仲間を失った代表としての苦い経験
──逆境経験について教えてください。
私はこれまでの人生で、会社の売上や利益という点で大きな逆境に直面したことは幸いにもありませんでした。しかし、経営者としての人間性や組織運営において、非常に苦い経験があります。それは前職で代表を務めていた時のことです。
当時、私は仕事ができない社員やさぼっている社員に対して、辞めてもらうための試行錯誤を常に模索していたのです。当時は「腐ったミカンは周りも腐らせる」と考え、会社の成長を考え、成果を出せない社員を排除するしかないと思っていました。
非常に厳しい態度で接し続けた結果、仕事ができない社員やさぼっている社員らからクーデターを起こされてしまいました。私がいない間に、その社員たちが親会社の社長や役員を集め、私の悪口を言い、「もうついていけません」と訴えたのです。会社は創業から破竹の勢いで成長し続け、毎年の増収増益と赤字0を継続。ライバル会社達との群雄割拠の中、プロダクトのシェアも当時は業界トップクラスまで引き上がっておりました。経営判断としては私の行動は正しい面もあったと感じてた反面、親会社から厳しい叱責を受けました。丁度株主総会も近かったこともあり、引き留めもありましたが、これも何か良いタイミングと思い任期満了に伴い私は退任し、新たな道を探すことになりました。ただ経営者として、厳しい経営判断を考える際、仕事ができない社員やさぼっている社員とはいえ、追い詰めるようなやり方を選んでしまったこと、そしてその結果として、私を信じて着いてきてくれた仲間を失ってしまったことは、私にとって最大の逆境であり、大きな失敗でした。

「真の組織論」と、人生を変えた友情
──逆境から得た教訓や学びについてお聞かせください。
このクーデターの経験は、私に大きな教訓を与えました。「サボってしまう社員、できない社員」をただ排除するのではなく、彼らも「モチベーションアップさせ、できるようにさせていかないと、企業は成長しない」ということに気づかされたのです。組織を構築する上で、これは絶対にやってはいけないことだと痛感しました。
このどん底の時期に、私を救ってくれたのが現在の共同創業者である親友です。前職を退任した時、私には借金があり、貯金もわずか24万円しかありませんでした。将来が見えない中で、親友に事の顛末を話すと、彼は300万円もの大金を、私の新会社(今の株式会社アウナラ)設立の想いに託してくれたのです。「困っているんだろう」と。また「株は佐伯が100%持てばいい」とまで言ってくれました。
結局、今は私が株式の大半を保有し、経営が軌道に乗ったタイミングですぐに親友に、私の保有株式分の金額は全額返済しましたが、親友のこの情に厚い行動が、今の株式会社アウナラの礎を築いています。私はこの経験から、「友達や周りの人を大切にすること」が人生において何よりも重要だと学びました。困った時に手を差し伸べてくれる仲間がいかに尊いか。そして、自分自身もそうした仲間を裏切らず、困った時には一番に手を差し伸べられる人間でいようと心に誓いました。彼の助けがあったからこそ、私たちは人事に課題を抱えない、強固な組織作りを進めることができています。
ニッチ市場の未来を拓く!薬局M&Aと8兆円市場への挑戦
──会社の強みや魅力について、教えてください。
株式会社アウナラの最大の強みは、薬局専門のM&A仲介という、非常にニッチで専門性の高い分野に特化している点です。私自身、前職で薬局向けの電子カルテ(薬歴)SaaS「メディクス」の販売会社の代表を務めていました。薬歴は、患者様の健康状態や服薬履歴を記録し、行政に提出することで保険収入を得る、まさに薬局の「心臓」とも言える重要なプロダクトです。このプロダクトに携わった経験から、薬局経営の深い知識と、大手から地場まで幅広い薬局とのネットワークを築くことができました。
薬局のM&Aは、通常の会社売買とは異なり、業界独自の慣習や査定ルール、引き継ぎプロセスが存在します。私たちはこの専門知識とネットワークを駆使し、クライアントの皆様に最適なM&Aを支援しています。現在、全国には約6万3,000件の薬局があり、その約9割が中小規模の薬局です。薬の納入価の引き上げや調剤報酬改定による経営圧迫など、業界を取り巻く環境は厳しさを増しており、独立開業のハードルも上がっています。
今後、私たちは8兆円規模とされる薬局市場で、M&A仲介だけでなく、バーティカルな多角化を進めていきます。そして最終的には、IPOを目指しています。これは私個人の目標でもありますが、何よりも業界に特化したM&A仲介会社でIPOを達成することで、会社としての信頼と信用をさらに高めたいと考えているからです。
ちなみに、社名の「アウナラ」はハワイ語で「こんにちは」「やっほー」という意味。前向きで明るい雰囲気で、お客様に気軽に声をかけていただきたいという思いを込めて名付けました。

人生を豊かにする「仲間」との絆
──若者へのメッセージをお願いします。
若者の皆さんへのメッセージとして、私が伝えたいのは「友達や周りの人を大切にすること」です。私自身、逆境に立たされた時に、最初に手を差し伸べてくれたのは、今の共同創業者である親友でした。彼が私に無条件で手を差し伸べてくれたからこそ、私は今の会社を立ち上げることができました。
人生のテーマとして「親孝行」を掲げておりますが、それと同時に「何があっても友達を見捨てない」ことを決めています。このことが紆余曲折、身に染みた結果として私を救ってくれました。だからこそ、皆さんも、困った時に助けてくれる友達や仲間をたくさん見つけること、そして何よりも、自分自身が困っている友達や仲間に真っ先に手を差し伸べられるような人間を目指してください。
そうすれば、きっと人生はうまくいきます。もちろん、これが唯一の正解とは限りませんが、人と人とのつながりを大切にすることは、どんな時代においても、皆さんの人生を豊かにする大きな力になるはずです。