どん底からの再起、そして新たな逆境
──逆境経験について教えてください。
私はかつて、新規事業の店舗運営で大きな挫折を経験しました。既存の2店舗が順調だったこともあり、海老名市に新しくできた街の賑わいに期待して3店舗目を出店したのですが、これが全くの誤算でした。お客さんが集まらず、毎月100万円以上の赤字を垂れ流す状況が続いたのです。経営層からも「もう無理ではないか」と言われ、ついに店舗統合、つまり事実上の撤退を余儀なくされました。しかし、賃貸契約は残っており、次に取り組む事業も決まっていない。まさに八方塞がりで、事業を推進した私としては、本当に焦りしかありませんでした。
そんな中、物件オーナーさんからは「出来る限りの協力はするから、何か新しいことを考えろ」と温かいお言葉をいただきました。そして、偶然にも内閣府が「企業主導型保育事業」という新しい制度で保育園立ち上げの募集をしており、更に当グループの居酒屋でアルバイトリーダーを務めていた須田さんが保育の経験を積んで戻ってきてくれるという朗報が舞い込みました。一番の決め手は社内の仲間から「子どもを預けられる保育園が欲しい」という切実な声が上がっていたことです。私自身も子どもを預ける立場であり、保育園の課題が「自分ごと」として深く響きました。これらが重なり、「保育園事業をやろう」と覚悟を決めたのです。
しかし、立ち上げた保育園事業も順風満帆ではありませんでした。特に2園目の保育園では、開園からわずか1年で、なんと10人もの職員が辞めてしまうという大きなトラブルが発生。本人の病気や家族の転勤対応などの退職に加え、根拠の無い噂による人間関係の悪化での複数退職が重なり、人員がギリギリとなって現場は崩壊寸前でした。私も保育士資格を取り、エプロンをして現場に入り、散歩や食事の世話をする日々。昼間は保育、夜は事務作業という、まさに身を粉にする毎日でした。グループ全体の信頼が失われ兼ねない、二度目の大きな逆境に直面したのです。
想いを伝え続け、現場に寄り添うことで得た教訓
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
二度目の逆境、大量離職という事態に直面した時、私が学んだのは「想いを伝え続けること」「目的を伝え続けること」の重要性でした。現場に入り、エプロンをつけて子どもたちと接することで、保育士や栄養士たちの仕事の厳しさや喜びを肌で感じることができました。そして、新しい職員を募集する際には、起こった事実を包み隠さず伝え、「私たちは子どもたちの笑顔のため、保護者の方の安心のために、こんな保育園を作りたい」という熱い想いを語り続けました。
一般的に「社長や役員は現場の気持ちがわからない」と言われる事が多いと聞きますが、私自身が現場に入り、保育士資格を取得し、同じ目線で働くことで、少しずつ理解が深まりました。そして、何よりも大切にしたのは、嘘偽りなく、ありのままの状況と目指すビジョンを共有することです。「この大変な状況でも、私たちの理念に共感し、一緒に頑張ってくれる人と働きたい」という姿勢を示したことで、それに共感し、「ここで働きたい」と言ってくれる仲間が集まってくれたのです。結果として、半年ほどで現場は落ち着きを取り戻し、以前よりも良いチームワークが生まれました。
この経験を通じて、「目の前の課題に真剣に寄り添い、自分ごととして本気で取り組めば、どんなピンチもチャンスに変えられる」という確信を得ました。そして、経営者としては、理念やビジョンを一度伝えて終わりではなく、常に、繰り返し、様々な形で伝え続けること。そして、自らも現場に立ち、言葉と行動を一致させること。これが信頼を築き、組織を強くする上で不可欠な教訓だと痛感しています。現在は一緒に苦労を分かち合い、そしてグループの想いを継いでくれている、須田さんが代表取締役として活躍してくれています。直近では子育て支援に関わる協定を小田急電鉄様とも結べるまでに成長しました。

地域に寄り添い、三世代を支える「ローカルインパクトカンパニー」を目指して
──会社の強みや魅力について、教えてください。
当グループの最大の強みは、地域に根差した多様な事業展開を通じて、赤ちゃんから高齢者まで、地域に暮らす全ての方々の生活を豊かに、そして笑顔にしようとしている点です。
具体的に保育園事業では、グループ理念に沿って「この保育園があって本当によかった」「この先生たちと出会えて良かった」と言われるような、一人ひとりに寄り添った保育を実践してくれています。また、先生たちが自分の子どもを預けながら働ける環境を整えることで、職員のライフワークバランスも支援しています。
その結果、海老名市で初めて保育園を立ち上げることができただけでなく、今では海老名市から病児・病後児保育事業を引き継ぐまでに成長しました。さらに特筆すべきは、再来年4月には当社初となる県の認可保育園と2つ目の病児・病後児保育事業を設立する予定です。これは、当社の保育事業が地域から高い評価を得ている証だと感じています。日々、園児や保護者の笑顔のために頑張ってくれている仲間たちに本当に感謝です。
そして小田急電鉄さんの協力の元、地域貢献活動にも力を入れています。定期的に開催する「衣服交換会」は、地域の方々のタンスの肥やしをリサイクルする無料ボランティアとして、大変好評をいただいています。他にも、地域の子育て支援団体とコラボしたイベントを開催するなど、既存の保育園の枠を超えた取り組みを展開しています。
そして、当グループとしての新たな取り組みが、高齢者及び障がい者のための生活支援・身元保証事業を行う「一般社団法人たていとの会」です。施設に入居する際や病院に入院する際に必要な身元保証、通院の同行、もしもの際の葬儀の手配や行政手続きまで、まるで家族のように寄り添い、生活全般をサポートしています。
最終的には、これらの事業を連携させ、「保育園に通っていた子どもたちが、将来親になり、そして高齢者になった時に、当社のサービスが人生の各フェーズで支えとなる」という「ゆりかごから墓場まで」の三世代支援構想を進めています。実際に、外部の介護施設さんとのコラボレーションで、保育園の園児がお年寄りを訪問したり、手紙を届けたりする活動も始めています。自社だけではなく、地域全体を巻き込み、共生社会を実現する「ローカルインパクトカンパニー」として、これからも地域に寄り添った価値創造を続けていきます。

人生を謳歌するために、自分の「理念」を見つけよう
──若者へのメッセージをお願いします。
仕事は人生の一部です。仕事が楽しくなくて、プライベートが本当に楽しめるでしょうか?私はそうは思いません。だからこそ、自分の人生の価値観や理念に合う会社を見つけることが何よりも大切だと伝えたいです。
そのためには、まず徹底的に自己分析をしてください。自分が「何をしている時が好きなのか」「どんな時に喜びを感じるのか」「どんな未来を創りたいのか」を明確にすること。そして、その価値観に共感できる会社を探し、実際に行動を起こしてほしいと思います。新しいことにどんどん挑戦したいなら都市部の企業も良いでしょうし、地元や地域に貢献したいと思うなら、地元の企業にもぜひ目を向けてみてください。
自分の理念がはっきりしていれば、どんな困難な状況に直面しても、それをピンチではなくチャンスと捉えることができるはずです。行動あるのみです。
また、私自身は事業承継の課題に直面している一人です。もし同じように家業を継ぐことや経営の重圧に悩んでいる方がいたら、一人で抱え込まないでください。様々な業種、様々な規模の経営者の方々と積極的に話をする機会を持つことが、何よりも力になります。本音で相談できる相手を見つけ、客観的な視点やヒントを得ることで、道が開けることもあります。私もそうして多くの社長さんから学び、支えられてきました。ぜひ、積極的に外に出て、多くの人と出会い、自分の進むべき道を見つけてほしいと願っています。

