「個人として認められたい」双子として育ち、自分の意志を模索した20代
──逆境経験について教えてください。
幼少期は双子として育ち、さらに年の近い姉もいた私は、学校や周囲の友人からも比べられることが多くありました。そうした環境の中で、次第に「一人の人として見られたい」という気持ちが芽生えました。同時に、「認められたい」「期待に応えたい」という思いも強くなっていきました。特に親の期待に応えたいという思いが強かった私は、親の勧めもあり、栄養士の道を選びましたが、それは自分の意志というよりも、“誰かの期待に応えようとする選択”だったのだと、今では感じます。
就職活動が始まると、大手食品メーカーなど憧れの企業は、短大卒では門が狭く、現実とのギャップに戸惑いました。その後、栄養士の資格を活かせる職場で働き始めましたが、同世代の仲間はほとんどおらず、相談できる人も少ない環境。想像していた社会人生活とは違う日々に、社会の厳しさを痛感しました。
振り返れば、「親に喜んでもらいたい」「周りに認められたい」という気持ちが先に立ち、自分が本当に何を望んでいるのか、まだ見つけられていなかった―それが20代前半の私でした。
環境が私を変えた。負けず嫌いを武器に駆け上がったキャリア
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
転機となったのは、親元を離れる決意をし、光通信グループの会社に転職したことです。そこには、私とは真逆の価値観を持つ自由な発想の上司や、自分の夢を追いながら働く同僚など、多様な人々がいました。彼らとの出会いを通じて、「世の中にはこんなにも多くの選択肢があるんだ」と視野が大きく広がったのです。
当時の上司が、現在の光通信の和田社長でした。失敗を恐れずに挑戦できる環境の中で、私の“負けず嫌い”は良い方向に活かされ、30歳で歴代3人目となる女性部長を任せていただくことになりました。
もともと私は「これがやりたい」と明確な夢を持っていたわけではありません。けれど、任された場所で結果を出そうと向き合い続ける中で、「自分はどう働きたいのか」「何に喜びを感じるのか」という軸が少しずつ見えてきました。素晴らしい環境や上司・仲間との出会いに恵まれた「運の良さ」は、私のキャリアにおいて大きな要素だったと思います。ただ、それを“与えられたもの”で終わらせず、自分の選択として受け止め、行動し続けたからこそ今の道につながった――今はそう実感しています。

私がロールモデルに。誰もがキャリアを諦めない組織の未来
──会社の強みや魅力について、教えてください。
結婚と出産を機に一度仕事を離れました。復職した当初は「まずは育児を優先しよう」という気持ちが強かったのですが、実際に仕事に戻ってみると、病気で休んでいたわけではないので、能力が衰えたわけではない。ただ、時間の制約があるだけ――その現実に気づき、心の中で葛藤が生まれました。
「家庭を大切にしたい。でも、仕事ももっとやれる気がする」。
悩んだ末に、「仕事60%、家庭60%。合わせて120%でいいじゃないか」と思えた瞬間がありました。完璧を目指すのではなく、どちらも大切にしていいんだ、と自分を許せたことで気持ちが前に進みました。その後、「一緒についていきたい」と言ってくれる仲間の声もあり、2018年に株式会社HRマネジメントを設立。経営者としての道を、自分の意志で選びました。
私たちの強みは、心理的安全性が高く、誰もが意見を言いやすい風通しの良い環境にあります。特に、結婚・出産などのライフイベントを理由に女性がキャリアを諦めなくていい文化づくりを大切にしてきました。私自身の経験もあり、「続けたい人が、続けられる職場であること」を何より重視しています。その結果、現在では女性管理職の比率が43%にまで高まっています。
設立から間もなく10年。今後は、これまで積み上げてきた事業を基盤としながら、安定した収益につながるストック型の新規事業にも挑戦していきたいと考えています。そして、次の時代を担うリーダーや女性管理職をさらに増やし、より強い組織へと成長させていくこと――それが今の私の使命だと思っています。
出産前に役職を。ライフイベントを乗り越えるためのキャリア戦略
──若者へのメッセージをお願いします。
若い世代に伝えたいのは、「最初から夢がなくても大丈夫」ということです。
私自身、はじめは親の期待に応えるために進路を選び、何がやりたいのかも分かっていませんでした。でも、人との出会いや経験を通じて、“自分が何に心が動くのか・何を大切にしたいのか”が少しずつ見えてきました。
特に女性の皆さんには、「出産などのライフイベントの前に、できるだけ裁量のあるポジションを目指してほしい」と伝えたいです。一般社員は時間で評価されがちですが、管理職になると、成果や影響力で評価されるようになります。部下に仕事を任せることもでき、働き方の自由度がぐっと広がります。
私自身、出産前に部長職に就いていたことで、復職の際に「戻ってきてほしい」と会社から必要とされる立場でいることができました。ライフイベントでキャリアを途切れさせないためには、任される仕事の範囲や責任を持っておくことが重要だと実感しています。
ただし、役職に就くこと自体がゴールではありません。大事なのは、「自分がどんな働き方・生き方をしたいのか」を理解したうえで、選択できる立場になっておくことです。役職は、その選択肢を広げるための手段のひとつにすぎません。
キャリアも人生も、他人が決めるものではありません。正解があらかじめ用意されているのではなく、自分で選んだ道を、仕事や成果で“正解にしていく”ことが大事だと思っています。
迷うのは悪いことではありません。ただ、立ち止まったままにせず、自分の意思で判断し、行動できる人であってほしい。私はそう考えています。


