幼少期の逆境体験やコロナ禍での決意を経て、起業の道を選択。
──逆境経験について教えてください。
幼少期に父親が経営していた会社が倒産し、「極貧」というほどではありませんでしたが、お金の面で色々と我慢した経験があります。例えば中学生の時「海外留学をしたい」という夢があったのですが、金銭面の都合がつかずに断念しました。子どものころから事業主の大変さを肌身で感じていたので、就職先は「大手企業で会社員」という手堅い進路を選択。システムエンジニアとして、安定した環境で社会人生活をスタートさせました。そこで、ITやDXを用いた課題解決の手法を身につけ、クライアントの要望を汲み取るスキルなどを磨きました。そこでの知見を生かし、中小企業の事業主が経営に専念できるサービスとして“バックオフィス全般を代行するビジネス”を副業として展開することになります。
ただ、安定した環境を望んで大企業に入社したので、当初は「起業しよう」という気持ちは全くありませんでした。しかし、27歳のときにコロナ禍が一気に世界中を襲い、自宅待機を余儀なくされるようになったのです。そのタイミングで、テレワークが進んでいるなか、懇意にしていただいている社長のサポートがビジネスとして需要があると、可能性を感じるようになりました。また、父親が経営者であったこともこのサービスをやる意義を感じたきっかけのひとつです。立ち上がりは順調で、基本的に紹介でクライアントが増えていったので営業面での大変さはありませんでした。ただ、当初は業務フローが確立していなかったこともあり、クライアントにご迷惑をおかけしてしまうことや、業務委託のパートナーの責任感やモチベーションの管理といったマネジメント面での苦労を経験しました。
起業直後にあった大きな「逆境体験」は、ある制作物の依頼を受けたのですが、当時は相場感がわからずに市場価格よりも大幅に安い金額で受注してしまい、経営的なピンチを招いてしまいました。加えて必要な素材のやりとりが滞るなどといった事態が起こり、最終的に「制作費用を支払えない」という通告を受けたのです。すでに発生していたクリエイターへの支払いは、当社が自腹をきって対応しました。その案件はほかにも色々なトラブルがあり、大きな逆境を感じる出来事でした。
海外留学とインターンで得た価値観をビジネスに活かす。
──逆境を経験したからこそ得られたと感じる教訓などはありますか?
先述の制作物の件は振り返ると、私の経営ノウハウの未熟さゆえに起こった事態で、知人の経営者やクリエイターたちに助けていただき、危機を脱することができました。その後、金額や条件などを慎重に吟味し、詳細をお互いに書面で交わした上で受注する方針に変更。受注後は、案件の状況を詳細に把握するなど、トラブルを未然に防ぐ仕組みづくりを整えました。
また、業務委託のパートナーとの業務フローを確立し、現在では多様性を重視した働き方ができる環境づくりに取り組んでいます。最初は「アシスタント」から始めて、経験を積んで本人が望む場合は「ディレクター」のポジションになり、「アシスタントをレクチャーしながら、自分の業務を進める」という手法を取り入れています。現在、信頼できる仲間たちが活躍中です。雇用ではなく「委託」として迎えている理由は、「子どもがいるから、即対応は難しい」「介護と並行している」など、多様なライフスタイルに合わせて力を発揮できる契約形態だからです。ちなみにパートナーは94%が女性が占めており、「働きやすい環境です」という喜びの声を聞くと、うれしい気持ちになりますね。クライアントもそういった集中的な働き方を理解していただきながら、ご自身のコア業務に集中できると喜んでいただいています。
人間関係において、日本人は何かあったとき「自分の責任だ」と捉え過ぎ、「自己否定」に至る傾向がありますが、当社ではパートナーさんに向けた社内研修で「ミスがあっても、それは業務についてだけ」とハッキリ伝えています。なので、冷静に業務改善に取り組めばよいのであって、自分が傷つく必要はないと私は考えています。
以前、中学生の時に断念した「海外留学」を大学生のときに自分でお金を貯めて夢を叶えることができたのですが、多くの方の生き方に触れることができたおかげで、自分の価値観も大きく変わり、経営でも役立っています。留学先はフィリピンで、1年間英語を学びながら、インターンとして英語講師の管理業務などを手掛けていました。語学を学ぶだけではなく、「海外での仕事にチャレンジして達成できた」という、大きな自信につながった経験です。また、フィリピンの方と幅広く交流を深めていくなかで、「日本が近代化して、失ってしまったメンタリティ」にも気づかされました。例えば、フィリピンでは「おすそ分け」が当たり前の文化ですが、日本の都会ではあまり見かけなくなった光景だと思います。日本だと何か奢ってもらうようなことがあれば「お返ししなければ」という考えがすぐに頭に浮かびますが、向こうは「自分が好きでやっているのだから、見返りは求めない」というスタンスなのです。私も「関わってくださっている方々は他人ではなく、自分の一部」というマインドで、仕事においての人間関係も大切にしていきたいです。
将来はグローバル市場へ。国境を越えた人材活用も。
──現在、多岐にわたるサービスを提供されておられます。将来のビジョンを教えてください。
グローバル市場への参入と、地方への展開です。現在、海外についてはマーケティング調査中です。世界を目指す理由は、日本人が世界で活躍することの推進し、外貨を日本へ持ち帰りそれをビジネスに活用すること、より広い視野でマーケット獲得するためです。さらに、クライアントである中小企業の海外進出をご支援するなど、「より多くの価値を提供したい」という想いがあります。あとはHR戦略の観点からも、海外に住む日本人にパートナーになってもらうことで、双方にメリットをもたらす働き方を実現できるのではないでしょうか。
例えば、ITの世界では日本と海外の時間差を利用して、24時間ずっと開発を続ける手法がすでに確立されていますが、書類作成なども「帰宅前に海外に送って、翌朝出社したら出来上がっている」ということも可能になると思います。地方展開については、今のところ金融機関や商工会といった地方に強みを持つ組織や団体と連携しながら進めていきたいと模索しています。
当社の社名には「4つの星」という意味があり、そこには近江商人の「三方よし」に加えて、社会人の肩書を脱いだ個人一人ひとりが“自分自身も輝く”という意味で「四方よし」の想いが込められています。私たちがより多くの中小企業をご支援することで、経営者が自分の理想とするビジネスの追求に専念でき、組織全体に余裕を生み出すことができます。そうすることで、経営者も従業員も、大切な家族と過ごす時間が増えるなど、「輝きながら活躍できる方」を一人でも増やしていくのが、当社の理念です。
まずはチャレンジ。向いていなければ、また再挑戦すればいい。
──若者へのメッセージを、一言お願いします。
「起業したい」「何かにチャレンジしたい」と思ったら、まずは飛び込んでみることです。すると、意外に誰でもできることが多いのです。あとは、「続くか続かないか」だと思います。私の場合も、いくつかの逆境経験がありましたが、今の仕事がおもしろくて「続けたい」という気持ちのほうが強かったので、辞めたいと思ったことはありません。やはり、クライアントに貢献して感謝の言葉をいただけるのは、大きなやりがいです。仲間たちも楽しんで仕事をしてくれているので、それも私自身の糧になっています。
一方でチャレンジしてみてから「違うな」と感じたらスッパリと辞めて、別の道を探す潔さも必要だと思います。失敗して「もう自分は終わりだ」とへこたれるのではなく、「経験を積めた」と、再チャレンジすればいいのです。試行錯誤を繰り返して「自分が一生懸命になれる仕事」に出会い、それを頑張ってみると人生をおもしろく感じられると思います。