「感覚」だけでは越えられなかった、0→1を生み出す壁
──逆境経験について教えてください。
僕はずっと、感覚やリーダーシップだけで物事を乗り越えてきた人間でした。勉強は苦手で、地道な積み上げという経験をほとんどしてこなかったんです。それが大きな壁として立ちはだかったのが、この「OTENTO」という会社で、世界にまだないプロダクトを0から創り出す時でした。
僕の頭の中には「努力する人が報われる世界」の明確なイメージがありました。しかし、それをデザイナーやエンジニアに伝えようとすると、「色はそういう青じゃないねん」「もっと、こう、ふわっとした感じ」といった曖昧な言葉しか出てこない。チームからすれば「こいつが何を言ってるかわからない」という状態です。自分の頭の中にある三次元のイメージを、二次元の設計図に落とし込むことが全くできなかった。感覚だけで突っ走ってきた僕にとって、自分の想いを言語化し、具体的な形にしていく作業は、これまでの人生で最も苦しい経験の一つでした。
後付けの理論が、僕の「やりたいこと」に輪郭を与えてくれた
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
このままでは駄目だと、必死で勉強しました。人の行動原理を解き明かす行動心理学や、ハーバード大学が提唱する「サービス利益連鎖理論」など、これまで避けてきた学問や理論を学び始めたんです。すると、驚くべき発見がありました。僕が「こうだったら嬉しいはずだ」と感情で語っていたことの多くが、すでに理論として証明されていたんです。
例えば、「従業員を幸せにすることが、企業の利益に繋がる」という理論は、僕らが作ろうとしていたプロダクトの正当性を力強く裏付けてくれました。一つひとつの理論が、僕の頭の中にあった曖昧なイメージに明確な輪郭を与え、パズルのピースがハマるように事業構想が固まっていきました。学生時代に勉強していれば、という後悔はありません。このプロダクトを創るという強い目的があった「今」だからこそ、全ての学びが血肉になったのだと確信しています。この経験を通じて、感覚や情熱に「理論」という武器が加わることの重要性を学びました。
“ありがとう”を可視化し、人の価値を高める新しい評価インフラ
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちが運営する「GOOD CREW」は、お客様からの「ありがとう」という生の声をDXの力で集め、AIで分析し、働く一人ひとりの強みを可視化するサービスです。強みは大きく二つあります。一つは「スマートチップ機能」。お客様は感謝のメッセージと共に、電子決済でチップを送ることができます。これにより、企業は給与とは別の形で従業員の所得向上を支援できます。
もう一つは、1on1などの定期的なスタッフ面談の質を劇的に変える点です。上司が「最近どう?」と漠然と聞くのではなく、「〇〇さん、お客様からのメッセージ件数が3ヶ月でこんなに増えているね」「この対応、素晴らしいよ」と、顧客から回収する客観的なフィードバックやデータに基づいて具体的に褒めることができる。第三者であるお客様の声は、何よりの信頼の証です。この仕組みが従業員のエンゲージメントを高め、企業の定着率改善に貢献しています。最終的に私たちが目指しているのは、単なる評価ツールではありません。「人徳を可視化」し、その人の頑張りが履歴書のように社会的な信用となる、新しいインフラを創ることです。
諦めない先に、自分の使命は必ず見つかる
──若者へのメッセージをお願いします。
僕の経験上「すべての努力は報われる」とは思いません。でも、「報われるまで努力する必要がある」と強く信じています。部活で優勝できなかった、試験で一番になれなかった。人生には、努力が報われない瞬間があります。でも、道はそこで終わりじゃありません。次のシーンで絶対に結果を出すと決め、努力を続ければいい。報われるその瞬間まで、諦めず、コツコツと自分との信頼を積み上げることが何よりも大切です。
また、「やりたいことが見つからない」と焦る必要も全くありません。僕自身、今掲げている「使命」に気づいたのは、たくさんの悔しい思いや苦しい経験を重ねた後でしたから。それは40歳かもしれないし、50歳かもしれない。大事なのは、周りからどう見られるかではなく、自分自身が「今の俺、イケてる」と自信を持てるかどうかです。いつか必ず見つかる自分の使命を信じて、今この瞬間を全力で生きてほしいと思います。

