頭の中が数字だけに支配されていた、あのころの失敗談。
──逆境経験について教えてください。
逆境というよりは失敗体験になるのですが、もともと私は電設資材などの卸売の会社で7~8年ほど営業をした後、お客様だった建設工事会社に転職。その後、4~5年経って社長を拝命したのですが、その頃は執念で数字を追求するタイプの経営者でした。自分自身が営業で結果を残してきた「数字の人間」だったので、それをメンバーたちにも求めてしまい、売上は順調に伸ばしているものの“離職率が高い”といった課題のある組織になっていました。また、大きな数字を追いかけるあまり、確認作業などがおろそかになり、今なら防げたであろう「2,500万円の損失」という痛い目にあったこともありましたね。
また、地元の中学生時代の同級生を当社に誘って入社してもらったのですが、数字の魔力に取り憑かれていた当時の私は人の気持ちを考える余裕がなく、追い詰めるような強い言葉を発してしまい、結局辞めてしまったということもありました。今思えば「自分が出来たのだから、頑張ればみんなできるはずだ」という価値観を押し付けていたと思います。「会社を拡大すること」だけが私の頭の中を支配していたので、当時を知るプライベートな友人たちからは「あのころは、本当に尖っていたね」と言われます。当時は何事も仕事中心だったので時間があればお客様に会うことを優先し、地元の友だちとも疎遠になっていました。
マネジメントもノルマを設定して、未達の場合は「なぜダメなのか?」と詰めるような手法をとっていました。「有給を取得したい」と言われても、「数字はとれてないのに、休みはとるんだね」と揶揄するような、本当に毒のある経営をしていたと思います。
数字至上主義の呪縛から開放され、真の幸せに気づいた。
──以前の「毒のある経営手法」から脱却し、組織はどのように変わったのでしょうか?
プライベートで「大変だったこと」と「幸福」の双方を経験し、その2つが解毒作用をもたらしました。前者は「自分が囚われていた数字至上主義は悪いことで、天罰が下ったのではないか」と因果応報のようなものを感じ、これまでのことを反省する機会を得ることができました。後者は、凍てついた心を溶かしてくれるような心根の優しい今の奥さんと出会ったことで、「これまでは、頭の中も生活も数字だけに支配されていた」ことに気付かされたのです。
この2つの出来事があったおかげで、「数字至上主義の呪縛」から抜け出すことができました。自分にとっての、大きなターニングポイントですね。以前は何より仕事優先でしたが、奥さんと出会ったことでプライベートの大切さと、「自分が幸福になることで、周りも幸せにできる」ことを学びました。毒が抜けてくると、徐々に仕事の進め方も変わってきました。これまでも「お客様の課題を引き出し、応えていく」という営業をすることで成果を残してきましたが、昔は「自社の数字を優先する」というところもありました。しかし今は一歩踏み込み、お客様の生活やプライベートの充実につながることも慮って提案するような、相手に尽くすスタイルに変革。すると心の内をさらけ出してくれるようになり、「実はこれもお願いしたいと思っていたんだよ」と、以前よりも幅広く受注をいただくケースが増えたのです。
マネジメント手法も変わり、部下たち一人ひとりの気持ちをくみ取り「プライベートを重視する」「頑張って稼ぎたい」というタイプにわけて、特性に応じたアドバイスを心がけるようになりました。また、以前はあれこれ口出しをしていましたが、毒が抜けた後は部下それぞれが自分で課題を見つけてそれに取り組むという自走式のスタイルにして、「困ったときはいつでも相談してね」というスタンスに変えましたね。
培ってきたノウハウを活かし、売上を10倍に伸ばすコンサル事業を。
──株式会社Bridgeの強みなどを教えてください。
去年の3月に前職の社長を辞めて、当社を立ち上げました。独立した理由は、経営者として年間1億円ほどだった売上を数年で7億円に伸ばした経験があるので、そのノウハウを活かしたコンサルティングを手掛けてみたいと考えたことと、もともと「ゼロから起業する」という自分の夢があったからですね。前職の会社とは、営業代行をするなど良い関係が続いていますよ。コンサル事業では、主に「現在数千万円の売上を、10倍に伸ばしたい」という企業のお手伝いをしたいと考えています。
強みは培ってきた知見に加えて、今あるものに付加価値をつけ、並走型でコンサルできるところが私の武器だと思っています。たとえば、「店舗の工事をしたい」というオーダーをいただいた場合、内装などの専門業者を紹介するのはもちろんのこと、店舗の業績を伸ばすためにSNSやチラシなどのプロモーションもサポートします。その前の段階で「工事に必要なお金が足りない」という場合は融資をしてくれる銀行をアテンドしたり、申請可能な助成金を探し出して紹介したりすることでお客様の課題にきめ細やかに応えます。また、事業再構築のサポートも手掛けており、過去には「キックボクシングジムを開きたい」という建築会社のコンサルに入って、2,000万円の助成金を受けるお手伝いをしたことがあります。
仕事を楽しむために、色々経験しよう。失敗だって糧になる。
──若者へのメッセージをお願いします。
「仕事を楽しもう」ということですね。「平日の仕事よりも、週末のプライベートだけが楽しみだ」という方も多いと思いますが、仕事が面白ければプライベートは、もっと充実したものなります。そのために20代は色々な経験を積み、失敗をしながら学びつつ自分を分析し「向いている仕事」を見つけることが幸せへの第一歩だと思います。30代はそれを伸ばす期間で、40代になればゆったりと余裕を持つ…というのが理想ですね。
私自身でいうと20代は疾走する「攻め」の時期でした。仕事では売上をドンドンと伸ばしていましたし、プライベートでは自分でクラブのイベントを仕掛けたりしていましたね。30代も前半はひたすら仕事に打ち込んでいました。ただ、全部がうまくいったわけではなく失敗も多かったですよ。でも、挫折から学ぶことは多くあります。たとえば数字至上主義に陥った結果、「2,500万円の損失」を出したのは先述した通りですが、詳しくお話をすると現場が終わった後に計画倒産され、お金が振り込まれなかったのです。
冷静な経営をしている今なら間違いなくリスク回避できるはずですが、当時は気づくことができませんでした。ただ、その失敗があったあと、それまでイケイケドンドン状態だった会社の風土を見直す契機になり、その損失を埋めるためにみんなが頑張ってくれた結果売上も伸びました。「失敗は成功の元」といいますが、その通りですね。失敗を恐れず、チャレンジしてください。