日本市場の限界から生まれた「裏街道」への挑戦
──逆境経験について教えてください。
日本のビルメンテナンス業界は、大手企業のシェアが高く、価格競争が厳しい環境が続いています。そうした中でも中小企業が生き残り、成長していくための道を模索する中で、私は早くから海外に活路を見出そうと考えてきました。当初はミャンマーを検討し、実際に現地を訪れましたが、コロナ禍と軍事政権により計画は断念せざるを得ませんでした。その後、ご縁があってモンゴルへの進出を決意しましたが、現地の法人設立から事業展開まで、資金繰り、言葉の壁、商習慣の違いなど、日本とは異なる多くの困難が山積しています。さらに、日本での事業について後継を立てずにモンゴルへ渡るという、まさにあえて逆境に挑むことで、自らを高め、会社としても次のステージを目指す挑戦を続けています。
その経験を通して、改めて“逆境をどう乗り越えるか”の大切さを実感しました。
「逆境」を飛躍のバネに変える思考法
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
過去の経験から得た最大の教訓は、どんなに困難な状況でも、必ず乗り越えられるということです。そして、自分自身が動き、現場に足を運ぶことの重要性を痛感しました。インターネットやチャットGPTで得られる情報だけでは、決して真実は見えてきません。現地の経営者と直接話し、肌で感じることで、初めて見えてくるものがあるのです。
モンゴルでの挑戦もその一環です。日本市場の縮小傾向を目の当たりにし、このままでは多くの企業が厳しい状況に立たされる可能性がある――そんな危機感を持っていました。だからこそ、私は海外に目を向け、ミャンマーへの視察を経て、最終的にモンゴルとのご縁をいただきました。モンゴルは人口こそ少ないですが、資源大国であり、出生率も高く、経済成長期を迎えています。何より、日本の50年前のような成長フェーズにあり、日本の技術やサービスを強く求めている親日国です。しかし、ほとんどの日本企業は東南アジアなどの人口の多い国に目を向け、モンゴルのような「裏街道」にはなかなか出てきません。
私はそこに大きなチャンスを感じました。ライバルが少ない分、先駆者として大きな成功を掴む可能性がある。そして、この挑戦を通して改めて感じたのは、私たち日本人の持つ「スペックの高さ」です。80年前にシベリア抑留中の日本人が建てたモンゴルの美術館が、今もびくともせず建っている一方で、ロシア人が建てたアパートは60年で崩壊してしまう。モンゴルの人々が、日本の品質と技術に心からのリスペクトを抱いていることを肌で感じました。
しかし、その優れた能力を持つ日本人が、国内の限られた市場で競争が激化している現状は、非常にもったいないと感じます。せっかくの技術や経験を、もっと広い世界で生かせるのではないかと考えています。
困難な状況に身を置くことで、人間の脳はフル回転し、後継者がいなくても必ず次の一手を見つけ出すものです。私もモンゴルでの言葉の壁、商習慣の違い、資金調達の難しさなど、あらゆる壁にぶち当たっていますが、これを「逆境」とは捉えていません。むしろ、すべてが学びであり、次なる成長へのステップだと考えています。

日本の「当たり前」が未開の地で「圧倒的な強み」に
──会社の強みや魅力について、教えてください。
株式会社MIQの最大の強みは、やはり「人の多さ」です。パート社員が250名、正社員が50名と、多くの現場スタッフを抱えています。これにより、タワーマンションや大規模なショッピングセンター、オフィスビルといった多種多様な大規模施設の清掃業務に柔軟に対応できる体制を構築しています。清掃はもちろん、ポンプの点検や消防点検など、建物の維持管理全般を担うことで、お客様に「安心安全」を提供し、建物の資産価値を長期にわたって守る「縁の下の力持ち」として貢献しています。
ビルメンテナンスは、建物がある限り、日本の法律(ビル管理法、水道法、消防法など)によって必ず必要とされる、非常に安定した事業です。コロナ禍のような不測の事態にも影響を受けにくいという特性も持っています。
そして、今後の展望として最も力を入れているのが、モンゴルでのビルメンテナンス事業の展開です。現在、モンゴルには「ビルメンテナンス」という概念そのものが存在しません。彼らは壊れてから直す「対症療法」が主流ですが、私たちは日本が得意とする「予防保全」、つまり壊れる前にメンテナンスをして長期的に維持管理するノウハウをモンゴルに導入しようとしています。これは単なる事業展開にとどまらず、日本の高い技術とサービスを海外に広める、大きな挑戦です。
モンゴルは、日本企業があまり参入していない未開拓の市場でありながら、親日で日本の技術を強く欲しています。この「裏街道」でしっかりと根を張り、成功を収めることで、いずれはカザフスタン、ウズベキスタンといった中央アジアの国々にも日本のビルメンテナンスの概念を広げていきたいと考えています。私は今、MIQの現在の売上をモンゴルで叩き出すくらいの覚悟で臨んでいます。
日本市場の変化を見据え、海外で新しい市場を切り開くパイオニアとして挑戦することが、MIQの未来を拓く道だと信じています。
パスポートを手に、世界へ飛び出せ!
──若者へのメッセージをお願いします。
若者の皆さんには、まず何よりも「パスポートを取って、海外に出てほしい」と強く伝えたいです。日本は、世界的に見てもパスポート保持率が極めて低い国です。
まずは実際に海外へ足を運び、自分の目で世界を見てほしいと思います。
私はモンゴルで、水道をひねれば安全な水が飲め、コンビニで1万円札を出しても嫌な顔一つされない日本が、いかに恵まれ、そして優秀な国であるかを再認識しました。しかし同時に、その優秀な日本人であるからこそ、国内だけでの競争にとどまるのは、せっかくの力を十分に発揮できないとも感じます。
日本人は高いスペックと素晴らしい技術を持っています。だからこそ、よりフラットで実力主義の海外の市場で、自分の力を試してみてほしいのです。
海外には、まだ私たち日本人にとって無限のチャンスが眠っています。多様な価値観やビジネス感覚に触れることは、必ず皆さんの視野を広げ、大きな成長に繋がるでしょう。
日本のビジネスマンや日本人は、世界で十分に通用します。どうか、その眠れる才能を、狭い日本国内で埋もれさせてしまわないでください。勇気を持って一歩踏み出し、未知なる世界で自分の可能性を試してほしい。まだ間に合います。私たちは、きっと「逆転の一手」を打てると信じています。

