まるで「深海」を歩くような心地を経験した、立ち上げ期。
──逆境経験について教えてください。
一番大変だったと感じるのは、manebiを創業して最初に始めたビジネスでの出来事です。個人同士で学び合うCtoCプラットフォームを展開していたのですが、プロモーションに必要な初期投資などが足りておらず、ローンチ後にキャッシュフローで苦しみました。深く考えずに「マンパワーでなんとかなる!」とスタートしたものの、売上が立たないなかで事業全体が盛り上がらず、「勝ち筋」が見えてこない状況の約1年半を過ごしました。空気も無く光も差さない「深海」を歩くような心地でした。当初からエンジェル投資家にご支援していただき、歯を食いしばって頑張っていたのですが、資金は減る一方で自分を責めることも多く、メンタルが削られるような日々が続いていた記憶があります。また、2013年当時はスタートアップや資金調達が流行り、ポジティブなニュースが社会を賑わせていたことから、そうした成功と比較して落ち込む自分もいました。
そうして「給料の支払い前なのに、いよいよ資金が枯渇する」という事態が3回ほどありました。そのギリギリの状況を切り抜けた方法としては、自身のキャリアや強みの棚卸しをするなかで「経営層に対する営業が得意だった」ことに気づき、急遽“CtoC”ビジネスで培ったノウハウを“BtoB”に置き換えた、企業教育を軸とした新たなビジネスフレームを立案しました。そして、クライアントへ「オリジナルの教育システムを構築します」と商談し、受注して前払いで半金を振り込んでもらいました。その実績をもとに金融機関に融資を受けに行き、1社目は断られたものの、2社目の金融機関の審査が通って2週間後に着金があり、なんとか支払いに間に合う…といった、綱渡りのようなこともありました。
その後、現在のBtoBビジネスに舵を切り、「これからさらに成長するぞ!」というフェーズで初のベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達に挑戦したのですが、それまでの理念重視型のエンジェル投資家と、実績の数字に重きを置くVCとのスタンスの違いに驚いた記憶があります。
──また、起業のきっかけのひとつに、お母様への恩返しもあったと伺っています。
工務店の職人であり経営者だった父親が12歳のときに亡くなり、母親が女手一つでアルバイトを掛け持ちしながら、私たち兄弟3人を育ててくれたので、起業した理由に「苦労に報いたい」という気持ちもありました。今は、母親が好きな乗馬に一緒に出かけたりするなど、恩返しに勤めています。ただ、親孝行を最も実感したのは、私の結婚式のときに「願いがすべて叶いました」と、母親が泣いて喜んでくれていたという話を式場のマネージャーの方から聞いたときです。本当に胸が一杯になりました。
逆境があったからこそ、感性もビジネスも研ぎ澄まされた。
──逆境を経て得られた教訓について教えてください。
逆境があるからこそ、「自分が大切にしている価値観」や「人生の目的」などが研ぎ澄まされていきました。“なぜこの事業を始めたのか?”といった「原点」を再確認できる機会になり、「死生観」にも思い至ることができました。ピンチは自分に真剣に向き合うチャンスです。また順調なときは物事が上手く行っているので、問題点などに気づきづらいのですが、逆境になると「ビジネスモデルの脆弱なところ」といった本質的な課題が洗い出されます。
ほかにも「突然、幹部が辞める」「資金調達後に市況変動で、既存の手法がひっくり返る」といった突発的な逆境もやってきますが、それを経験して乗り越えることで無駄が省かれていき、自分の思考やメンタル、組織全体も“筋肉質”になっていくのです。特に、市況変動は直近の2022年の「スタートアップ冬の時代」が厳しかったです。それまでは「赤字でもいいので、拡大優先」という雰囲気から、「まずは手堅く利益を確保する」と180度方向転換をしたので、それに合わせるのに一苦労しました。
──逆境で気づかれた「原点」とは、どんなものだったのでしょうか?
大学時代まで、もともと夢や生きがいを感じられなかったのですが、就活中にある経営者に出会ったことで人生観が一変しました。社会貢献という理想論を掲げて実践し、さらにビジネスとして結果も出し続ける姿をみて「あんな素晴らしい経営者になりたい」と思ったことが原点です。夢ができてから書籍を読みふけったり、起業家のセミナーに通ったりするなかで、良い影響を与え合える「縁」の大切さを感じるようになり、「良縁が広がっていけば、世界が幸せになる」という信念が芽生えました。それをアップデートし、凝縮したのが当社のパーパスである「世界縁満」で、みんなで徳を積み、精神性を高めていくことを目指しています。
「死生観」については、ちょうど先日も社内で話題になり、「お葬式に来てくれた方がただ悲しむだけではなく“あんな言葉や理念をもらった”と言われる人生にしたい」という意見が出ていたのですが、私も同じ考えです。時代の流れを超えて後世に良い影響をもたらすことができる人物になるために、毎日研鑽に励むことが大切だと思います。
3,500社以上で導入済み。スキルもココロも磨き続ける。
──事業内容や会社の強みを教えてください。
事前にeラーニングで学んだ後に、実際にリアルタイムの研修を受けて密度の濃い研修を受講するなど、複数の学習方法を組み合わせた「ブレンデッドラーニング」の領域で各種サービスを展開し、すでにに3,500社以上で利用されています。当社が手掛けるオンライン研修教育システムの『playse.(プレース)』は幅広い業界の、新入社員から管理職に至るまで多くの層に対応。約5,000の教材や集合研修を連携させることで、最適な学びを受講できるのが特徴です。なかでも、派遣・警備・建設・製造・運輸においては、業界特化型のプログラムを提供しています。
また、生成AIも導入済みで、キャリアやスキルに関する質問や相談を打ち込むと、会話形式で体系的に役立つラーニングプランを複数提案します。さらに、動画の教材やマニュアルも生成AIが編集するツールを搭載。音声から字幕が出てくるので、その文字を消すことで自動的に音声の尺も縮まるなど、デジタルコンテンツを簡単に制作できるのです。加えて、テロップは100か国以上に言語翻訳も可能なので、海外展開や外国人人材の研修にも活用できます。
2024年1月に建築業向け教育事業を譲り受けたことで、当社にとって新しいクライアントとのご縁も広がりました。建設業はちょっとしたミスが命に関わる危険を伴う職種が多いのですが、教育はまだまだアナログな部分が多い上、外国人人材もたくさん活躍している業界です。そのため、「教育のデジタル化」「言語翻訳」といった当社の強みを存分に活かすことで大きなシナジー効果を見込んでいます。そして、「建設業に携わる全ての人が安全に働くことのできる環境づくり」に貢献したいと考えています。
海外に視野を広げ、普段は接しない学問を積極的に学ぼう。
──「もし自分が20代に戻ったら何をしたいか?」を想像して、若者へのメッセージをお願いします。
もし私が今20代なら、チャンスを日本に閉じ込めずに海外で学んでいると思います。現在当社では海外展開に力を入れているのですが、語学も含めて「若いうちにもっと下地をつくっておいたら良かった」と感じるシーンが多くあります。また、海外を経験することで日本という国を俯瞰的に見ることができる利点もあるのではないでしょうか。グローバルな環境で逆境に立ち向かい、それをサバイブする経験は自分を成長させるための糧になります。さらに広い視野を持ち、ビジネスの種を拾うきっかけにもなるでしょう。
あともうひとつは、哲学や倫理、宗教学といった普段は接することがない領域の学問を積極的に学ぶことで、思考や思想の拡張を促進させたいです。大人になって海外について学ぶようになってから、「宗教や信仰心」を意識することが増えました。例えば、アメリカに行ったときにキリスト教の教えが根底に流れているのを肌で感じ、無宗教といわれる日本人のなかにも、仏教をルーツとした仕組みやモラルなどが根付いていることを知りました。
逆境のおかげで“筋肉質”になった今、「世界を縁満にするハートテックカンパニー」として迷いはありません。精神性とビジネススキルの双方の持続的成長を目指し、未来に突き進んでいます。もし当社に興味を持っていただけたなら、一緒にご縁を紡いでいきましょう。