売上ゼロ、駅前のドーナツ店が仕事場だった半年間
──逆境経験について教えてください。
前職ではコンスタントに成果を上げ、「自分はモノを売るのが得意だ」と大きな勘違いをしていました。その自信を胸に独立したものの、待っていたのは厳しい現実でした。会社設立後、実に半年間、売上はゼロ。貯金も30万円ほどしかなく、株式会社の設立費用も捻出できなかったため、最初は合同会社としてスタートを切りました。
毎朝「行ってきます」と家を出て向かうのは、オフィスではなく、最寄り駅のドーナツ店。コーヒー1杯で閉店まで粘り、ひたすら新規開拓のテレアポをする毎日でした。
周りには「うまくいっている」と見栄を張り、友人からの飲みの誘いも「忙しいから」と嘘をついて断る。社会に価値を提供したいという起業当初の志は消え、頭の中は目先の売上やお金のことばかり。理想と現実のあまりのギャップに、精神的にどんどん追い込まれていきました。プライドだけが邪魔をして誰にも相談できず、孤独な闇の中にいたあの半年間は、人生で最も苦しい時間だったかもしれません。
人の温かさに触れ、利己的な心から解放された日
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
八方塞がりの中、ある日、前職の上司が飲みに誘ってくれました。もう限界だった私は、格好つけずに全てを正直に打ち明けたんです。すると後日、社長から「うちの業務を手伝ってくれないか」と、破格の条件で業務委託の連絡が来たのです。それは、一度辞めた人間に対する、あまりにも温かい救いの手でした。
その一件をきっかけに、不思議と状況は好転し始めました。きっと、金銭的な余裕が生まれたことで、追い詰められていた私の表情や言葉から焦りが消え、お客様に安心感を与えられたのだと思います。次々と契約が決まり、前職の同僚たちも案件を紹介してくれるようになりました。
この経験から学んだのは、人は一人では生きていけないということ。そして、目先の利益や自分の都合(利己)ではなく、人とのご縁や感謝の気持ち(利他)こそが、ビジネスにおいても人生においても最も大切な「資本」であるということです。それまで自分は会社の看板のおかげで成果を出せていたに過ぎない、という事実にも気づかされました。周りの人々への感謝を忘れず、誠実に向き合うこと。それさえしっかりしていれば、たとえどんな困難があっても、きっと道は拓けると信じています。

中小企業の「人事係長」として、成長を伴走する
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちの事業は、過去の私のようにお金や人の問題で苦しむ中小企業を支えたい、という想いから生まれました。具体的には、人事部を持たない中小企業様向けに、採用から教育、定着、評価制度の構築まで、人事業務を丸ごと支援するサービスを提供しています。
私たちの最大の強みは、単なる業務代行(RPO)でも、口を出すだけのコンサルタントでもない、「人事係長」という立ち位置です。お客様の隣に座り、同じ目線で課題に取り組み、ときには一緒に失敗しながらPDCAを回していく。そんな血の通った伴走者でありたいと考えています。
「採用から定着まで一気通貫」「アルバイト一人分の費用でプロのノウハウを提供」「離職の心配がない外部パートナー」という三つの強みを掛け合わせることで、大手には真似のできない、中小企業に特化した独自の価値を提供できていると自負しています。
目先の果実より、足元の土壌を豊かに
──若者へのメッセージをお願いします。
社会に出ると、たくさんの「美味しい果実」が皆さんを誘惑します。「こうすれば儲かる」「この会社に転職すれば給料が上がる」といった話です。しかし、そうした目先の魅力に飛びつく前に、まず自分の足元を見てほしいのです。
これまで育ててくれた親御さん、支えてくれた友人との小さな約束、お世話になった先生方への感謝。そうした身近な人たちとの関係という「土壌」をしっかり豊かにしておくこと。その土台があって初めて、新しい挑戦という種が芽を出し、将来もっと大きくて美味しい果実が実るのだと思います。
その土台を疎かにして目先の利益だけを追いかけると、かつての私のように、気づけば周りには誰もいない、という状況になりかねません。これは仕事でもプライベートでも同じです。就職活動も、単なる業界研究だけでなく、自分がこれまで周りの人たちに何をしてこられたのか、これからどう恩返しができるのかを考える良い機会です。ぜひ、自分自身の人生を見つめ直すことから始めてみてください。

