激務とプレッシャーのなかで進み続けた、総責任者時代。
──逆境経験について教えてください。
起業したころ、当時の代表が営業や経営を担当し、私は制作の総責任者の取締役という役割でした。当初は制作の人数が足りず、Web制作のほとんどの領域を私が請け負っている状態のなか、複数のクライアントから「新規事業への挑戦」や「新天地への進出」といった大型案件が舞い込んできたのです。一世一代ともいえるような重要なプロジェクトを、当社を信頼してお任せいただけるという非常にありがたいお話でしたが、一方で「人的リソースが足りない」という逆境を迎えることに。その時は、昼夜を問わず制作業務に没頭し、何とか乗り越えることができました。当時は精神が麻痺しているような状態だったので気が付きませんでしたが、振り返ると考えられないレベルの激務をこなしていましたね。
また、そのころ「未経験で採用した社員が、2年ほどキャリアを積んで転職」という事態が繰り返されているという課題がありました。聞いてみると「会社の方針と合わない」「新しいことにチャレンジしたい」といったことが主な退職理由で、挑戦の場合は新たな門出を祝う気持ちで送り出せるのですが、社内の方針との不一致については改善する必要があります。そのため、当時の代表と話し合いをしていたのですが、「利益追求を大切にする営業畑の代表」と「クリエイティブを第一に考える制作畑の私」という間の溝は深く、平行線が続いていました。この方向性の違いは「どちらも正義」なので難しいところでした。
そして次に迎えた逆境は、前代表から会社を譲り受けた直後に資金がショートしたことです。銀行との付き合い方もわからない状態だったので、知り合いのつてで中小企業診断士のサポートを仰ぎ、何とか融資を受けることができました。
もうひとつ強く記憶に残っている逆境体験は、ずいぶん昔に手掛けた予算も規模も大きなプロジェクトです。完成予想図が定まっていない状態で進めてしまったため、納品が遅れてしまったのです。協力会社への支払いも、一旦当社が立て替えてから進めるという状態だったので、キャッシュフロー的にも危機を迎えた出来事でした。
大胆に「任せる」ことを知り、自分も組織も成長へ。
──逆境を経験したからこそ、得られた教訓などはありますか?
先述の納品が遅れてしまった事例で得られた教訓は、大きかったです。まず「クライアントに詳細な説明をして、理解を得てから進める」ことを徹底しなければならないという学びがありました。それまでは、「良いモノを作れば、認めてもらえるはず」という考えがあったように思います。加えて、“自分が抱え込み過ぎている”ことにも気づき、大胆にスタッフたちに業務を割り振り、任せることにしたのです。デザイン面から仕様やシステム改修といった全工程が、私の頭だけにある状態だったのでそれを切り出し、スタッフを信用して任せるようにしました。クライアントとのやり取りなども、全部私が窓口になっていましたが、スタッフに権限を委譲。このプロジェクト以来、会議の進め方も開発の仕方も大きく変わったので、大きな転換期でした。
権限委譲をする以前、打ち合わせや要件定義・設計といったフェーズから、コーディングといった細かい工程に至るまでを抱え込んでしまっていた理由は、「品質が下がることへの不安」だったと思います。特に「もし何か起こってしまった時、全てを理解していなければ対応できない」という恐怖心に追い詰められていたと思います。しかし、自身の気づきと、正直にいうと“キャパオーバー”してしまったことで「任せる」という方法を選択。そして、蓋を開けてみるとプロジェクトは滞ることなくスムーズに進んでいたのです。これで、ようやく“呪縛”から抜け出すことができました。逆にいうと“周りを信じていなかった”という自分の弱さを克服することにもつながりました。
なお、私が会社を譲り受けてから待遇面の向上と、社内をクリエイターたちが働きやすい社風にするという改革を実行することで、離職率も改善しました。また、経営者になってから「全部自分でやろうとせず、任せること」を、より一層意識して行動するようになりました。自分がやった方が早いと感じたり、口を出したくなったりするのですがそれだと組織としての成長が遅くなります。グッと堪えて、会社全体の発展を見守っています。
企業理解を徹底し、顧客の「Web事業部」に。
──会社の特長や強みを教えてください。
星の数ほどHP制作会社が存在するなかで当社を選んでいただけている理由は、シンプルに「品質」だと考えています。最近は、Word PressといったCMS(簡易的にHPを作れる仕組み)を使ったり、簡単なテンプレートに沿ったHPを「低コスト」で制作したりするHP制作会社が数多くあります。逆に、大きな資本を持つ企業であれば予算をかけることができるので、スタイリッシュなデザインのHPを、高い予算をかけて制作する競合他社もあります。そんななか、当社は「クライアントに寄り添い、独自の魅力を訴求すること」を徹底しています。
まずは、クライアントのビジネスを一から理解することからスタート。例えば車の部品を作っている製造業の場合、工場見学を通じて鍛造といった金属の加工技術やものづくりの工程、使われているマシンや部品の詳細などを肌感覚で掴みます。同時に、技術に詳しいクライアントの担当者から専門的な知識を学ぶことで、お客様と同じ目線で思考して提案や制作をすることができます。また、「制作して終わり」では無く、手厚いサポートも特徴です。
おかげさまで当社の案件は、既存顧客からのリピートや紹介、新規の問い合わせはHPからのご応募が100%を占めており、“営業のセクション”はありません。クライアントのなかには、一度他社を利用されてから戻ってこられるケースもあります。「レスポンスが早く、些細なことでも丁寧に相談に乗ってくれるアウラさんの良さに改めて気づかされました」とおっしゃっていただけるのは、うれしい経験でした。
やりたいことを真剣に見つけ出し、それを貫こう。
──若者へのメッセージをお願いします。
「決めたことは諦めず、地道にやり続けること」です。情報過多の時代なので、ちょっとチャレンジしてみて無理だと感じたら、次を探すことが正しいとするような社会の傾向を感じます。しかし、「継続したからこそ、目覚めることができた」という事例も多いと思うのです。あと、「何をしたら良いのかわからない」という方も多いでしょうが、それを見つけるのも「努力」だと思います。まずは、「おもしろい」と心の底から感じることに出会う努力をしてみましょう。ただ、それは友達とワイワイと話をするレベルで見つかるような簡単なものではないので、真剣に探し出して欲しいです。
私の場合は幸いなことに、Web制作という仕事に出会うことができました。器用なタイプではないので、22年間ずっと“突き詰める”ことを意識して行動してきたおかげで、今でも毎日を楽しんでいます。Web業界は廃れる技術も数多くあるなかで、生成AIの誕生など新しいテクノロジーが勃興してくるので、おもしろい世界に飛び込んだなと感じています。
ちなみに今後のビジョンとして、さらにクライアントのニーズに寄り添えるように出来ることを増やしていく方針です。Webを使った課題解決方法は無限大に広がっているので、会社としてさらに進化した集団を目指すべく、新しい人材の採用も考えています。日本を見渡すと、まだまだWebを有効活用出来ていない中小企業は多く、当社が役立てることはたくさんあるはずです。私たちと共に「成長したい!」と思ってくださる若い方に、ぜひお会いしたいです。