予算ゼロ、協力者ゼロ。辞表覚悟で挑んだ「絶対的な壁」
──逆境経験について教えてください。
僕のキャリアの中でも特に大きな転機となったのが、独立前に勤めていたウォーターサーバーの会社での経験です。倒産したベンチャー企業から移り、36歳で入社したその会社は、まさに逆境からのスタートでした。
マーケティング担当として採用されたものの、部署は立ち上げ段階。社内には「よそから来たマーケティングが得意な奴」という、お手並み拝見といった雰囲気が漂っていました。チームメンバーは総務からの兼務や海外からの留学生など、マーケティング未経験者ばかり。協力者もいない、まさに孤立無援の状態です。
さらに深刻だったのが、予算が全くないことでした。「ボールペン一本買うにも稟議書がいる」というほど厳しい環境で、「とにかく売上を伸ばせ」という指示だけが下りてくる。分析を進めると、ボトルネックは致命的に成果の出ないホームページにあるとすぐにわかりました。しかし、それは誰も口出しできない、会長肝いりの“聖域”だったのです。売上を上げるには、この壁を壊すしかない。僕は、いつでも辞表を出せる覚悟で、会長への直談判に臨みました。
逆境を乗り越えた教訓と、課題を分解する「観察眼」
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
意外なことに、会長は僕の直談判を「面白いやつだ」と評価してくれました。トップに直接意見する人間がいなかったことに、むしろ不満を感じていたようです。そこから風向きは一気に変わりました。僕は会長を巻き込みながら、信頼できる外部パートナーと共に、わずか2ヶ月でホームページをフルリニューアル。すると、売上は面白いように伸び始めたのです。
この経験から学んだのは、周囲を納得させるには「数字」という客観的な事実が何より強いということです。理想論や過去の成功体験を語るのではなく、まずは黙って結果を出す。その一点に集中したことが、社内の空気を変え、信頼を勝ち取るきっかけになりました。
当時は夢中で、まるでゲームを攻略していくような感覚でしたね。困難な状況を分解し、ボトルネックを見つけ、解決策を実行する。この思考の癖は、思い返せば子供の頃からあったのかもしれません。人間関係や物事の因果関係をじっと観察するのが好きな子供でした。どんな経験も無駄にはならない。点と点だった経験が、後になって線として繋がっていくのだと実感しています。

「中の人」だからわかる。クライアントの懐に飛び込む伴走支援が最大の武器
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちの最大の強みは、僕自身が長年、様々な業界の事業会社でマーケティングを担当してきたことです。だからこそ、クライアント企業の「中の事情」が手に取るようにわかります。担当者の方がどんなことで悩み、上司をどう説得すればいいのか。時には稟議書を一緒に作ったり、他部署との調整に同席したりと、まるで社員の一人のように深く入り込んでいけるのが特徴です。
単なるコンサルティングではなく、マーケティング戦略の骨組み作りから実行まで、組織に横串を刺しながら伴走支援することで、じわりじわりと成果を広げていきます。おかげさまで、お客様とは長くお付き合いさせていただくことが多いですね。
現在は、私と右腕のNo.2、そして約10名の業務委託メンバーというチームで活動しています。メンバーとの出会いは、ほとんどがX(旧Twitter)です。デジタル化が少し遅れているような、地方の製造業や大学、生協といったお客様からお声がけいただくことが多いのですが、業界や規模を問わず、売上を伸ばす「型」と「仕組み」づくりをサポートしています。
やりたいことは、後から見つかる。まず「物を売る」経験をしてみよう
──若者へのメッセージをお願いします。
もし今、学生時代の僕のように「やりたいことがわからない」と悩んでいるなら、焦る必要はないと伝えたいです。僕自身、社会に出ることへの不安から就職活動をしませんでした。でも、アルバイトでもインターンでも、まずは社会に片足を突っ込んでみると、想像していた世界との違いに気づくはずです。
とにかく、やりたいと思ったら「やらない」という選択肢は一旦捨ててみてください。どんな経験も、後から必ず自分の力になります。
特にマーケティングに興味があるなら、学生のうちに「自分で物を売ってみる」経験を強くお勧めします。メルカリで不用品を売る、フリーマーケットに出店してみる、何でも構いません。どうすれば人の目に留まるか、どんな言葉なら魅力が伝わるか、いくらが適正価格か。そこには、マーケティングの全てが詰まっています。机の上で学ぶより、その小さな成功体験や失敗体験が、将来何倍も価値のある学びに変わるはずです。

