利用者様の最期まで支えたい。熱い想いで始めた訪問看護事業の、わずか4ヶ月での頓挫
──逆境経験について教えてください。
デイサービスの利用者様が、体調を悪くされて来られなくなったり、入院されたりする姿を見て、もっと包括的にサポートしたいという想いが募りました。ご自宅での生活から人生の最期まで時間を共有し、寄り添える体制を作りたい。その一心で、今年の4月に訪問看護事業を立ち上げたんです。しかし、その事業はわずか4ヶ月で畳むことになりました。
原因は、人材の確保と定着の難しさです。スタッフが体調を崩して来られなくなり、その負担が他のスタッフに重くのしかかりました。もちろん、すぐに採用活動は行いましたが、専門職である看護師の採用は簡単ではありません。事業継続に必要な人員基準を満たせなくなり、撤退せざるを得ませんでした。利用者様のためにと始めた事業を自分の力で守れなかった。僕の地域への想いの強さと、従業員の想いを一致させられなかった現実を突きつけられました。
「小さい会社の社長は不満の的になりやすい」。苦い失敗が教えてくれた、経営者と従業員の距離感
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
この失敗から得た最大の教訓は、経営者と従業員の間には、目には見えず埋めきれない溝が存在するということです。そして、その溝をいかに埋めていくかが経営者の課題なのだと痛感しました。振り返れば、採用の段階で判断を誤ったのかもしれません。年収面で折り合いがつかず、採用を見送った優秀な方がいました。あの時、目先のコストではなく「人」に投資していれば、未来は変わっていたかもしれない。コストで判断してしまったことが、一つの敗因です。
また、コミュニケーションのあり方も見直しました。これまでは自分の想いを熱く語ることが多かったのですが、それがかえってプレッシャーになっていたのかもしれません。小さな組織だと社長が常に現場にいるため、従業員から見れば「一番身近な上司」になってしまう。目に見えない人を認識することは難しいですが、身近にいる人は簡単に意識にのぼります。辛い時の不満は身近な上司が「的」になりやすいんです。だから今は、あえて少し距離を置き、個人の想いではなく「会社としての理念やビジョン」を全体に伝えるように意識を変えています。降りていく必要もあるけれど、降りすぎてはいけない。その絶妙なバランスを学ぶ、非常に高くついた授業料でした。
理学療法士の専門性を核に、全世代が健康に生きる地域を創る
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちのデイサービスの最大の強みは、専門職を多く配置し個別評価に則った運動プログラムを提供できることです。現在、私を含めて4名のリハビリ専門職が在籍しており、お一人おひとりの身体の状態に合わせた最適なサービスを提供しています。単なる介護施設ではなく、身体機能の維持・向上を本気で目指せる場所であると自負しています。
今後は、スタッフの専門性を活かして、さらに地域への貢献を深めていきたいと考えています。現在は高齢者の方々が中心ですが、将来的には全世代をサポートできる仕組みを作りたい。特に、私が事業を展開する海老名市は人口が増加しており、子育て世代も多い地域です。中には発育・発達がゆっくりなお子様もいらっしゃいます。そうした子どもたちやご家族の支えになれるような事業も展開していきたいですね。世代を問わず、誰もが健康に背すじを伸ばしてイキイキと暮らせる。そんな地域社会の実現に貢献することが、私たちの目標です。

人のせいにするな、まず動け。かっこ悪くても、その一歩が未来を変える
──若者へのメッセージをお願いします。
僕自身、大学生時代はちゃらんぽらんな時間を過ごしてきた人間です。本当にやりたいことなんて、すぐに見つからなくても当然だと思います。もし今、道に迷っている高校生や若い人たちがいるなら「とりあえずなんとなく気になる場所で働いてみたらいい」と伝えたい。大学に行くことだけが正解ではありません。まず社会を覗いてみる。そこで何かを突き詰めたくなったら、また学び直せばいいんです。
そして、社会に出たら「当たり前のこと」を大切にしてください。挨拶をする、時間を守る。報連相を怠らない。たったそれだけのことで、「この子はできるな」と評価され、チャンスが巡ってくる時代です。周りの人のせいや社会のせいにして文句を言うかっこ悪い大人とは距離を置き、一生懸命で夢を語る大人と付き合ってください。
最後にもう一つ。かっこ悪くてもいいから、一生懸命やってみてください。もしかしたら必死に頑張っている姿を笑う人がいるかもしれない。でもそれでいいんです。頑張り抜いた後には、必ずあなたのことを評価して手を貸してくれる人が現れますから。
