「俺はこんな場所にいたくない」後ろめたさから会社を売却、直後に全財産を失った絶望
──逆境経験について教えてください。
創業からしばらくは、常に後ろめたい気持ちを抱えていました。コンプライアンスを度外視しなければ利益が出ない。そんな業界の現実に「何なんだこの商売は」と嫌気がさし、「もっとキラキラした世界に行きたい」という思いが日に日に強くなっていったのです。そして創業から3年目、僕はITスタートアップへの挑戦を決意し、その資金を得るために会社を売却しました。
しかし、それが悪夢の始まりでした。バイアウトで手にした資金は約6,000万円。それを元手に、集めたエンジニアメンバーと新事業を立ち上げようとした矢先のことです。信頼していたメンバーの一人に裏切られ、海外でのオフショア開発を名目に、わずか2週間で全財産を持ち逃げされてしまったのです。警察に相談しても「海外送金されたお金を取り返すのは99%不可能だ」と告げられ、目の前が真っ暗になりました。
夢もお金も、何もかも失いました。結局、僕は売却した会社に「雇われ社長」として戻ることしか道は残されていませんでした。自分の会社でありながら、自分のものではない。目的を見失い、面接で応募者の人生を背負う資格が自分にあるのかと、深い葛藤に苛まれる日々が続きました。
「物流って面白いだろ?」師との出会いがもたらした180度の価値観転換
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
転機が訪れたのは、失意の中で「2024年問題」に直面した時でした。長時間労働の是正という大改革に踏み切った結果、社員の半数が退職。会社が崩壊しかける中で、僕は藁にもすがる思いで、ある運送会社の経営者に会いに行きました。その方こそが、僕の「師匠」となる人です。
彼は、僕が抱いていた物流への負のイメージを根底から覆してくれました。財務や事業戦略を深く学ぶことで、トラックや倉庫といった重い資産(アセット)を抱えるこの業界が、いかに戦略的で奥深いものであるかを教わったのです。そして、彼は僕にこう言いました。「見方を変えれば、物流って面白いだろ?」と。その一言で、まるで雷に打たれたような衝撃を受けました。心から「面白い」と思えた瞬間、大嫌いだったこの仕事が、自分の「使命」に変わったのです。
それからは、経営に対する考え方が180度変わりました。これまで損得勘定で物事を判断していましたが、「善悪」という軸を持つようになりました。目先の利益(得)を追うことが、長期的には悪い結果(悪)に繋がることもある。逆に自分が損をしても、それが社員や社会にとって善となる選択をする。この「三方よし」の考え方が、僕の経営の核となりました。腹の底から燃え上がるような情熱が湧き、揺るぎない信念が定まった瞬間でしたね。

物流を「かっこいい仕事」に。若手が集い、成長できる組織への変革
──会社の強みや魅力について、教えてください。
使命を見つけてからの行動は早かったです。雇われ社長のままでは本当の意思決定はできないと、一度手放した会社の株式を買い戻すことを決意しました。売却額の倍の金額を提示されるなど交渉は難航しましたが、情熱を伝え抜き、資金調達にも成功して、昨年、再びオーナー社長に返り咲くことができました。
現在の強みは、高齢化が進むこの業界において、若手や未経験者が集まり、定着してくれていることです。トラックや制服のデザイン、ウェブサイトなどを通じたブランディングで「かっこいい」イメージを発信すると同時に、働き方の改革にも本気で取り組みました。一人ひとりのスキルに合わせた「運行部制」を導入したり、未経験者でも安心して成長できる独自の教育カリキュラムを整備したりと、誰もが自分らしく輝ける環境づくりに注力しています。その結果、一時は16名まで減った社員が、今では50名を超える組織へと成長しました。
「物流は、経済と人々の生活を支えるインフラである」。この誇りを胸に、社員が安心して生涯働ける会社を作ることが今の目標です。この仕事の面白さと社会的意義を伝え、業界全体を誰もが憧れる「かっこいい仕事」に変えていきたいと思っています。
失敗を恐れるな。失うものなど、何もないのだから
──若者へのメッセージをお願いします。
若い頃は、挑戦して何かを失うのが怖いと感じるかもしれません。でも、振り返ってみれば、もともと僕たちに失うものなんて何もなかったはずです。僕自身、数え切れないほどの失敗を繰り返してきましたが、その一つひとつが次の挑戦への切符になりました。失敗から学ぶことの方が、成功体験よりもずっと大きい。だから、恐れずに一歩を踏み出してほしいです。
最初から大きな一歩を踏み出す必要はありません。本当に小さな一歩でいい。その一歩が次の足を生み、やがて助走がついて、気づけば全力で走れるようになっています。
僕は何者かになりたくて、ただがむしゃらに行動してきました。その結果、大きな挫折も味わいましたが、同時に最高の使命と仲間に出会うことができました。皆さんも、自分の中に宿る「燃え盛る火」のような情熱を、いつか必ず見つけられるはずです。そのためにも、とにかく行動し続けてください。その経験のすべてが、未来のあなたを作るかけがえのない財産になるはずです。


