経営者としてぶつかった「30人の壁」。
──逆境体験と、それを乗り越えた方法について教えてください。
一番の逆境を感じたのは、当社のCOOとしてコロナ禍のなかで増員した従業員たちとの関係性の構築です。それまで、リファラル採用の従業員が15名ほど活躍する組織だったのですが、事業拡大に伴って約2倍の人材採用に動くことになったのです。間口を広げた新規採用を実施し、優秀な人材が入社してくれたのですが、そこでいわゆる「会社組織、30人の壁」にぶち当たったのです。15名のころは意思の疎通がスムーズに図れていたのに、30名になってからは「右に向かおう」とオーダーしていたことが最終的に「左に行け!」という指示に変わっているような事態に直面します。
当初は「大ごとにはならない」「自分のキャラクター的にも大丈夫だろう」と軽視していたのですが、突如多くの社員から「辞めたいです」と宣言されるという組織のピンチに見舞われることになるのです。当時、経営陣は3名体制で非常に仲が良く、気軽に冗談を言い合うような関係性だったのですが、本人たちが知らないうちに従業員の間で噂や思惑だけで派閥が出来上がっており、私が気づいた頃はもう修復不可能な状態でした。それが忘れもしない金曜日の話で本当に落ち込んだのですが、改善に向けてその週の休日にオンラインで今回の件についてヒアリング行いました。すると、日頃のコミュニケーション不足という課題が浮かび上がってきたのです
そこで、「1か月に1回1時間、私が全社員を面談する」というやり方を導入し、事態の収拾を図ることできました。しかし、「自分の言葉の選び方ひとつで、退職者が出てしまうかも知れない」という大きなプレッシャーは常にありました。年上の社員が多かったので、特に気を配っていたことを記憶しています。面談が怖くなり、人間不信のような状態にも陥って体重も増加しました。ただ、これから組織も拡大していくなかで“全ての社員から気に入ってもらえるのは無理だ”ということに思い至ってからは気持ちが楽になりました。
プライドは捨てて組織を率いるという、COOの役割。
──逆境から得られた教訓について教えてください。
先述した以外にも「7回の転職」という経験も、逆境のひとつかもしれません。一度大手通信グループ企業で営業職を経験した以外の会社では、基本的に“ナンバー2”を任せてもらうことが多かったです。そこで“現場の気持ちを忘れている経営者の会社は居心地が良くない”と感じ、新天地を探して転職を重ねていました。また、当社に入った直後「売るサービスそのものが無かった」というのも、逆境だったと思います。
ただ、当社の場合は共通の知人経由で代表の田中CEOに引き合わせてもらい、その人柄や「現場を大切にする」という理念に共感して2人目のメンバーとしてジョインしていたので、「ゼロから頑張ろう!」という気持ちの方が強かったです。そうした経験は、例えばSEOの会社で働いていたことが、現在当社が基軸としているASO(アプリストアの最適化)のビジネス領域へ進出するきっかけになるなど、すべて自分に役立っています。
あとは、「変なプライドを捨てて割り切ること」も、逆境から得られた大きな教訓です。謙虚さや誠実さを大切にして従業員の意見はしっかりと吸い上げつつ、自分の意見もCEOに伝えますが、トップが「こうする」と意思決定した後は、全力で率いていくことがCOOの役割だと気付かされました。時には、そうした姿勢に対して従業員から“嫌われる”ということがあるかもしれませんが、そんなプライドはかなぐり捨ててやり切ることが重要です。
──リーダーシップを発揮された局面での、エピソードはほかにありますでしょうか。
少し前に、当社始まって以来の「月の利益が急に大きく下がる」という緊急事態がありました。その時、私は現場を離れていたのですが急遽現場に出て陣頭指揮を執ることに。まずは状況を把握し、メンバーたちを鼓舞し続けることで早々に復活へと導くことができたという事例がありました。
原因はスマホアプリの配信プラットフォームのアルゴリズムの変更でした。そこで対応策として新しいメニューを開発し、提案を重ねることで成果につなげたのです。これまで培ってきた豊富なノウハウがあるので、状況分析も打ち手の立案もスムーズにいきました。今でも、毎日スマホでアプリの動向をチェックしています。
魅力がある商品に注目させる。マーケティング×データ分析。
──COOとして持っておられる“信念”を聞かせてください。
一般的なマーケティング手法では、例えば「コーヒーを売りたい」場合に、「どのように見せるか」「どんな風にアプローチするか」が起点になると思うのですが、それが大嫌いなんです(笑)。私のマーケティングの感覚としては、「どこを変えれば売れるようになるか」を追求する方が正しいと思っており、結論として「売りたくないものを、無理に販売しない」というスタンスを大切にしています。それは子どもの頃からずっと思っていた感覚ですね。ASO事業でも「魅力があるのに、目立っていないアプリ」をより多くの人々の目にとまるような施策を行なうことで、輝かせることができたときに達成感を覚えます。
──会社の特徴や強みなどを教えてください。
一例をあげると、今スマホで最もダウンロードされている「ライブ配信」というアプリがあります。誰でも気軽にライバーになることができ、聴きに来た方と交流ができることが特徴で、当社はとあるクライアントから売上拡大を任されていました。たくさんの競合アプリやライバーが乱立する中、「教育分野で活躍するライバーの投げ銭」に注目し、その中でもある分野に特化したキーワードを定めることで、クライアントをサポートしました。こうした思い切ったプランニングができることが当社の特徴であり、その礎となるデータ分析が強みです。
実はこのデータ取得にかかる金額は高額で、リサーチ会社から購入するのですが数百万円台後半になります。ただ、その分詳細で正確です。着実なデータに基づき戦略を立て、さらに培ってきた豊富なノウハウというプラスαがあるので、当社のASOには自信を持っています。
──また、案件の6割が海外という、グローバル展開をされているとお伺いしています。
海外企業が開発したアプリを日本で展開したいケースや、逆に国内の会社が海外進出したいときのサポートも行なっています。そのため、年に数回は海外の大規模イベントなどに出向いて、コネクションづくりに注力してビジネスの種を探しています。協業パートナーや日本の総合代理店という立場でビジネスを推進することもあります。
大切なのは「どんな会社か」ではなく、「誰と」働くか。
──最後に若者たちに向けて、一言メッセージをお願いします。
私の考えでは「どの会社で働くか?」よりも、「誰と働くか?」を追求した方がやりがいや幸せにつながると思います。どんなに有名な企業であったとしても、「嫌な上司がいる、楽しくない組織」だとつまらないじゃないですか。私の理想とする上司像は、圧倒的なカリスマ性を持ちつつも「弱みを見せてくれるタイプ」です。無理して格好をつけようとする人は苦手です。あとは、「転職はどんどんしても良い」ということでしょうか。まだまだ日本には「何回も転職をするのは悪」という風土が根付いていると感じますが、海外では自分のやりたいことや適正にあった仕事を探すための転職は当たり前のことです。
あとは、個人的な感想として「一人よりも、若いうちは組織で仕事をするほうが豊富な経験が積める」と考えています。自分の納得のいく組織で活躍するために、チャレンジをしてください。なお、当社では多士済々のメンバーたちが大いに活躍中です。近い将来、採用も実施する予定なのでご興味があれば、ぜひあなたもメンバーに加わってみませんか。