「因果応報」―自己中心的な成功の果てに訪れた、すべてを失う経験
──逆境経験について教えてください。
仕事とは「成功すること=稼ぐこと」だと信じて疑いませんでした。不動産営業職では、その執着心が功を奏し、高い成績を収めることができました。20代で管理職、そして雇われ社長へと昇進。自分の実力だと完全に天狗になっていましたね。もっと稼ぎたい、もっと自由になりたいという欲望のままに30歳で独立しましたが、その動機は「自分のエゴを満たすため」だけ。当然、そんな会社に人が集まるはずもなく、業績は右肩下がりに。それでもなお、スタッフや市場のせいだと他責思考を続けていました。
創業して10期目を終えようとしていた頃、ついに限界が訪れます。会社の存続が揺らぐほどの大きなトラブルに見舞われ、協業は解消、社員は去り、多額の負債だけが残りました。創業時から支えてくれた右腕でさえ、最後は独立という形で送り出すことに。すべてを失った時、ようやく言葉ではなく実感として「因果応報」なのだと理解しました。この結果を作り出したのは、他の誰でもない、自分自身の「在り方」だったのです。非常に苦しく辛い経験でしたが、自分を成長させ、変容させるために必要な出来事だったと感じています。
どん底で気づいたたった一つの真実。「在り方」がすべてを変える
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
この経験を通して学んだ最も大切なことは、「心を取り戻すこと」でした。私はこれまで“エゴ経営”をしていたのです。売上や結果ばかりを追いかけ、人の心を置き去りにしていました。でも、すべてを失ったとき、ようやく気づきました。壊れたのは会社ではなく、自分の“心”だったのです。だから私は、もう一度“心”を中心に置く経営、すなわち「心業再生」を志しました。
個人であれば生き方や哲学、会社であればMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)。周囲の評価や体裁といった他人軸ではなく、自分の内側から湧き出てくる本心と向き合い、本当にやりたいことをカタチにしていくことこそが、真に生きるということなのだと気づきました。
それまでの僕は、ダウン症の姉を守るために「しっかりしなきゃ」と自分を偽り、他者からの評価を気にして本来の自分を封印してきました。しかし、すべてを失ったことで、その鎧を脱ぎ捨てることができたのです。自分を信じ、内側から聞こえてくる声を大事にする。すると、「愛・感謝・調和」をテーマに、自分の心が「ルンルン」する仕事をしたいという純粋な想いが湧き上がってきました。大きな痛みと引き換えに、ようやく本当の自分を見つけることができたんです。

競争から共鳴の時代へ。物語を紡ぐ「ナラティブ・デザイナー」という新たな挑戦
──会社の強みや魅力について、教えてください。
私たちの強みは、失敗から生まれた“心の理解”です。私は今、「ナラティブ・デザイナー」として、人と組織の“心業再生”を支援しています。ナラティブ・デザイナーとは、“在り方”を“物語”に変え、“物語”を“再生”へと導く仕事です。企業や個人が「なぜ存在するのか」「何を大切に生きるのか」という問いに向き合い、その答えを一つの“物語経営”として現実化していきます。
過去の大きな失敗から得た「在り方」の重要性への深い理解こそが、今の私たちの最大の強みです。私自身が経営理念をお飾りのように捉え、失敗したからこそ、その本当の価値を誰よりも理解しています。社会が「競争」から「共鳴」へとシフトしていくこれからの時代、それぞれの会社や個人が持つ独自の物語こそが、人を惹きつけ、未来を創る力になると信じています。私たちの使命は、その唯一無二の物語をデザインし、世界に届けていくことです。
「君が、君の物語の主人公だ」―心が“ルンルン”する未来の見つけ方
──若者へのメッセージをお願いします。
私は今、「Happinessな物語の主人公であれ」というテーマで生きています。それは、“ルンルン”=心が自然に喜ぶ感覚を取り戻す生き方です。
「この人生で良かった」と心から思える日々を実感することが、何よりも大切です。そのために、皆さんにも自分自身にとことん向き合ってみてほしい。自分を信じて、愛してあげられるのは、他の誰でもない自分だけです。
「はたらく」ことは、人生の大事な一部。会社を選ぶときは、ぜひ「自分の心がルンルンするか」を基準に、人生を選んでほしい。ワクワクするような未来への探求心も素敵ですが、まずはコーヒーを飲んでホッとするような、日常の中にある「ルンルン」を大切にしてほしい。会社のMVVを見て、その言葉が社員や会社の雰囲気にどれだけ浸透しているかを感じてください。待遇面も大事ですが、それ以上に自分の心が喜び、才能や個性を活かせる環境が、幸せなキャリアの鍵だと信じています。


