資金ゼロ、経験ゼロ。それでも会社を動かした“行動力”
──逆境経験について教えてください。
会社設立当初は、お金が全くない状態からのスタートでした。知人からの出資や融資を受けて会社を立ち上げたものの、事業がなかなか軌道に乗らず、株主や金融機関への対応に奔走する日々が続きました。当時は経験も知識もなく、金融機関からも相手にされないような状況でしたが、知り合いの伝手を頼り、がむしゃらに資金調達に走り回ることで、どうにか最初の苦境を乗り越えることができました。
さらに直近では、大きな逆境を経験しました。コロナ禍においては、自治体からのコロナワクチン予約受付業務などで一時的に業績が好転しましたが、その特需が終了した直後にいくつかの困難が重なりました。特に、24時間テレビショッピングを展開する外資系企業の大型案件を受託した際は、かつてない規模のプロジェクトであったため、百名以上の採用や十名以上の管理者配置が必要となり、採用や管理が追いつかず、多くのクレームが発生しました。この対応に莫大なコストがかかり、また同時期に他の大型案件が終了したことや、自治体の案件を例年のように受託できないことなどが重なり、会社は2期連続で大幅な赤字を計上してしまいました。営業人員も減少し、まさに八方塞がりの状況でした。
崖っぷちからの逆転劇──“走り続ける”ことで掴んだ再生のヒント
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
創業期の資金難や、直近の大型案件での失敗から学んだのは、「絶対に諦めないこと」の重要性です。がむしゃらに仕事を取りに走り回り、なんとか会社を存続させようと必死でした。特に大型案件での赤字が続いた際は、クライアントに契約の解消を申し出るほど追い詰められましたが、そこで諦めず、在宅勤務を導入することでコストを削減し、24時間体制でも効率的な人員配置を可能にしました。この施策が功を奏し、今ではその案件が最も利益を上げる柱の一つにまで成長しています。この経験を通じて、担当チームのメンバーたちも厳しい環境で揉まれ、質の高いプロフェッショナル集団へと成長してくれました。
この一連の逆境は、私自身にも「常に営業を続け、危機感を持ち続ける」という大切な教訓を与えてくれました。以前は元会長と二人三脚で経営を行っていましたが、その方が退任してからは私が社長業と営業を兼任することになり、統率力や営業力が低下してしまいました。その反省から、現在は再び私が最前線に立ち、若い営業担当者と共に積極的に案件獲得に奔走しています。
また、会社を成長させるためには、私自身も学び続ける必要があると痛感しました。組織運営のために「中小企業診断士」の資格勉強や、営業力強化のための「マーケティング」学習にも力を入れています。過去の成功体験に安住せず、常に変化に対応し、学び続ける姿勢が何よりも大切だと考えています

デジタルも、紙も、人も──あらゆる手段で“伝える・届ける”を支援
──会社の強みや魅力について、教えてください。
弊社の最大の強みは、単なるコールセンターの受託業務に留まらない、お客様のマーケティング課題を総合的に解決するソリューションを提供できる点です。かつては「コールセンター」と称していましたが、現在は電話だけでなくメールやチャット対応も行う「コンタクトセンター」として進化し、さらには事業範囲をBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)へと拡大しています。特に、自治体様のDM発送代行や窓口受付業務など、幅広い業務を請け負っているのは、同規模の競合他社にはない特徴です。
民間企業向けには、Web広告運用やSNSインフルエンサー活用といったデジタルマーケティング支援から、私がラジオ局出身である経験を活かしたラジオ広告、雑誌、新聞といった既存メディア広告の提案まで、多角的なアプローチが可能です。
さらに、2020年10月には産経新聞社と合弁で「産経リサーチ&データ」という会社を設立しました。ここでは、特にシニア層に特化したマーケティングリサーチを実施しており、商品開発段階でのユーザーテストやパッケージ・CM評価など、顧客のニーズを深く掘り下げる支援を行っています。これにより、お客様の商品開発から販売促進、そしてコールセンターでの顧客対応まで、一貫したマーケティングソリューションを提供できる体制が整っています。中小企業でありながら、大手新聞社と提携して新事業を展開している点も、弊社のユニークな強みと言えるでしょう。お客様の課題に応じて、費用対効果の高い提案から運用までを一手に引き受けることができるのが、株式会社アイ・エヌ・ジー・ドットコムの大きな魅力です。
プロレスから学べ──正義も裏切りも、すべてが成長の糧
──若者へのメッセージをお願いします。
人生は一度きりですから、何かやりたいことがあれば、とにかくどんどんチャレンジしてもらいたいですね。できるかできないかを考える前に、まずやってみることが大切です。私自身も、経営の知識もないまま起業しましたが、がむしゃらに営業を学び、行動することで道が開けました。
ただし、会社に入ったら、少なくとも数年間はそこに留まり、仕事とは何か、会社とは何かをじっくり学んでほしいと思います。基礎を固めることは、その後の大きなチャレンジに必ず役立ちます。
そして何より、若いうちに人的なネットワークをいかに多く作っておくかが重要です。同じ世代や同じ業界の人だけでなく、ローターアクトクラブや青年会議所(JC)のような異業種・異年齢の人々と交流する機会に積極的に身を置いてください。そこで得た人脈は、数十年後に必ず成果に繋がり、困った時には助けてくれる仲間や知恵を貸してくれる人が現れるでしょう。多様な人との出会いが、新たな発想を生み、あなたを成長させます。
最後に、私から一つだけ伝えたいことがあります。それは「プロレスを見てほしい」ということです。プロレスは、人生や社会のあらゆるものが凝縮された「縮図」だと私は考えています。悪役がいて、正義役がいて、裏切りがあり、友情があり、時には仲間が敵対する。これらはビジネスの世界や人生で実際に起こることと重なります。「なぜこの選手は敵に回ったのか?」「このストーリーの背景には何があるのか?」と深く考えることで、世の中の仕組みや人間関係、そして自分自身の生き方にも役立つヒントが隠されています。アントニオ猪木さんの「道」の詩にあるように、「危ぶめば道はなし、踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ」という精神で、小さくまとまらず、思い切ってやりたいことをやって、悔いのない人生を歩んでほしいと願っています。

