ブラック企業への転職で人生最大の逆境に。
──人生で逆境と向き合った経験を、教えてください。
根っからの負けず嫌いで、振り返るとたくさんあります。ただ、いずれの経験も現在の原動力になっていると思うんです。
中学から高校にかけて所属した吹奏楽部では、同じくトロンボーンを担当していた先輩の実力に追いつけないのが悔しくて、お小遣いを工面して、プロの先生が指導する教室に通いました。
大学時代の挫折もあります。留学先で各国の留学生と交流するなか、自分だけ英語が上手く話せずに落ち込んだので、発音から見直すために帰国後にツイッターで知り合った先生に教わりました。後から先生がハリウッド映画に出演されている大物俳優の方を教えている方と知って、驚きました(笑)。
社会人となってからはアクセンチュアの退職後、ブラック企業に転職した経験がありましたね。転職先での半年間は壮絶でした。代表者には蹴られるわ、上司には毎日ののしられるわで、絵に描いたようなブラック企業で、人生最大の逆境でした。
退職後の2〜3ヶ月ほどはうつ状態が続き、コンビニで店員さんと話すだけでも涙が止まらなくなるほど、追い込まれていたんです。日常生活がままならずに体重が30kgも増えてしまったし、ネットカフェでボーッと8時間も映画を見たり、図書館で本を読んだりと、ただただ時間をつぶすだけの毎日でした。
うつ状態からのチャレンジで生きる気力を。
──壮絶な逆境を、どのように乗り越えたのでしょうか?
転職先からの退職後は実家に戻ったんですが、単純にお金がなくなってきたのが自分にとっての転機でした。うつ状態で2〜3ヶ月ほど経ってから「さすがに働かないとまずい」と、危機感が募ってきたんです。
何ができるかを考えて、チャレンジしたのがゼロからのアプリ開発でした。会社員時代は、エンジニアやプロダクトマネージャーとして既存アプリに関わっていたので、ゼロからの開発経験がなかったんです。でも、自信を付けるためにもとチャレンジしたら、案外すんなり完成して。2018年夏からは、フリーランスエンジニアとなりました。
そこからは生きる気力を取り戻し、がむしゃらに働きました。エンジニアとしてGoogleに常駐できるようになり、ビッグデータやAIへの知見を生かして、国内外の企業で起きたデータベースのエラーなどに対応するエンジニアのポジションも獲得できたんです。1年ほど、フリーランスとして活動してから、2018年11月に現在のLangdemy株式会社を創業しました。
世の中で「音楽家」が当たり前の職業になれば。
──主力事業として「Langdemy音楽教室」があります。
スタートは2021年3月です。日本政策金融公庫とメガバンクからの融資を受けて、2021年7月にバージョン1を、2024年にバージョン2をリリースしました。ピアノやトロンボーン、声楽など、プロのミュージシャンと提携して、科学的根拠にもとづいた音楽スキルアップの環境をユーザーに提供しています。
SNSのヘッダーでも「音楽で、ご飯が食べれる世界をつくる。」と掲げていまして、弊社の重要なミッションです。僕自身、かつては音楽家として大成する夢がありました。でも、親からは「音楽で食べていけるのは一握りだ。音楽大学に行くのは認められない」と言われて、挫折したんです。
それならば、自分にできることで音楽界へ貢献したい。僕らのプラットフォームで音楽家が副業やアルバイトをせずに生活できる世界を作りたいと思い、サービスを立ち上げました。
社名の「Langdemy」は「Language Academy」の略で、日本語や英語のように「音楽語」が当たり前に浸透する世界をつくれるのではないかという、期待も込めています。当社のビジョンは「昨日までの特別を、明日からの当たり前に」ですし、数十年かかったとしても、将来的に音楽家が当たり前の職業として認知される世界を築きたいです。
音楽教育を中心に、グローバル展開も視野に入れています。2024年にはシリコンバレーでのオフィスも開設し、新たな拠点を開拓しました。世界的アーティストのサポートメンバーを務める方を招いてのオンラインレッスンも企画中で、2024年冬〜2025年春にかけて、スタートする予定です。
現在の収益は、IT活用やマーケティングのコンサルティング、受託でのシステム開発が大部分で、ナショナルクライアント向けのマーケティングオートメーションも強みとしています。ただ、これらにとどまらず両軸で、音楽事業での収益拡大も目指しています。
AIが台頭する時代をエンジニアとして生き残るために。
──最後に、若者に向けたメッセージをお願いします。
スキルのかけ合わせは、キャリア形成において重要です。僕の場合は、大学時代に専攻していた中国語、留学生での挫折をきっかけに学んだ英語、そして、エンジニア、経営者と、複数の経験をかけ合わせたことで、自分の希少価値を高められたと考えています。
将来、IT業界で活躍したいのであれば、エンジニアとしてプログラム言語を書く現場で働くのも必須ですね。特に大手企業へ入社すると、当初からいわゆる上流の現場にアサインされるケースもありますが、実際にコードを書く人たちの苦労を知らないと、例えば、上流として無茶苦茶な納期をエンジニアに求めてしまうなど、現場との摩擦が生まれかねません。たがいに疲弊しないためには上流と下流、いずれの苦労も知っているのが理想で、下積みを重ねるなら若ければ若い方がいいと思います。
エンジニアの世界では昨今、ChatGPTやClaudeなどの台頭で「将来、仕事が奪われるのではないか」という議論もありますが、僕はむしろ、人間の手間が減るメリットが大きいので、ポジティブに捉えています。ただ現状では、AIが生成したコードが完璧とはいえず、エンジニアが確認して修正しないと実装できません。
人間が介入する余地が残されている以上は、資格取得なども視野に常にスキルアップを図るマインドも大切だと考えています。
また、どれほどAIの精度が上がったとしても、人対人のコミュニケーションはなくならないはずです。スキルアップのためにも必要で、より視野を広げたいと思うなら、世界共通語である英語の勉強をおすすめします。僕自身も切磋琢磨はしていて、直近ではスタンフォード大学のオンラインサマーキャンプで、各国の人たちと話した経験が強い刺激になりました。