起業1年目の絶望。12時間の手術の先に待っていた現実
──逆境経験について教えてください。
独立し、株式会社アイディアルズを設立したのが2018年。これから事業を軌道に乗せるぞ、とフル稼働で働いていた矢先のことでした。起業1年目、妻が病に倒れたんです。当時、子どもは5歳と2歳。仕事も、家庭のことも、そして一部の業務も妻に支えてもらっていた状況で、文字通り目の前が真っ暗になりました。
妻の病気は、100万人に1人といわれる稀な癌でした。都内の大きな大学病院ですら「うちではどうにもできない」と断られ、知人や伝手を頼ってようやく受け入れてくれる病院を見つけることができました。しかし、手術の順番待ちは数ヶ月先になるかもしれない、という状況でした。そんな中、急遽「数日後に手術の枠が空いた」と連絡があったんです。これを逃せば次はいつになるかわからない。私たちは大慌てで準備をし、妻は入院しました。
手術の予定時間は12時間。ただ無事を祈りながら待つ時間は、永遠のように感じられました。しかし、14時間が過ぎ、16時間が過ぎても、医師から声はかかりません。悪い予感が頭をよぎる中、17時間ほど経ってようやく呼ばれました。告げられたのは、「手術中に何らかの原因で大量出血が発生し、大脳の半分以上と小脳が壊死してしまった」という、信じがたい現実でした。
その瞬間、自分の頭がこれほど重いものだったのか、と思うほど、頭が持ち上がりませんでした。悲しいとか、辛いとか、そういった感情さえ湧いてこない。ただ、呆然とするしかありませんでした。
「何でもできる」への転換。物事を分解して見えた希望の光
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
数回におよぶ再手術などを経て、妻の容態は落ち着きましたが、私には仕事、2人の子どもの育児、そして妻の介護という、すべてが待ったなしの現実が待っていました。仕事の大半はお断りせざるを得なくなり、収入も激減。正直、感傷に浸っている暇なんてありませんでした。
何よりも大変だったのは、「何を、どうすればいいのかが全くわからない」ということでした。やるべきことは山積みなのに、全体像が見えない。どこから手をつければいいのか、このやり方で合っているのかもわからない。暗闇の中でもがいているような状態が一番辛かったですね。
しかし、この極限状態の中で、一つの気づきがありました。それは「できない、と思い込んでいることの大半は、やり方を工夫すれば乗り越えられる」ということです。仕事、家事、育児、介護。それぞれのタスクを細かく分解し、「これは自分でやるべきこと」「これはもっと効率化できること」「これは外部の力を借りること」と整理していったんです。すると、漠然とした不安の塊だった「やらなければいけないこと」が、具体的な行動計画に変わっていきました。
手足が動き、頭が働き、考えることができる。身近にやりたくても何もできなくなった存在がいるからこそ、「自分はまだ何でもできるじゃないか」と思えたんです。この経験を通じて、「できない」は能力の問題ではなく、単なる「思い込み」なのだと学びました。

人生を再構築した思考法が、企業の「見えない無駄」をなくす力になる
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私の仕事は、企業の「経営管理パートナー」として、経営者に伴走することです。大企業では経理・総務・法務…と分業されている管理業務も、中小・ベンチャー企業では社長や本業のある社員が片手間でやっているケースが少なくありません。そうした非効率な部分を、私が外部の視点から整理し、最適化するお手伝いをしています。
この仕事の根幹にあるのは、まさに逆境の中で培った「物事を分解し、再構築する」という思考法です。多くの企業には、「前任者から引き継いだから」「なんとなく必要そうだから」という理由だけで続けられている業務が数多く存在します。私はそれを客観的に分析し、「この業務は本当に必要か?」「もっとシンプルな方法はないか?」と問いかけ、無駄を削ぎ落としていきます。
上場企業とベンチャー企業、両方の組織を知っていることも大きな強みです。厳格なルールが必要な場面と、柔軟な運用が求められる場面を見極め、その会社の規模や文化に合った最適な仕組みを提案できます。社長が本来やるべき業務、例えば営業や社員とのコミュニケーションに集中できる時間を生み出すこと。それが私の提供する最大の価値だと考えています。
信じ抜く力が、道を拓く
──若者へのメッセージをお願いします。
今、何か困難な状況にいて苦しんでいる人がいるなら、伝えたいことがあります。それは、「大抵のことは何とかなる」ということです。その渦中にいるときは本当にしんどいと思いますが、どんな経験も、後になれば必ず笑い話にできます。そう信じて前に進んでいけば、人生はより楽しく、実り多いものになるはずです。
もう一つは、「自分がやりたいと信じることを貫いてほしい」ということです。私の『経営管理パートナー』という仕事も、最初は「そんな仕事で儲かるの?」とよく言われました。すぐに大きな利益に繋がるわけではないかもしれません。でも、社会にとって絶対に必要だと信じて真摯に取り組んできたからこそ、今があります。たとえニッチな分野でも、自分が信じた道をやりきれば、必ずニーズは見つかるし、評価してくれる人は現れます。自分の可能性を信じて、挑戦し続けてほしいですね。

