正義と真実を、根気よく伝え続ける。
──逆境体験と、それを乗り越えた方法を教えてください。
過去を振り返って「大変だったな」と感じたのは、大きく2つですね。1つは日本分析化学専門学校を卒業後、すぐに父親が経営している会社に入社したので、最初は「親の七光り」と思われていたでしょうね。ベテラン社員さんから見て、経験がないことは事実だったのでまずは「資格を取ろう」と決意し、勉強を重ねて先輩たちが保有している資格を毎年のように取得。その努力もあり、名刺いっぱいに資格が並ぶようになったのです(笑)。
2つ目の逆境体験も入社後すぐの時期ですね。2005年に某メーカーで起こったアスベスト問題がニュースなどを通じて人々に知られるようになり、私はその頃からアスベストに関する調査や測定を行なっていました。当初は、危険性などに対する認識が低かったこともあり、「空気環境測定をして高濃度のアスベストを検出したら、工事が止まる」という声が出ることもありました。工期が決まっている中で解体などの業務を遂行しなければならないので、お気持ちはわかります。
しかし、事前調査や工事中の測定結果を通じて、健康被害を防ぐのが私たちの仕事なので忖度することなく、しっかりと事実を伝え続けました。「高濃度のアスベストが検出されるのは、作業の進め方に問題があることが多いので改善しましょう」など、根気強く対話を重ねました。現在は法律も厳しくなり、アスベストが及ぼす悪影響についての知識も浸透していますが、当時は厳しい言われ方をしたことも多かったので、精神的に鍛えられましたよ(笑)。
──メディアで取り上げられるような出来事の裏で、奮闘されているとお伺いしています。
官公庁や大企業が関わるようなアスベスト問題は、影響の大きさから報道されることもあります。私たちには長年アスベスト調査を担ってきた実績とノウハウがあるので、特に関西で問題が発覚したときに、お声がかかるケースは多いですね。アスベストは「“儲かるからやる”というビジネスでは無い」というのが私の信念です。その部分への共感や、過去の実績をご存じのお客様、既存顧客からの紹介で依頼をいただくことがほとんどなので、こちらから積極的に営業することはありません。今回、当社を立ち上げた理由もアスベスト問題に特化した会社として、より専門的にお客様の声に応え、社会を支える一助になりたいと考えたからです。
アスベスト問題の最前線で、現場を守り続ける。
──苦労されて得た知見やノウハウを、業界の専門団体などが認めていますね。
アスベスト調査には、公的資格の「建築物石綿含有建材調査者」、一般社団法人日本アスベスト調査診断協会に登録された者などの資格や制度があります。中には更新が必要になる資格や制度もあり、試験官として評価する「採点者」の役割を依頼されることがありますね。また、建築物内でのアスベスト飛散を防止する活動などを全国で行なっている、一般社団法人建築物石綿含有建材調査者協会(ASA)という大きな団体があります。
また、大企業から「講師としてレクチャーして欲しい」というオファーをいただくこともあります。あとは、数年前にとある地方都市の官公庁が関連した、大規模なアスベスト問題により、ASAが詳細な調査に乗り出したことがあるのですが、そこに私も参画して助言などをさせていただきました。
──お話を伺っているとアスベスト問題に対して、熱い志をお持ちだと感じます。
「アスベストを飛散させないことが、一番重要である」というのが私の想いです。もちろん、制度設計や法律は重要で、「パブリックコメント」などを通じて提案し、それが届いて実際に法律になるケースも多くあります。ただ、そうした法律や制度を厳守するためには、私たちのような現場を守る専門家が的確に調査し、忖度せずに根気強く伝えるといった「正義を貫く」ことが重要なのです。また、業界全体の課題として「利益優先」というところもあるのが実情なので、そこを変えていきたいという気持ちがありますね。まずは、自分たちが「正義」を貫き、法改正などに対してスムーズに対応しながらトップを走り続けます。そして、私たちの信念や技術をより多くの専門家に知っていただくことで、私たちの世代でアスベスト問題を解決し、子どもたちの世代には被害が無くなるような社会にしたいですね。
プロフェッショナルとしての矜持を貫く。
──会社の強みと専門会社を立ち上げようと思ったきっかけを、詳しく教えてください。
現在、アスベスト調査に関する専門会社として準備中のフェーズで、来年4月からの本格始動に向けてHPも鋭意制作中です。先述の通り「利益のみを追求」するのではなく、調査及び周知の徹底や、独自の技術に自信を持っています。おかげさまで、「アスベストのプロ」として認識されているのが強みですね。立ち上げようと思ったきっかけは、当社も含めて一生懸命やっている企業がいる一方で「中身が感じられない業者」が一定数存在するからです。
特に「お金儲けのためだけ」に参入してきたところは、報告書の重要事項が欠落しているのですぐにわかります。そもそもの「なぜ、的確な分析と現場での調査が必要不可欠なのか」という重要な認識が抜け落ちているのです。私たちが手を抜くようなことがあれば、健康被害に直結するので責任重大ですし、個人にも社会にも大きな影響を与えてしまいます。「値段だけで選ぶことのリスク」は計り知れず、大きな社会問題に発展しかねないのです。
私たちの仕事は派手ではありませんが、見えない部分で社会を支える大切な役割を担っています。当社はその「本質」を追求し、理念やノウハウを自社内に留めるのではなく、他社に共有したり若手育成に注力したりすることで、業界全体のボトムアップにつなげていく方針です。
大気汚染防止法の改正に伴い、2023年10月1日以降に着工する解体・改修工事は「有資格者によるアスベスト事前調査が義務化」されました。関連法規である「石綿障害予防規則」は環境と労働者の安全や健康を大切にするように、年々厳格化されています。しかし、その周知率は15%と言われているほど低いままなので、それを知らずに、例えば「無資格者による事前調査」を行なった場合は法令違反です。そうしたことが無いように、当社も周知徹底を呼びかけています。
物事は、一度チャレンジしてみないとわからない。
──若者へのメッセージをお願いします。
「夢を持ち、一歩ずつ階段を上って欲しい」ですね。まずは自分が「どのような存在になりたいのか?」を思い浮かべてから、そこに到達するまでの道筋を考えてみてください。あとは、その理想に向かって着実に進むだけです。その道のりで得た経験は、かけがえのない資産になります。いくら知識が豊富でも、口先では「いつかやりたい」と言っていても、経験や行動がなければ意味を持たないケースは、社会に出ると山のように出てきます。ビジョンを持って、実行することから始めましょう。
あとは、例えば会社などで「やりたいと思っていることと、少し違った業務をお願いされても、一旦チャレンジしてみる」ことですね。「自分が担当している業務ではないので断ります」ではなく、一度やってみると経験と人生の幅が広がります。もしかしたら、自分でも気づいていなかったような強みに出会えるかも知れません。「営業が苦手」と思い込んでいても、実際にやってみると「実は人と話すことが、得意だった」ということもあります。回りまわって「やりたいこと」に、結びつくことだってあるかも知れません。せっかくの可能性を自分で閉ざすのではなく、“一度は挑戦してみる”という選択肢を持つことをオススメします。最後に、人生の主役はあなた自身です。全ての行動は己が決断したことの連続となります。何事にも覚悟を持って、昨日より今日が最適であるよう、人生の幸せを掴んでください。