小学生で生死を彷徨う。そして、父親の逝去。
──逆境経験について教えてください。
人生を振り返ると、一番の逆境は小学校のときです。1年生のときに交通事故で生死の間を彷徨うという経験をし、5年生のときに父が他界しました。少年期に自分自身や身近な人の“死”に触れる中で、今まで当たり前だったことが、実は必然ではないということに気付かされたのです。父の亡くなった年齢が43歳だったので、「仮に自分が若くしてこの世から旅立つことがあったとしても、悔いがないように生きる」という死生観が芽生えました。そこからは母親が4人兄弟を一生懸命育てくれた背中を見ながら、「自分も早く社会に出て働きたい」と強く思いました。そして母も父も営業職で起業家だったことが、今の私のビジネスの原点になっています。
高校卒業後、早く稼ぎたいと考えて、完全歩合制の大手通信会社の回線の営業などをしていたのですが、スタートダッシュで苦労した局面もありました。その後、エンジニアが15名ほどのITのベンチャー企業に、「営業第一号」として入社。3年目以降から結果が出始めて課長に昇進し、9年で営業本部長を拝命しました。
そこまでは良かったのですが、そこからコロナ禍という逆境に苦しめられました。2020年は部長になった年で、立場的にも「未達」が自分の中では許せない気持ちでした。そこでできることを精一杯やっている中で、降って湧いたようにパートナーさんから大規模案件の話が出てきたのです。当時経験したことのない新規事業も含めてのプロジェクトになったため、大変でしたが、そのおかげで売上を達成することもできたという出来事でした。
もうひとつ、前職での逆境経験をあげると、ある案件で大炎上したエピソードがあります。10万単位のユーザーのセットアップをするという案件だったのですが、要件がどんどんと変わっていきスタートそのものが遅れるという事態に。しかし、「納期は厳守」という至上命題の中、全社員が総出でそのプロジェクトに突き進んでいきました。その間には、クライアント企業の役員から叱咤激励があるなど、プレッシャーもありましたが何とかみんなの力で、そしてパートナーさんたちの尽力もあって、何とか間に合わせることができたのです。

少年期に感じた、人生のターニングポイント。
──逆境から得られた教訓についてお聞かせください。
少年期に死生観が確立し、父の死をネガティブなものと捉えることなく、ポジティブ思考への原動力に変換できたことです。それは私にとって、人生のターニングポイントといえる出来事でした。「命があるだけで丸儲け」という境地に、子ども時代に達することができたので、その経験が日々の仕事やプライベートで活かされていると感じます。
コロナ禍の逆境で得られたのは、「チャンスが来たときのために、常に準備しておくことが重要である」という教訓です。社内外での普段の行動はもちろんのこと、達成したいという気持ちの部分が強かったと記憶しています。お客様との関係や仕事の根回し、メンタルや体調を整えておくことが、最高のチャンスを掴むためには必要なんだと実感しました。
大炎上したエピソードからは、「為せば成るの精神」を学びました。クライアントが大手企業で、役員層の方とコミュニケーションを取る機会も増加。それまでは、大手の役員層と密に仕事を進めていく経験がなかったので、勝手に「大手企業の経営層は、雲の上の存在」と頭の中で思い描いていました。しかし、実際に話してみると、ときには厳しく、またあるときには優しいという「同じ人間だ」ということを認識する機会になったのです。その経験は、大きな自信へとつながり、自分自身が経営者になった今、強固な土台になっています。
──死生観に至るまでに、どのような精神の変遷があったのでしょうか?
父を失って泣いている兄と姉の姿や、それ以上に悲しんでいる母親の背中を見ているうちに、自分の立ち回り方を嫌でも考えるようになりました。これは末っ子だからこそのメンタリティかも知れませんが、元来の気質として「何をすれば、みんなのためになるのか?」を考えている子どもでしたね。母親自身も前向きな性格だったので、徐々に私自身の精神性もポジティブに整っていきました。
また、物心ついたときから母や父の仕事関係、叔父や叔母など周りに「こんな人間になりたい」というカッコいい大人たちがいたので、彼らを目標にできたことも、積極的に人格を磨くという心のあり方につながったのかもしれません。

卒業後もインセンティブが発生する、画期的なビジネス。
──会社の強みについて教えてください。
当社は、私がこれまで前職で11年間やってきたことの一つの集大成です。起業の背景にもつながるのですが、今の時代は終身雇用型ではなく、転職ありきの働き方に移行していると考えています。しかし一般的な企業にとって、退職後の社員に対して言葉で応援することはあったとしても、物理的にサポートすることは難しいのが実情ではないでしょうか。
しかし、当社は、3年間でビジネスキルを身につける研修を施すことに加えて、卒業を気持ちよく送り出せるための制度設計を編み出し、起業に至りました。それが「退職後も、インセンティブを受け続けられる」という独自の仕組みです。これは、11年ずっと「サブスク」の商材を扱ってきたからこそ生まれた発想です。
11年前は、まだまだサブスクが一般的ではなく、「一括で売ってほしい」という要望が多い時代でした。しかし時代は巡り、今では当たり前のものとして定着しています。サブスクというシステムは会社の利益にとって、安定した売上をもたらしてくれる最高の商材です。お客様にとっても、「最初に大きな金額を用意する必要がなく、アップデートし続けるサービスを得られる」というメリットがあります。
そんな双方に利益をもたらすサブスクですが、実は社員にとっては優しくない商材だと感じています。例えば、マンションの不動産営業であれば、一室販売することで、大きなインセンティブを受け取ることができます。しかしサブスクの場合は、1件あたりの利益が薄いため、汗を流した社員にまで還元されにくいのです。
そこでまず、当社では「サブスクの売上に対して、毎月インセンティブを発生させる」という制度を導入。退職後も、お客様がそのサービスを使い続けている限りはその半分を永続的に支払うというスキームで経営に挑みます。それが、私が目指している当社の強みであり、新しい働き方の一つの在り方だと考えています。
もっと未来の話をすると「世界中にこの仕組みを広げていきたい」というビジョンがあります。今、社会に目を向けると、格差が広がる一方という社会課題があります。会社だけが利益を出すのではなく、「全員が恩恵を享受する」という仕組みが機能することで、少しでも世の中の役に立てたらと真剣に考えています。
将来が不確かな時代。だからこそ、悲観にくれず全力投球を!
──若者へのメッセージをお願いします。
AIの登場により、「自分たちの子どもたちの時代に、現在の仕事はどれだけ残っているのだろうか?」と考えました。例えば、今の「詰め込み型の教育システム」は瓦解することでしょう。ただ、一方で「起業のチャンスだ」と前向きに捉えてチャレンジをしています。将来を考えると不安なことだらけですが、部活でも何でも一生懸命やりきることは、そのこと自体が報われなかったとしても、どこかで必ず役立ちます。
社会情勢やテクノロジーの進化など不確定要素が多い世の中で、悲観的に考えてしまう要素は多分にあると思いますが、今の自分を全力投球することでしか自らの明るい未来を切り拓くことはできません。私自身もそれを信じて行動してきましたし、それがステップアップできた大きな要因です。
もうひとつあげるなら、環境でしょうか。例えば、会社員として働く場合でも、「実績だけを重視してコミットメントを強要する会社」と「応援する社風が根付いている会社」とでは、将来への道筋や余裕がまったく違うものになると思います。当社では「全員が恩恵を享受する」という仕組みづくりに本気で取り組んでいますので、同じような志の方にお会いしたいです。
中には「やりたいことが見つからない」という方もおられるでしょう。そんなときには「逆引き」をオススメします。絶対になりたくない最悪の状態を想定し、「そうならないためには、何をすべきか」を考えて実行していくのです。そうすることで、結果として自分がやりたいことにたどり着くことができると思います。