9ヶ月の準備が水の泡に。15,000人規模のイベントが開催1ヶ月前に中止
──逆境経験について教えてください。
僕のキャリアにおける最大の逆境は、株式会社想結びを設立する前、個人事業主として手がけていたプロジェクトでの出来事です。京都の商店街を舞台に、15,000人の集客を見込む大規模な「まちバル」イベントを企画していました。スポンサー企業や出演者も決まり、9ヶ月もの時間をかけて準備を進めていたのですが、開催のわずか1ヶ月前にすべてが白紙になってしまったんです。
原因は、地域の有力者とのコミュニケーション不足でした。間に入ってくれる方はいたものの、お互いに「相手が伝えているだろう」と思い込んでしまう「お見合い状態」に陥ってしまった。結果、イベントの規模や、運営メンバーのほとんどが学生であることへの不安、事故のリスクなどを理由に、会場の使用許可が下りなくなってしまいました。
その一報が広まると、これまで協力してくれていた地域の方々も次々と離れていきました。「まちづくりのために」と始めたはずのイベントが、肝心の町の人たちに全く受け入れられていない。その現実を突きつけられ、プロジェクトの中止を決断しました。自分の事業の売上もほとんどつぎ込んでいただけに、精神的にも金銭的にも本当に厳しい経験でした。
失敗が教えてくれた「本当のまちづくり」と、最高の仲間
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
この大きな失敗から学んだことは、二つあります。一つは、「本当のまちづくりとは何か」ということです。それまでの僕は、多くの人を集めて売上が上がれば、地域は喜んでくれるはずだと単純に考えていました。しかし、それは作り手側の独りよがりな考えでした。本当に大切なのは、その地域に住む人々が何を望んでいるのかを深く理解し、「誰を喜ばせるためのイベントなのか」を明確に設計すること。この経験を通して、地域に寄り添うことの重要性を痛感しました。
もし今、同じようなプロジェクトをやるなら、いきなり大きなことはしません。まずは小さな成功体験を地域の方々と共有し、同じビジョンを描ける仲間を少しずつ増やしていく。そうした地道なプロセスこそが、本質的なまちづくりに繋がるのだと学びました。
そしてもう一つの大きな学びは、最高の仲間を得られたことです。実はこのプロジェクトには、現在の共同代表である関がアドバイザーとして関わってくれていました。これだけの大失敗をしたにもかかわらず、彼は「この経験を活かして、一緒にまちづくりの会社をやろう」と言ってくれたんです。彼のその一言がなければ、今の株式会社想結びは存在しなかったでしょう。逆境が、かけがえのないパートナーとの絆を固めてくれたのです。

地域の課題を「人の力」で解決する。想結びが描く未来
──会社の強みや魅力について、教えてください。
現在、弊社は「地域デザイン事業」と「企業の業務効率化支援」を二つの柱としています。地域デザイン事業では自治体と連携し、移住定住の促進やスマートシティ化といった地域の課題解決に取り組んでいます。
そして、もう一つの業務効率化支援では、特に人手不足に悩む地方企業のバックオフィス業務をサポートしています。私たちの最大の強みは、全国にいる約50〜60名の優秀な在宅ワーカーさんたちと共に事業を進めていることです。その95%以上が子育て中のお母さん方で、彼女たちの高いスキルとマルチタスク能力が、私たちの事業の質を支えています。能力が高い方々がチームで動くことで、高品質なサービスを適正な価格で提供できる。これが私たちのユニークな点です。
今後の展望としては、若者と地方を繋ぐ大規模なカンファレンスを企画しています。50以上の自治体と連携し、学生たちが地域のプロジェクトに参加するきっかけとなる場を創出していく予定です。このイベントを単発で終わらせるのではなく、人と地域が結ばれる継続的な仕組みへと昇華させていきたいと考えています。

「何を」やるかだけでなく「どこで」やるか。可能性は1724の自治体に眠っている
──若者へのメッセージをお願いします。
皆さんには、ぜひ「前のめり」にいろいろなきっかけを掴みに行ってほしいです。僕自身、大学の授業での些細なきっかけから、今の道が拓けました。チャンスはどこに転がっているかわかりません。
そしてもう一つ伝えたいのは、「何をしたいか」だけでなく「どこでするか」という視点を持つことの重要性です。日本には1724もの自治体があり、それぞれに異なる魅力や課題、そして可能性があります。例えば、大きく稼ぎたいなら人口20万人以上の中核都市が面白いかもしれませんし、伝統工芸のようなものづくりがしたいなら、その特産地となっている地域にこそチャンスがあります。
自分のやりたいことが、日本のどの場所でなら最も輝くのか。その視点で世の中を見てみると、これまで気づかなかった新しい道が見えてくるはずです。就職活動も、自分を深く知る絶好の機会です。様々な人と出会い、自分の心がワクワクする場所はどこなのかを探求してみてください。皆さんの挑戦を応援しています。

