裏切りやトラブルを経て「真の仲間」と出会えた。
──逆境経験について教えてください。
起業してすぐのころは、本当に色々な逆境を経験しました。経営者同士で飲みに行き、時間も深くなると、普段はあまり口にしないような失敗エピソードがお互いに飛び出し「実は私も、こんな目にあった」という、苦労談義で盛り上がることもあります。当社もそうですが、創業直後の逆境に多いのはやはり「お金」と「人」にまつわることではないでしょうか。私の場合も、「人にだまされた」というのが明確に自覚している逆境です。
例えば「納品したのにお金を払ってくれない」ということもありましたし、「共同出資して、新たな事業を始めよう」と誘われて、運転資金を渡したにも関わらずまったく事態が前に進まないといった事態に巻き込まれたこともありました。このときは、「相手が逃亡しそう」という情報をいち早く仕入れることができたので、優秀な弁護士さんと連携を組んで先回りし、持ち逃げを防ぐことができました。当時、20代でしたが必要な情報を足で稼ぐといった「ちょっとした探偵」のような経験をしました。ほかにも「二度あることは三度ある」じゃないですけど、先述の2つの逆境のあとに「ある会社の役員への就任を打診されて参画。しかし、仕事をしているのに一回も報酬を払ってもらえなかった」といったこともありました。3つ連続で心労が重なったこともあり、個人的には一番苦しかったです。
ただこうした経験は、創業期には結構「あるある」です。独立した若者たちのところに寄ってきて、弱っているときにつけ込んでくるような“悪い人たち”というのは一定数存在します。それが続くと、人間不信に陥ってしまいますが、私の場合は何でも相談できる顧問に参画してもらい、信用できる仲間たちを増やすことで乗り越えることができました。もちろん、「だまされた」ことはつらい記憶ですが、高い勉強代を払うような苦労があったからこそ、「信頼できる関係性の重要さ」について身をもって知ることができましたし、人を見る目も養われたと思います。そして「最も大切なのは、仲間である」ことに、逆境を通じて気付かされました。
逆境経験で得た「人間の本質」を見極める力。
──逆境を経て学んだ教訓はありますか?
万が一のことがあれば、自分が出ていき「最後の砦」としてみんなをまとめて、リーダーシップをとるというスタンスを忘れないということです。徐々に実務から離れつつありますが、何かがあった場合は今までのスキルや経験を総動員して、私も一緒になって問題へ立ち向かう覚悟です。
あとは、感情や時の流れといったような「不確定要素」に偏りすぎないように心がけています。そうした考えに至ったきっかけは、実際に部下のステップアップになるだろうと任せた案件があったのですが、少し荷が重すぎたという事例があったからです。そうしたなかでも、親身に寄り添いサポートしながら、今一人前になった社員も在籍しています。
あとは、シンプルに「だまされてきた経験」は大きな教訓と学びに繋がっています。信じられないことかも知れませんが「これから頑張ろう!」という方に声をかけて、詐欺まがいなことを働く人物は、意外に身近に存在しているものです。目抜き通りのオシャレなビルに事務所を構え、一見ちゃんとしたように見える企業が「実は巧妙な手口で詐欺行為を行っていた」という話がゴロゴロと転がっています。
若い時の逆境経験のおかげで、「パッと見の派手さ」というようなものに惑わされることはなくなりました。自分の中の芯を強く持ち「この人は心地よい言葉を吐いているけれど、信用はできない」という本質を見抜く力や人を見る目が磨かれたのです。以前は「共通の友人の知り合いだから」という理由で受け入れていたこともありましたが、その人自身の経歴や発言に基づいて、「組める相手か、そうじゃないか」を冷静に判断できるようになりました。そのおかげで現在は、顧問や社員、取引先にも恵まれ「信頼できる関係性」の輪の中でビジネスを推進することができています。フリーランスの方からの問い合わせも、当社の理念に共感する方が応募してくださり、グッドスパイラルを描けています。
低コストで潜在顧客にリーチする「AIハンソク」をリリース。
──会社の強みや、独自の自社プロダクトについて教えてください。
芸大でデザインを専攻したエンジニアという「二刀流のエッジ」があるので、UXやUIを最大化するフロントエンドの作り込みといった、“デザインに強いシステム会社”という評判をいただいています。ブランドECサイトや電子チケットの開発、DX・マーケティング支援など豊富な実績があります。クライアントワークとともに、現在注力しているのが自社開発で、昨年11月には独自のプロダクト「AIハンソク」をリリースしました。
これは、低コストで簡単に個々のユーザーの好みや行動パターンに基づいてカスタマイズされたコンテンツを実現できる、AIレコメンド搭載のLP作成サービスです。潜在顧客の獲得に繋がり、新規顧客が3倍になった事例もあり、「AIハンソク」の導入をきっかけにほかのビジネスへと発展するケースもあります。
当社が大切にしている指標のひとつがLTV(顧客生涯価値)です。自社プロダクトで常に顧客と関わり合いを持つことでクライアントとの関係が育まれ、相談してもらいやすい関係性ができていると実感しています。今後も自社プロダクトの開発を推進することで、当社としては「正社員の仲間」をお迎えして、会社の拡大を目指したいと思っています。
常に心の中にある理念は、クライアントと「共創・伴走する」ことであり、ともに成長することです。「言われたことだけ開発する」のは、システム会社にとって本質的ではありません。あくまでも課題解決や、お客様の要望に応えるための手段です。
ポジティブサイクルを生み出せる人になろう!
──若者へのメッセージをお願いします。
まずは「リスクや変化を恐れずに、行動する」ということです。「今の自分は、これしかできない」と勝手に決めつけるのではなく、その境界線を飛び越えてください。私は「身の程を知る」という言葉が嫌いです。あと、「石の上にも三年」という考え方もナンセンスです。成功者と言われる方々は、誰よりも先に行動した結果として果実を得ています。だから、誰かのレールや妙な常識に縛られないで欲しいと思います。「チャンスを得てから動く」のではなく、好機を積極的に探しにいきましょう。そうやってもぎ取ったチャンスを、死にものぐるいで達成することで社会からの信頼を勝ち取ることができます。
そうすることで、いずれ自分だけではなく周りの人たちも幸せにできる実力を身に付けることができます。言わばライスワークからライフワークへと進展するのです。若い方たちには、そうしたポジティブサイクルを生み出していける人間になることを目指して欲しいです。そのために必要なのは、覚悟を持って自分自身を磨き続けてください。そうすれば自然とステップアップし、高みに到達できます。
なお当社の場合は、「やりたい」と手を上げた社員には案件を任せます。それで仮にスムーズにいかなかったとしても、最終的にお客様からお叱りの言葉を受けるのは、代表の私の仕事です。「期待を持って任せる」というスタンスをブレることなく続けていきたいです。