燃え尽き症候群から一転、1日10時間の勉強で資格取得。
──人生における「逆境経験」を教えてください。
「これぞ逆境!」といった大きな経験はないのですが、人生の節々で苦労を感じたことはあります。例えば高校時代の寮生活。それまで家でぬくぬくと育ててもらっていましたが、全寮制のサッカーの強豪校に進学したことで経験した「初の集団生活」はつらかったです。まず、部屋のつくりにビックリ。2~3畳の部屋で家具も何もなくガランとした空間でした。周りのみんなは家具などを取り揃えた状態からのスタートでしたが、私は「徐々に揃えていけばいいだろう」と考えていたので、環境が整うまでの1か月間位は耐えていました。ほかにも、「寮で出されるご飯が口に合わない」「全国大会を目指すうえで必要な厳しい練習」「先輩との上下関係」などを当時はしんどいと感じていましたが、今となってはいい思い出です。
あとは、大学生のときの宅建の勉強です。これは、高校時代よりも苦労しました。それまで学業は二の次でサッカーに人生を捧げてきたので、勉強に専念したことがありませんでした。大学時代も前半はその反動で「サッカー燃え尽き症候群」のような状態に陥っており、学びよりも遊ぶことに力を注いでいたのです。しかし、特別授業のような形で「行政書士と宅建の分野で、一番合格者を出している」という外部講師の方の話を聞いて「資格を取ろう!」という謎のスイッチが入りました。そこで宅建に受かるための勉強を始めたのですが、周りはもともと勉強に長けている人たちばかりだったので、授業がないときには「1日10時間ほど勉強する」という生活をして、低い合格率の中で無事に宅建資格を取得。振り返るとこの期間が一番きつかったかも知れません。
そして、就活でも壁がありました。大学生のころ、個人事業主として営業代行やイベント、バーの運営といった活動をしていたものの、最初から起業する気はなく一般企業に就職するつもりでした。しかし、卒業後に働く予定だった会社でインターンをしているうちに、経営層の言動や行動と自分の価値観との乖離を感じるようになり辞退しました。ほかには、学生時代に「一緒に会社をやろう」といっていた友達と、仕事に対する方向性の違いでそれぞれの道を選ぶことになったことも、ちょっとした逆境体験です。ちなみにその友人とは今でも仲良しです(笑)。
チャレンジすることで、世界も視野も広がった。
──逆境があったからこそ得られた「教訓」はありますか?
「やりたいことがあったら、とにかく試してみる」ことです。学生時代に誘われたバーの運営も「おもしろそう」と感じて、すぐに行動に移していました。経験やノウハウはゼロでしたが、業務スキルなどは走り出してから覚えればいいことを学びました。ほかの事業も、チャレンジ精神で突き進んできました。すると、実地で得た知見が事業に活かされ、徐々に形になっていくという経験を得ることができました。その中で、もちろん失敗や逆境もありますが、それが自分自身の糧になるのです。そうした実体験がなければ、大学卒業後に就職を選ばず「いきなり起業する」という大胆な選択をすることはできなかったかも知れません。
また、経験からの学びは「新たなビジネスのアイデアの種」にもなります。例えば、将来的に「志のある方や、起業家たちが集まるシェアハウス」の事業をやってみたいという構想があります。これは先述した寮生活が原点です。同じ夢を追いかけて長くて濃厚な時間を共に過ごした仲間たちとの関係は強固で、今でも一緒に遊んだり語り合ったりするなど深い絆で結ばれています。高い目標を持ち、それを応援しながら刺激しあえる空間を提供する不動産事業はおもしろいと思うのです。付け加えると、「会社を立ち上げてすぐの起業家は、家を借りづらい」という現実的な課題の解決にもつながり、スタートアップ支援の後押しにもなります。
──不動産事業をはじめようと思われた理由と、起業したきっかけを教えてください。
もともと高い収益が見込めそうな不動産事業に興味がありました。独立するきっかけは学生時代の個人事業主の経験が基盤になったとともに、周りの影響も大きいです。中学時代には後に著名人となる友達が「卵」の状態で近くにいたり、すでに起業している友人もいたりしました。そんな環境だったので、「自分も何かを成し遂げたい」という気持ちが原動力のひとつになっています。
規模の追求より、地域再生に焦点をあてたビジネスを。
──会社の強みや魅力を教えてください。
現在、経営している「株式会社エミシアエステート」では主に2つの事業を展開しています。1つ目がエミシア不動産で、「完全オンラインで完結するお部屋探しサービス」を「仲介手数料最大0円」で提供するのが特徴です。2つ目の事業は「不動産紹介エージェント事業」で、こちらは、従来の店舗型の不動産会社とは異なるサービスです。当社のエージェント事業では物件を紹介すると、担当者にダイレクトにインセンティブが入ってくる仕組みなので中間コストを抑制することができ、借り手は「同じ物件でも一番安く借りられる」というメリットがあります。
ノルマも拘束時間もなく、自分のタイミングで働けるので副業で活躍されている方が多いですね。現在100名ほど登録いただいており、その中で2~30名くらいのエージェントが活発に動いてくださっています。ちなみに報酬体系は「60%~」と高く設定しており、イメージとしては「仲介手数料12万円・広告料24万円」で「報酬21.6万円~」というモデルですね。今後、人口は減少して空き家が増える一方なので、エージェントの活躍の場は広がることが予想されます。
将来的なお話をすると、自社物件の開発として「空き家の再生事業」も手掛けたいです。空き家が増加しているのに、まだ新築物件が建築され続けているのは市場原理に反しています。当社では中古物件を購入してリノベーションし、再利用することを考えています。特に「ボロ家」と言われる物件を再生して、生まれ変わらせることができれば社会課題の解決にもつながります。大規模な用地開発といった派手な不動産業より、地域再生に貢献するため、日々勉強中です。
とにかく「行動あるのみ」。経験値を増やそう。
──若者へのメッセージをお願いします。
「悩まず、突き進むこと」をおすすめします。悩んでも思考の袋小路におちいって解決しないのなら、行動あるのみです。行動し模索していけば自ずと道が見えてきます。「もしかしたら失敗するかも」と躊躇して一歩を踏み出せないのであれば、足踏みするよりは前進した方が経験になります。大半の経営者はトライアンドエラーの覚悟で思い切ってチャレンジし、軌道修正をしながら人生や事業を切りひらいていると思います。
私自身も「やってみてダメだった経験」を多くしたことで、自分の中のノウハウになっています。例えば、以前「シーシャバー」をオープンしたことがあるのですが、住んでいる人口に対して認知度が低いことやコロナ禍の影響もあって「これ以上続けると赤字になるから閉店」という経営判断を下したことがありました。結果は撤退でしたが、やってみて良かったと思っています。仮に行動していなければ、「あのとき、チャレンジしていたら大成功していたのでは?」という疑問を抱えて生きていくことになっていたかもしれません。
そして「決断力」を磨くことです。非効率的な時間を過ごすのは無意味なので、損切りも重要です。このような決断力を身につけるためにも「行動」によって経験を積み、そこから見極める力を高めていくべきだと私は考えています。