「年功序列」という壁に阻まれ、新天地へ飛び出す。
──逆境経験について教えてください。
常に逆境と対峙していると思いますが、「追い込まれてどうしようもない」という状況に陥ったことはないです。最悪の事態を想定し、常にリスクヘッジをしています。とはいえ、「従業員に背任行為をされる」といった、金銭にまつわるトラブルは起業後にいくつか経験しました。あとは、私が高額な給料を払い続けていた「営業の師匠」と慕っていた方から、手痛い裏切りにあったこともあります。今思えば“いいように利用されていた”末に、大きな借金を背負わされるという結果を招いてしまいました。どの災難も、首が回らなくなるほどの深手を負うことはありませんでしたが辛い経験でしたね。
起業する以前に苦労した点としては、そもそも私が就職活動をしていた時期が超就職氷河期だったことです。ほとんどの会社が「正社員採用」を見送っていた時期でした。そこでまず、ファッションが好きだったのでシューズショップでアルバイトを始めました。ところがもともと営業や販売は得意だったので、通常は3か月研修を受けるところを、1日目で「君はすぐに現場に出て大丈夫」と言われました。そして早期に正社員として登用され、売上を伸ばし続けて、管理職を任されることになりました。
そこまでは良かったのですが、社長直々に呼ばれて「店の立て直しをして欲しい」と頼まれたことから、逆境がスタート。店舗の業績を伸ばすという結果を残したのですが、「既存のやり方をガラリと変えて、さらなる改善に取り組めばさらに伸びる」という私の改革に向けた意見は“年功序列”という大きな壁に阻まれました。
最終的に社長に直談判までしたのですが、認められず失意のうちに会社を飛び出すことになるのです。頑張って結果を残しているのに「認められない」という経験は、精神的に大きなダメージを受けました。そこで現実逃避で、職業訓練校に通いだしたのですが、ひょんなことから講師に認められ「うちで講義を受け持ちませんか?」とオファーをいただきました。住環境に対するエクステリアなどの授業を受け持っていましたね。その後、友人の会社の立ち上げに参画、IT業界に進み当社を起業して今に至ります。
苦労の末に磨かれたのは「決断力」と「人間を見抜く力」。
──ご苦労から得られた教訓をどのように活かされていますか?
「他人任せにするのではなく、自分の意志で決断する」という信念に活かしています。あとはスピード感を持って事業を進めることを意識するようになりました。当社は現在5期目なのですが、実はビジネスの拡大に本気で取り組みだしたのは前期からです。それまでは「無理なく働く」をモットーにしており、ビジネスの進め方も「慎重に熟考を重ねる」というタイプでした。しかし、売上が急拡大していくなかで考え込みすぎると、案件がたまっていく一方です。素早い意思決定をすることで、次々とタスクを攻略していくやり方にシフトチェンジしました。この辺りは自分の力だけで変えられたわけではなく、ブレーンの方から「判断が遅いです。そのままだと停滞します」とズバリと言われるなど、ありがたい指導をいただいたおかげも大いにあります。
人間関係については、「凄そうな人」を盲目的に信じるのではなく、自分の目で確かめて人材をスカウトするようになりました。ある交流会で出会った私よりも10歳ほど年下の方の話なのですが、もともとシューズショップで働いていた経験がありそのことで意気投合。そして、お話をしている中で伸びしろを感じ、もともと役者をされていたこともあり“華”もあるので、口説き落として社員になってもらいました。
──「大きく舵を切った」ことで変わったことや、エピソードを教えてください。
めちゃめちゃ忙しくなりましたね(笑)。人材の採用もそうですし、自らクライアント先に出向いて営業にも注力しています。そして、必死で行動する中で信頼できる方々とのつながりができて仲間が増えました。今も虎視眈々と次を見据えて戦略を練っている最中です。あまりにも劇的に変わったエピソードをお話すると、私はルアーフィッシングが趣味でそれまでは週に3日ほどバス釣りのために琵琶湖に遠征していました。琵琶湖はギネス記録をレコードしたバスが釣り上げられており夢がある聖地なんです。しかし、そんな大好きな釣りもほとんどせずに事業に集中していました。
ただ、先日そんな私を経営者仲間がシーバス釣りに誘ってくれたので、久々に竿を出しました。自分では気づきませんでしたが、激務で疲れているのが表情に出ていたのを見かねて誘ってくれたようです。そうした「本物の仲間たち」に恵まれているのは、本当にありがたいことだと感じています。
時流に即したビジネスで、クライアントの多様なニーズに対応。
──会社の強みや魅力などを教えてください。
システムやアプリケーションの開発、企業ブランディングにつながるECサイトの制作、Web・SNSマーケティングなど、IT領域に強いので総合的なソリューションをご提供できるところです。社内にデザイナーがおりスムーズな対応も可能ですし、約80社の専門組織のパートナーたちとアライアンスを組んでいるので、柔軟にお客様の要望に応えることができます。オフショア開発も得意で、ITについては全領域を網羅できるところまで持ってきました。
あとは「サジェスト対策事業」にも力を注いでいます。企業を成長させることは大事ですが、同時に「鉄壁の守り」も必要です。ユーザーが検索をしたときに、自動的にネガティブなワードが提示されることがないような独自のノウハウを有しています。また「悪い書き込み」があれば、自動的に検知されるシステムも現在開発中です。
──貴社を立ち上げる前から、ITに関する知識やノウハウをお持ちだったのですか?
職業訓練校で講師をしたのち、IT関連の仕事をしていた仲の良かった幼馴染から「一緒にやらないか?」と誘われて、一緒にビジネスを始めました。Webサイト制作や通信機器など、時流に即した商材を扱っていたのでそこで通信やITに関する知識を身に付けることができました。ちなみに、その後私は友人のところから独立して当社を立ち上げたのですが、今でも関係は良好で一緒に飲みに行ったりする間柄です。
場数を踏むことで磨かれた「直感力」を、信じ抜こう。
──若者へのメッセージをお願いします。
私がつくった造語で「誠」という言葉に、「撃」を合わせて「誠撃」という言葉がありまして、それを軸に事業をしています。その真意は「お客様が求めているものを正確に把握し、的確なサービスを提供して応える」というものです。そこには一切の「嘘偽り」があってはいけません。それを口酸っぱくスタッフたちに伝えていたので、初期メンバーたちにはそれが浸透しています。だからまずは「誠実さ」は何をするにも前提として持っておくべき心構えです。
あとは「行動力」「スピード」「決断力」を磨くことも大切だと思います。場数を踏むことで何か壁にぶちあたったとき、解決策が直感的に頭に浮かぶようになります。そして、直感的に出てきた答えを「信じ切る強さ」も重要です。これは経験の数だけ成長できるので若いうちにチャレンジすることをオススメしたいです。そうやって、自分だけの「夢」を育み、その達成を追求してください。私の場合も現状に甘んじること無く、以前経験したことのある自動車販売事業、さらに船の売買にも事業領域を広げたいという野望を持っています。「見せかけのカッコよさ」ではなく、中身を鍛えてみんなから愛される魅力的な大人を目指しましょう。