世の中に埋もれた宝のような商材をより多くの人に伝えたい。
――御社の事業内容について教えて下さい。
世の中にはまだ評価されていない素晴らしいサービスがたくさんあります。ただ、いくら素晴らしいビジネスモデルでも、説明に時間のかかるようなものが世界に溢れています。そこで私たちは2019年10月から「TSUTA-WORLD」という動画ブランドの運営を始めました。この事業は、世の中の宝物になり得る優れたサービスや商材を、誰にでもわかるストーリーに変えてアニメーション動画にするというもので、プロフェッショナルチームによる動画制作事業です。
弊社が手掛けているのは商品やサービスを説明する動画ですが、お客様には単なる説明動画ではなく「誰にでもより明確に伝わるよう、アニメーション動画で簡潔に表現しましょう」と提案し、それを実際の形にします。一番大事なことは商材の良さを伝えること。人は分かりにくい説明を聞いたとき、90%がネガティブな印象を抱くという研究結果が出ています。どんなに良い商品やサービスでも、良さが伝わらないと商談はまとまらず、相手にとって本当に必要な商品であっても片想いで終わってしまいます。属人的な説明に左右されず、誰にでも伝わる商談を可能にする。TSUTA-WORLDはお客様と企業とをつなぐ、ラブレターのようなツールなんです。
――動画制作事業を思いつかれた、そのきっかけは何でしょう?
前職の映像制作会社のときの話ですが、取締役として自社のIT投資を担っていました。さまざまなIT企業の営業担当者から商材の提案を受けるポジションです。私自身は元々Webデザイナーではあったものの、その当時は広くITの知識をもっていませんでした。営業担当者から提案を聞いた際は「この商材は良いものなんだろうな」と思うんです。しかし、いざ自分が社内で商材について説明してみても、提案を受けた企業が発信している商材の説明動画を見せてもうまく伝わりません。「良いもの」であるのには違いないのですが、もったいないなと感じました。この経験から、相手の知識に依存しない、誰にでもわかりやすい説明動画に可能性を感じたんです。
――その気づきから、現在の事業に至った経緯を教えてください。
映画制作会社にいたので、ゴールデンタイムのTV番組を手掛けている構成作家を知っていました。そこで構成作家にお願いして、説明の難しい商品やサービスをわかりやすい説明でまとめてもらうことにしたんです。これからの時代は「1企業1動画時代」になっていくことを確信はしていたものの、動画の制作費は決して安くありません。「なんとか低価格で誰にでも伝わりやすく、高品質なアニメーションを提供したい」という思いで手法を考えました。
その思いを実現するために私がしたことが、ふたつあります。ひとつ目は海外での制作。海外投資家が制作と開発を行っている会社と提携し、人件費を下げて制作するという方法です。ふたつ目は、通常なら日本国内の腕のいいフリーランスのクリエイターを見つけるのですが、それだけに頼らず自前で日本人の構成作家さんと協業して日本人が好む流れを分析し、映像と台本の両方を統括するディレクターを社内で育てることにしました。現在は制作コストを抑えるためにバングラデシュの制作会社と提携し、バングラデシュと日本のスタッフでアニメーションを手掛けることで低価格のサービスを実現しています。
逆境経験から学んだのは、社員への奉仕が顧客の幸せに繋がるということ。
――これまでの山岡様の人生における、逆境経験を教えてください。
これまでの仕事人生は全てが苦難の連続でした(笑)。最初に就職したのは印刷会社で、そこでは印刷と簡単なデザイン業務を行っていました。毎日1ロール300キロぐらいあるロール紙を手押しで印刷機にセットするのですが、腰に負担がかかってヘルニアになってしまい退職しました。その後、レンタルビデオ屋に就職し、店長になったのですが売り上げを激減させてしまい、辞めてお金もなくなりました。短期的ですがホームレス状態で公園で寝泊まりせざるを得なくなったんです。その後、実家に戻って1年間ニートをしていました。
実家では再起を目指し「次はWebの時代だ」と考えて、Webデザインを1日18時間ほど勉強しました。どうにかWebサイトを自分で作れるようになったことで人生再出発の運びとなりましたね。しかし、再就職先が今では考えられないほどのブラック企業…。朝10時から深夜まで働き、家にたどり着くのが明け方という生活。当然過労で倒れ、また退職を余儀なくされました。そして休養のあと体調も回復し、働く意欲も甦って再々出発のはずが、またもブラック企業に就職します。ほぼ毎日のように社長の怒号が飛び交う、パワハラが凄い会社です、、、。そして、自分が選んではいますが給料18万、家への仕送り10万というカツカツの日々の中、副業するしかありませんでした。
実はこの副業が私の転機となりました。副業では他社のデザインの受託を行い、ひとりでマーケティングや営業、制作などすべて手がけました。このおかげでビジネススキルも向上し、本業も好転し始めました。しかし、この初めての成功体験で天狗になってしまい、当時統括マネージャーだった私は、高圧的なマネジメントを行って、全従業員から解任要求を突き付けられる事態を招き、社長から退職を勧められました。
――ご自身の逆境経験を活かし、御社では社員のための画期的な制度を実施されていると伺っています。
このときに人はつけ上がってのぼせてしまうと、下を叩くようになってしまうと学びました。今はその教訓を活かして、社長は組織の1番下だと思っています。社長は従業員のために努力し、従業員には顧客のために働いてもらう。感覚的には逆三角形を思い浮かべていただくとイメージしやすいかと思います。逆三角形の下が私です。従業員が顧客に力を注げるように、会社を経営するにあたってのこだわりとして、従業員のライフステージを考えた経営を心掛けています。
例えば弊社はフルリモートワークを実施していますが、これはコロナ禍の昨今のことではなく、ずっと以前から変わらない方針です。女性の場合は、結婚や出産などで仕事を辞めざるを得ないことも多く見られますが、それでもリモートであれば十分働くことが可能です。また親の介護で在宅勤務しかできない人、家族との時間をもっと持ちたいという人、コロナをきっかけに自分にとって本当に良い人生とは何かを見つめた結果リモートを選んだ人など人それぞれの人生があります。採用後にも、さらに十人十色の事情や考え方など生活の変化があることも知りました。従業員のみなさんの働きやすさを実現するために、今後もさまざまなものを取り入れていきたいと考えています。
なので、副業もOKにしています。一般社会において副業は良いイメージをもたれないことも多いですが、私は副業によってさまざまなスキルを向上させてきました。経済的にも潤いますし、ほかの業界を知ることで視野が広がり、自信もつきました。このような素晴らしい経験をすることは本業の妨げにならないレベルであれば問題ないと、弊社ではむしろ副業を推奨しています。副業を通して人生が豊かになり、成長することを、みんなにも経験してもらいたいし、その経験を会社での仕事に活かしてくれることを期待しています。
動機が「世のため人のため」であれば、辛い苦境があっても乗り越えられる。
――最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。
TSUTA-WORLDは、世界に対して〇〇を解決する!みたいな組織ではありません。ただ、周りの知人・友人が困っていることを見て、それを解決しようという「従業員の身近な人専門の課題解決型組織」です。もしこれを見ている方の周りで、知人・友人に困っていることがあれば、その課題の解決を助ける方法について考えてほしいと思います。身近な誰かを助けるという思考から、より多くの誰かを助ける商品が生まれるかもしれません。
ただ、自分がどうしたいのかだけにフォーカスしても何も生まれてこないんです。自分のためだけを考えて物ごとを思考していくと、辛いとき、壁にぶつかったときにどうしても行き詰る。私は社内の人間が「よくわからない」と言った問題に対して、みんながわかりやすいように説明したかった。また素晴らしい商材なのに伝わらないから、その会社は説明不足のためにもったいないことをしている。この問題を解決することは、世の中にとってとても良いことだと思いました。その動機は自分の為ではなく、世の中の人のためです。
こんな風に誰かの為に動こうとすることを愛といいます。動機が愛に基づくかどうかはとても重要です。どんな状況にあっても、周りにいる人の役に立てるように全力を尽くし続けていれば、結果的に自分自身を助けることにもつながる。それが苦境を経て得た気づきです。お客様を幸せにしたいなら、まずは従業員を幸せにするという考えもその気づきからきていて、「ほかの誰かを幸せにしよう」という気持ちがあれば、辛いことがあっても、頑張ることができます。幾度もの苦難を経験し、今ではそう確信しています。