にあるのは、「360°嘘のない自分でいたい」というシンプルな願いです。どんな状況でも自分をごまかさず、本当に望むものを掴み取りにいく。その覚悟さえあれば、きっと道は拓けるはずです。

