IT投資全般が止まるという苦境の末、次の一手へ。
──逆境経験について教えてください。
2011年に日本を襲った東日本大震災で受けた影響は、凄まじいものがありました。会社の経営が立ち行かなくなることも頭をよぎるほどの逆境でした。まず、各社がITに対する投資を一斉にストップするなど、ITも含めて日本の産業全体に暗雲が立ち込めたのです。当社の話でいうと、ある大手企業と取引をしていたのですが、その企業のちょっとした出来事が「不謹慎だ」と世間を賑わすような大事に発展してしまい、批判にさらされることになってしまいました。その大企業に対して、大規模なシステム導入の話があったのですが「自分たちのビジネスを見直したい」と立ち消えになってしまいました。当時は社会全体がそうした空気で、大手企業の既存事業が伸び悩んだり、新しいビジネスへのチャレンジに対して自粛を求めたりする風潮があったのです。
そのとき、当社が携わっていた開発プロジェクトは軒並みストップし、保守系の案件だけがかろうじて残った状態でした。経営的な危機を迎えましたが、政府からの助成金を活用するなどして会社の存続を守り抜くことができたのです。自粛の空気だけではなく、電力不足による「計画停電」といった物理的な影響もありました。製造業は工場を動かすことができないなど、大手から中小企業に至るまであらゆる業種の会社にとって厳しい時期でした。ただ、その経験が現在のビジネスモデルへの移行へとつながります。振り返ると2011年は、大変な逆境でした。
それ以外にも、細かい逆境は色々とありました。例えば、日本を代表する大企業の開発を一括で請け負っていたのですが、仕様があとからどんどんと出てくる状態で全然終わらなかったというエピソードがあります。2年ほど案件の推進に携わった末、「そのシステムを廃棄する」という結果に。苦労して作り上げたシステムが日の目を見ることがないというのは、技術者として切ないものです。ただ、その案件は既存システムを最低限活かしつつ、ほかのクラウドサービスとの連携がミッションだったので、そこで培ったノウハウが今のビジネスモデルの礎になっています。
既存の常識を覆した、「クラウドサービス」に進出。
──逆境があったからこそ得られた経験や教訓はありますか?
ビジネスモデルの見直しです。2009年ごろに期間限定で省エネ家電などを購入すると「エコポイント」が貰えるという国の施策があったのですが、その申込サイトがなんと「1か月」という短期間で構築されたことが噂になりました。既存の常識を覆すスピードで開発を実現したのは、CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援ツール)などのソフトを手掛けるSalesforce社のクラウドサービスだったことがわかり、当社も「クラウドツール」を扱う今のビジネスモデルに大きく舵を切ることになったのです。
社内でシステムを構築するオンプレミス型は、メンテナンスの煩雑さや人件費の高さ、属人化リスクなどがありますが、クラウドを使えばそうした課題が一気に解消します。また、試行錯誤のなかで、数多くのメーカーから発売されているデータ連携ツールについても、クライアントのニーズに応じて柔軟に対応できるノウハウを有することができました。逆境があったからこそ、今のサービスの全容ができあがったのです。
クラウドサービスを扱う今の業態に転換して以降は、企業の課題をヒアリングして社内のITやDX化を伴走型で推進しています。具体的には、経営者の想いも含めてクライアントに「どんなことを実現したいか?」を伺うことからスタート。そこから、70ほどのクラウドサービスを組み合わせて提案します。導入後は技術面のフォローはもちろんのこと、客観的視点を持ったコンサルが、当事者では気付かなかった課題などを見つけ出し解決に導き、効率と業績の向上につながる提案をするなど総合的にサポートするのが当社の特徴です。ちなみに、ひとつのメーカーに縛られることが無いため、国が実施している「IT導入補助金」を最大限利用できることも、当社の強みのひとつになります。
70のサービスを顧客に応じて組み合わせ、最適解を導き出す。
──会社の強みや想いなどを教えてください。
総合的にクラウドサービスを提案、提供している点が強みです。まず、経営層に対してコンサルタントが窓口となり、密なコミュニケーションをとって的確な提案を出来る体制が整っています。そして技術面でのフォローの手厚さに加えて、通常であれば同一メーカーから購入することが多い「会計・営業支援・グループウェア」といったITツールを、幅広いメーカーの70ものサービスから組み合わせて最適解を導き出して導入できるという、商社機能です。機能的にも金額的にもメリットが大きいのです。
想いとしては、ITやDX化が進んでいない中小企業をご支援したいという気持ちが強いです。クラウドサービス導入後、的確に効果をもたらしてきた結果、今ではおかげさまで300社以上の幅広い業種のクライアントと取引を重ねています。また、人材不足が深刻ななか、せっかくIT人材を育成しても「スキルアップ後、転職する」ということが起こっています。そこで「担当者だけが把握している」といった属人化を防ぐためにも、経営層に対するレクチャーなども重視しています。
営業方法は、ビジネスマッチングや紹介がメインで業績は好調です。また、コロナ禍で「重要なデータを社内のみに保存する」という従来の考え方が、「請求書や会計をオンラインで安全に処理するため、信頼できるクラウドサービスの利用が不可欠」という新しい常識へとシフトチェンジしました。社会全体でクラウドの需要が高まったことで、当社にとっても新たな展開の契機になりました。
多種多様な人たちとの交流が、人生を豊かにする。
──若者へのメッセージをお願いします。
世の中全体が「諦めモード」になっているような気がします。例えば、SNSなどを見ていると、他人の批判に終始しているひどい内容が目につき、暗い気持ちになることがあります。景気が低迷し続けた「日本の失われた30年」のせいかもしれません。「貧乏で食えない」というほどひどいわけでも無く、やる気がないわけではないけれど、どこか心が冷めていてぬるま湯につかっているような状態だと思います。
今は価値観も含めて、あらゆるものが多様化しています。資本主義においては、お金の循環が必要で「しっかり稼いで、楽しく消費する」ために、まず「働く」必要がありますが
、なかには「働きたくない」という方がいらっしゃるかも知れません。
でも私は「働かない人生はつまらない」と思います。社会人になると、それまでの「好きな人としか一緒にいない」という狭いコミュニティから、年齢も性別も考え方も違う多種多様な人たちとともにチームを組んだり、一緒に働いたりすることになるのです。多種多様な人たちとの交流は、人生を豊かにするものであると私は信じています。
あと、転職は悪いものではありません。自分のスキルを磨き、もし自分を高く評価してくれるところがあれば、どんどん上を目指せばいいと思います。会社側も「スキルがあれば年齢や転職回数などは業務に関係ないので雇用する」「雇用した人材はいつか辞める可能性がある」という、労働者の流動性を認識したHRの活用をしていくべきではないでしょうか。そうなればきっと、各々が個性を持って働ける環境になるはずです。
人生は肩ひじを張らず、気楽にチャレンジした方が楽しくなります。そして、行動することで未来が築かれていきます。迷っているなら、まずは一歩を踏み出してみましょう。