プライドの高さが邪魔をした、若かったあの時代。
──連続起業家としてご活躍されていますが、逆境経験はありますか?
現在も含めて、常に逆境との戦いです(笑)。ただ、若いときと今では、逆境の質が着実に変わっています。学生で起業したてのときは、とにかくがむしゃらでラーメン屋の経営や飲食店などを手掛け、葬祭の仕出しやコンサートのケータリングなど、クライアントの要望に応じて何でもやるスタンスでした。振り返ると「大人たちに振り回されていたな」と感じるような、大変だったことも多くありました。30歳くらいになり、「自分の武器や強み」に気づいてからは、軸を持った経営に挑めるようになりました。一方で、そうした苦労のおかげでリスクヘッジの仕方や重要性を学び、毎日のチャレンジのなかで時代の流れをキャッチする感性を磨くことができるようになったと思います。
事業を推進する上で、一番逆境に感じたのは「お金」の問題でした。実は20代半ばごろ、肉親の会社の倒産に伴って、連鎖破産といったような事態に陥り、銀行からの融資を受けることが難しくなってしまったのです。「この国は再チャレンジに対して厳しい」ことを思い知りました。例えば起業家が集うシリコンバレーであれば、「失敗は経験」にカウントされますが、日本では逆に烙印を押され、それが続きます。銀行からの融資を受けて、レバレッジを効かせたビジネス展開という選択肢は消え、現金商売になるのです。そうなるとキャッシュフローを「常に単月黒字を継続させる」ことが必要になります。新規ビジネスを立ち上げるときも、融資を受けている状態なら猶予期間を設けられますが、当社の場合は「その月に利益化する」ことが目標でした。ただ、現在はその状態から脱却し、ほかの選択肢も出てきたので第二・第三の創業期ともいえるフェーズに入ってきたと感じます。
連鎖破産を受けた直後に話を戻すと、当時は「打ち合わせのコーヒー代が気になる」状況が日常茶飯事であったにも関わらず、「社長という肩書き」に囚われていました。プライドの高さが邪魔をし、周りに気軽に相談できなかった時期は辛かったです。大人になるにつれて精神面も成長し、今では多くの方に物心両面にわたって応援していただき、助けられています。
「強靭なメンタル」の礎を築き、自らの強みを把握。
──逆境から学んだ教訓などはありますか?
苦労したおかげで「雨風をしのげる住居がある」「家族を守る」といった最低限のことさえ担保すれば、あとは“チャレンジするだけ”という心構えが身につき「超絶ポジティブ」になりました(笑)。先述したように、この国は失敗した経営者に対して厳しい商慣習がある一方で「日本にいる限りは、食いっぱぐれることはない」という安全な国なので、コツコツと頑張れば報われる環境です。
あと、経営者になってから気付かされたのは「自分の武器や強み」を活かせるフィールドが、人によってそれぞれ違うということです。私自身がそうだったのですが、カリスマ経営者の本などに触発され、「一気に事業を拡大して従業員も増やし、大企業になる」ことが成功への道だと信じていました。しかし、人間にはそれぞれのカラーや器があり、「大企業を切り盛りするのは得意だけど、実務は苦手」という経営者もいれば、「実務には強いけれど、大人数のマネジメントは不得意」というタイプがいて、私は後者だということに気づきました。
会社は自分が中心になって動かす組織なので、どのくらいの規模が自分に向いているのかを把握しておかなければ、自分を押し殺すことになるだけです。私の場合、50名ほどの従業員を雇用していた時期があるのですが、そのときはストレスが溜まる一方でした。今は、5~10名程度の少数精鋭の組織で、高いモチベーションを持つ事業主のパートナーたちとともにストレスフリーでビジネスを楽しんでいます。
もうひとつ、逆境経験が活きたエピソードで「ラーメン店経営で苦労して培った接客のノウハウが、次の全く違う業種の工事現場で役立った」ことがあります。具体的に説明すると、工事現場の職人の腕は確かなのですが、コミュニケーションが不得意な方が多かったのです。そこに飲食・サービス業で育まれた対人スキルを持った我々が参入したことで、自然と競合他社との差別化につながったこともありました。
トレカ×デジタルで無限大の可能性が広がるビジネス。
──「TORECO」は、どのような事業でしょうか?
人間の本能のひとつである「収集癖」を刺激して満足していただく、「トレーディングカード(トレカ)」を軸としたビジネスです。例をあげると、根強い人気のある「御朱印帳」がイメージしやすいでしょうか。自分が好きな御朱印帳を購入し、費用と時間をかけて全国にある寺社仏閣のスタンプを集めるというのは、根源的に「コレクション魂」があるからこそ生まれた趣味だと思います。トレカの発祥はアメリカですが、実はポップカルチャーとの親和性が高く、日本の資源を役立たせる玩具やツールになると考えたのです。
一般的なトレカは紙製のカードですが、当社ではそのカードの裏に12桁のシリアルコードを入れることで、デジタル化し「世界にひとつしか無い、アプリ版のトレカ」をユーザーは手に入れることができます。現在は「ラーメン」「寺社」「温泉」といった領域で展開していますが、これから幅広い業界への進出を狙っており、目指しているのはトレカの共通言語化です。例えば、紙製のカードのコレクションを持ち歩くのは大変ですが、アプリだとスマホがあれば全コレクションをアプリで閲覧できるので、好事家同士で見せ合いをすることができます。スポーツなど場所や時間が決まっているトレカは、特に希少性が高くなり、人気を博するようになるかも知れません。さらにトレカに紐づく情報をビッグデータとして活用したり、イベントを仕掛けるための起点にしたりするなど、可能性は無限大に広がっています。
全ての経験は将来の糧に。恐れるなかれ!
──若者へのメッセージを一言お願いします。
色々経験したなかでの結論として「とりあえずやってみる」ことを推奨します。例えば、どんなに野球が下手だったとしても、毎日練習をかかさずに考えながらバットを振り続けていれば、必ず上達します。私の場合は数多くの失敗によって、確度の高いリスクヘッジの手法や強靭なメンタルを手にいれることができました。そうした経験は「理屈」ではなく「経験」からしか学べないところがあると思います。
今手掛けているトレカのビジネスも、BtoB事業を経て「固有名詞になる、BtoCのビジネスへ参入する」と決意を固めました。自分たちでプロダクトを開発し、世の中に広めていく方がおもしろいし、ワクワクすることに気づいたのです。今後は「アプリのトレカ=TORECO」というイメージが浸透するように知名度をあげていきます。
最後にもう一点だけ。若い方は、起業した経営者の「キラキラしている」といった表層にだけ目がいきがちだと思います。しかし、みんなその裏では泥くさい経験をしているものです。光がまばゆいほど、その分影も濃くなります。それでも経営者が輝いて見えるのは、苦労以上の「やりがい」や「楽しさ」があるからです。ぜひ、恐れずにチャレンジしましょう。