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【合同会社ふくろう(ふくろうグループ) 沢田 知也】理想を夢で終わらせない方法は、目の前の仕事を「理想」にすること。

2023/12/12

Profile

沢田 知也

合同会社ふくろう(ふくろうグループ) 代表社員

滋賀県や京都で、デイサービスなどの介護事業や、障がい者の就労支援といった福祉事業を複数展開している合同会社ふくろう(ふくろうグループ)。地域に貢献するとともに、全国紙で取り上げられるような、独自の事業モデルを展開。そんな同社を率いている商社出身の沢田代表は、立命館大の客員研究員も兼任中。

今回は沢田代表に逆境体験や、独自の事業モデルに至った経緯やビジョンなどを伺いました。

撤退も視野に入れた逆境を、マインド転換で脱出。

──逆境経験や、それを乗り越えた方法を教えてください。

私の母親がケアマネジャーをしており、母親の独立に伴って書類作成等のサポートからスタートしたのが当社の始まりで、事業立ち上げは非常にスムーズに進みました。そして、次に他社から「デイサービスの事業を引き継いで欲しい」というオファーをいただき、事業を拡大するのですが、それが逆境の始まりでした。今思えば「世の中に必要で流行っているし、お願いされたから」という“軽い気持ち”で引き受けてしまったのです。既存事業の訪問介護がうまくいっていたので、慢心もあったのかもしれません。

ただ、「本気でチャレンジしたい!」という強い動機で始めたわけではなかったので、モチベーションを保つことができなかったのです。それがスタッフや利用者様に伝わってしまって、しっかりと運営することができせんでした。例えば「組織づくり」の面でも、スタッフの表面上のことだけをみて「どんなことを望んでいて、何をしたいのか?」といった気持ちの奥の部分を知る努力を怠っていたと思います。結果、運営がうまくいかなくなり、介護事業からの撤退も視野に入れていました。

その悩みを、事業とはまったく関係のない父親に相談したところ、「そもそも、デイサービスを“やりたい”という気持ちはあるの?」と言われた言葉が、ズバッと胸に刺さったのです。確かに「頼まれたから何となく」が起点で、真剣に向き合っていなかった自分に気付かされました。それがきっかけで「デイサービスという事業を楽しもう」というマインドに切り替えたのです。まずは現場に入り、スタッフの声に耳を傾けることから始めました。もちろん、すぐに結果が出るわけではなく1、2年は苦労しながら現場へのテコ入れを続けました。

例えば「スタッフも、自分も面白いと思えるイベント」を考え、実行に移していきました。そのうちの一つの「うどんづくり」が好評を博したのは良い思い出です。スタッフや利用者様のみならず、外部からも友人達を呼んで行なったのですが、車椅子の方もうどん粉を足踏みしながら、みなさんに楽しんでいただけました。この時「みんなが喜ぶ事業を追求することが正解だ」ということを改めて確信しました。

このデイサービス事業での成功を礎にして、障がいをお持ちの方を支援する福祉領域などにも進出し、現在に至ります。

スタッフたちの成長が、経営者としての一番のやりがいに。

──逆境を経て、得られた教訓はありますか?

介護事業を立ち上げる前は、「世界を相手にするビジネス」への憧れが強く、起業に向けてインバウンドを想定した事業計画を立てていました。そのころは「自分が理想とするビジネスしかしたくない」というこだわりに縛られていましたね。でも、介護業界にご縁をいただいた後、逆境を経て「目の前の事業に専念しよう」と決断した瞬間から、景色が変わりました。介護事業は、利用者様に喜んでもらえる素晴らしい仕事であり、その本質に気づいてからは毎日の仕事が楽しいです。同時に、スタッフの成長を感じられたときもうれしいですし、やりがいにつながっています。

スタッフの成長のために、オリエンテーションで指針を共有したり、勉強会を開催したりと社員教育に力を注いでいますね。特に興味の幅を広げて「これにチャレンジしたい」というものに出会えるように、介護や福祉だけではなく、あえて関係ない書籍もたくさん置いています。その上で「これに興味を持った」「チャレンジしたい分野を見つけた」という場合、研修や資格取得にかかる費用を会社が負担するなどしてサポートする体制です。「新しく、こんなことがしたいです!」という提案が現場の部下たちから出てきたとき、やりがいを持って働いてくれていることがわかるので、経営者として一番うれしい気持ちになります。

既存の壁を乗り越え、過去に事例のないチャレンジ。

──独自の事業モデルが、新聞などで取り上げられていますね。

先日、「TVアニメ制作をしている、就労継続支援B型の事業所」として、当社の『シェイクハンズ三条烏丸』が記事になりました。もともと訪問介護事業をしているときから障がいをお持ちの方との交流があり「生産力があって、価値を生み出すポテンシャルを秘めているのに、そこをフォーカスされていない」という、社会的課題を感じていました。そこで、デザインや映像、アニメ制作といったクリエイティブを担う同事業所を立ち上げたのです。障がいをお持ちの方が作る製品などに対する社会全体の認知度は低いので、もっと脚光を浴びるような事業を展開するなど、「福祉の殻を破る」挑戦を続けていきます。

──先述の「福祉の殻を破る」ことについて、詳しく教えてください。

福祉業界は内輪にこもりがちなので、壁を取り除いて「障がいがありながらも、頑張っている方を応援したい」という意味合いが強いですね。ただ、当社も上記のような事業を社会に認識してもらえるまでに、2年ほど要しました。まずは社内に「既存の仕組みに逆行し、障がい者の工賃を上げ、一般企業のような事業所を目指す」「そのためには付加価値のある業務を担う」というコンセプトを浸透させるまでに時間がかかったのです。当初は「ゆったりと、リラックスできることに重きを置いた事業所であるべき」だとスタッフたちは信じていました。もちろん、利用者さんのことを配慮してのことなので気持ちはわかります。しかし、「果して楽をするだけが、障がい者のキャリアにとって良いことなのだろうか?」という根源的なところを説き続けると、徐々に理解をしてもらえるようになりました。

社内がまとまったら、次は世間です。過去に事例のないことへの挑戦なので、当初はかなりバッシングを受けました。しかし、2年経った今では他の事業所が「利用者さんが来ない」という問題を抱えている中で、当社独自の方針が支持され、多くの利用者さんに選んでいただいています。

現在、構想しているのは「自分たちでメディアを作ること」ですね。例えば、フリーペーパーを立ち上げてスタッフがサポートしながら、企画や取材、制作などを利用者さんが担い、企業から広告を集めるようなビジネスを頭に思い浮かべています。

社会課題に挑み、日本を変革するという大きなビジョン。

──今後のビジョンを教えてください。

「日本の社会課題を、介護や福祉の領域から解決する」というのが、本音であり大きなビジョンですね。人口動態を見ても明らかなように、今後の日本はますます超少子高齢化が進んでいく社会です。今でもそうですが30年後には、圧倒的に労働力が足りなくなります。それを解決するには、障がい者や高齢者が自分たちのできる範囲で社会に参画することではないでしょうか。私は「課題の抽出」と「それを解決する方法や仕組みを模索し、行動する」のが好きなので、そこに思いを馳せることが多いですね。

そこに「ビジネス」というフレームは非常に有効だと思っているのです。実は当社がNPO組織ではなく、会社組織にした理由もそこにあります。「困っている人を発見し、問題解決に導き、その対価を得る」ことがビジネスの本質です。障がい者や高齢者が他者を支援するような仕組みを確立することができれば、ビジネスを通じてお互いに助け合う理想的な社会が形成されるのです。

また、世界における日本のプレゼンスは低下しています。しかし、日本で育まれた様々な文化や高度な技術は誇れるものであり、もっと輸出したり投資を呼び込んだりできると思います。その中でもポップカルチャーは世界を席巻しており、誇れる産業のひとつ。アニメ制作をはじめたのもその第一歩です。

──若者へ、一言メッセージをお願いします。

若い人たちから「やりたいことがない」という言葉を聞くことがよくあります。さらに深掘りすると何かしらに興味はあるものの、「やる前から悩んでいる」というケースが多いのです。「やりたいこと」は、やってみなければわかりません。とにかく動いてみて、目の前にある仕事に没頭していたら、やれることが増えていきますし、その結果として「人から感謝されてうれしい」といった成功体験を積むことができます。やってみなければ、それが「好き」や「向いている」かもわかりません。

加えて私の経験からですが「好きなことは、自分で作る」ということもアドバイスしたいですね。仕事に打ち込んでいるうちに、「あ、これは面白い」と感じられるようになればしめたもの。あとは、やりたいことが向こうからやってくるようになります。まずは、必死で行動してみて「自分が勝てる領域」を見つけ出してください。当社は、人から喜ばれる仕事で成功体験を得ることができます。もしご興味があれば、いつでも門を叩いてください。

合同会社ふくろう(ふくろうグループ)

設立 2014年11月10日
資本金 201万円(ふくろうグループ連結 2022年3月末)
売上高 1億8千万円
従業員数 80名(パート・アルバイト含む)
事業内容 介護・福祉事業
障がい者支援法に基づく障がい者福祉サービス提供
介護保険法に基づく福祉サービス提供
URL https://www.fukurou-care.com https://www.fukurou-llc-recruit.com
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