アメリカでの出会いから始まったライター人生
――御社の事業内容について教えてください。
弊社は「組織ライティング」という独自のシステムで運営しているライター会社です。一般的なクラウドソーシングサイトとは異なり、ライター全員と面談を行い、得意ジャンルや媒体を詳細に把握した上で、お客様の案件に最適な人材をマッチングしています。特徴的なのは、1記事を複数名のライターで執筆・管理する体制です。専門案件では最大4名のライターがチェックに入ることもあります。
現在、100名以上のライターが登録しており、医療、不動産、法律などの専門分野にも対応できるネットワークを構築しています。単純に安い価格で受注するのではなく、品質を重視した適正価格での取引を心がけており、フリーランス保護の観点から契約書の締結や3ヶ月以内の振込保証も徹底しています。
――ライター会社を始めたきっかけを教えてください。
私がライターになったのは、20歳の時にバックパッカーでアメリカを旅行していた際の偶然の出会いがきっかけでした。現地で出会った方が東京でウェブメディアの会社を立ち上げたばかりで、「よかったらライターにならない?」と声をかけていただいたのです。当時は大学生で時間はあるけどお金はない状態だったので、オンラインで好きな場所でできる仕事というのがとても魅力的でした。
そこから7年間、大手キュレーションメディアで関西代表ライターとして活動し、累計1,000本以上の記事を執筆しました。実体験を基にした記事執筆を強みにしていたので、新しくオープンした商業施設やSNSで話題のスポットに取材に行き、写真を撮って記事を書くという日々でした。当時はまだAIもなく、テレワークという言葉も浸透していない時代だったので、先進的な働き方だったと思います。

AIとコロナ禍で迎えた業界の転換点
――逆境経験とそれを乗り越えた方法について教えてください。
大きな逆境として、まずAIの登場があります。ChatGPTが出た時は正直不安でした。「AIに仕事がとられる」と世間でも言われていて、私も「ライターは絶対とられるな」と思ったのです。長年続けてきた仕事がなくなるかもしれない不安がありました。
しかし実際にやってみると、弊社に相談してくる方は元々AIをNGとする企業が多いことがわかりました。AIはいろんなサイトから情報を引っ張ってきて記事を書くので、元の情報が間違っていれば間違った内容になってしまうリスクがあります。それを避けたいお客様や、AIを使おうと思っていたけど期待した品質に達しなかった結果、人間のライターに依頼したいという方が実は多かったのです。
もう一つの大きな逆境はコロナ禍です。私がずっと携わっていたキュレーションサイトは、新しくオープンしたお店の紹介や「おすすめプールスポット10選」のような外出を勧める内容がメインでした。緊急事態宣言で「外出しないでください」となった時、サイト自体が止まってしまい、私の大口取引もなくなりました。
――どのように乗り越えられたのでしょうか?
どちらの逆境も、マイナスに考えるのではなく「変化が必要とされる時だ、成長できる機会だ」と捉えるようにしました。妊娠した時も、プレイヤーからライターを組織化する方向に進みましたし、コロナでキュレーションサイトの仕事がなくなった時も、自分で営業して制作会社の専属ライターとして複数社と契約しました。
AIについては、敵対するのではなく共存の道を選んでいます。お客様には「日常的なコラムはAIを使って費用を抑え、短納期にした方がいい。でも医療系や法律系など精度が試される専門分野は、資格を持った人間のプロライターに依頼したほうが絶対にいい」と提案しています。現状、人間のライターにしか書けない文章ってまだまだあるので、そこをうまくAIと協業しながらやっていきたいという思いがあります。
――経営者として大切にされている価値観はありますか?
今も会社をやっているのは、自分のためというよりも、関わってくれているライターさんやクライアントさんがたくさんいらっしゃるので、そういった方々に恩返しをするためという気持ちが強いです。もともと起業願望があったわけではなく、別事業の会社を継ぐ形でこの立場になったので、徹底的に利益を追求するよりも関係者との幸せを重視する、一般的な経営者とは少し違うタイプかもしれません。
現在は仕事・家事・子育てを並行してやっているので、時間がめちゃくちゃ限られています。そのため優先順位をつけて効率化を徹底していますし、外注できることは積極的に人にお願いするようにしています。会社経営をしていると理不尽なことに遭遇することもありますが、いろんな経験を積んできたからこそ、そうした状況を見極めて決断できているのかなと思います。
ライター業界の未来を見据えた組織化戦略
――社名の「スイス」にはどのような想いが込められているのでしょうか?
これは実はとてもシンプルで、私の名前が「サトミ」なので、サトミの「S」と「ウィズ(with)」を組み合わせて「スイス」にしました。私とライターさん、そしてお客様が一緒に作り上げていくという意味を込めています。私一人では何もできないけれど、お客様やライターさんがサポートしてくれて、一緒に作り上げることでできているのです。
ロゴもペンと鳩をモチーフにしていて、ペンは執筆を、鳩は幸福の象徴を表しています。世の中には金額と価値が見合わないサービスを提供している会社がたくさんあります。企業の売上は上がっても、お客様が高いお金を払って効果を得られないのでは幸せじゃないですよね。だからこそ、ライターさんも仕事がもらえて幸せ、お客様も問題解決してくれるライターさんに出会えて幸せ、私も感謝されて見返りとしてお金をいただけて幸せという「三方よし」を目指しています。
――今後のビジョンについて教えて下さい。
短期的には、今年中に自社メディアを立ち上げる予定です。ライター会社なのに自社メディアがないのはおかしいと思っていて、ライターの認知度向上と、登録ライターの皆さんにお仕事を提供する意味も込めて取り組んでいます。
中長期的には、ライター向けの教育事業の強化も検討しています。AIスキルの向上など、ライターさん自身がスキルアップできるようなプログラムや教材を作れたらと考えています。ただし、ライターさんに大きな負担をかけたくないので、補助金の活用なども含めて適切な方法を模索中です。
――事業を拡大する上での判断基準はありますか?
3つの要素が揃った時にやると決めています。それは「人材」「資金」「明確な期間設定」です。バックパッカー時代は一人の体だったので、行きたいところにお金と時間があれば行けました。でも今はパートナーも子供もいて、会社にはお客様もライターさんもいる中で、「やりたいからやる」というだけでは絶対にできません。
必ず問題なくできるタイミング、お金、人材が見揃った上で進めることを心がけています。以前よりも慎重になりましたが、立場的にも環境的にも、責任を持った判断をする必要があると考えています。

多様な経験の積み重ねが今を作る
――最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。
若いうちにいろんな挑戦をしてほしいと思います。それが海外旅行なのか、ボランティア活動なのか、いろんなアルバイトなのかはわかりませんが、私は海外にも行ったし、ボランティアもいろんなところに行ったし、さまざまなバイトも経験しました。そこで得たものがたくさんあるので。
私自身は大学の4年間を「経験として使いなさい」と親から言われて、最低限の単位以外はボランティア、バイト、海外周遊に使いました。当時の年齢だったからこそ感じられたことがたくさんあって、10年以上経った今でも、あの時の経験は本当に良かったと思っています。