自らの強みを最大限に活かした、「リファラル」ビジネスを展開。
――とても珍しいめずらしいビジネスを展開されています。詳しく教えてください。
大枠で説明すると「リファラルを駆使したコミュニティマーケティング事業」になります。具体例を挙げると、渋谷発のクラフトビール「KOBUSHI BEER」を立ち上げるとともに、道玄坂でクラフトビールバーを営業しています。そこに集まった人たち同士が繋がるビジネスコミュニティを作り、SNSをプラットフォームとしてオンライン&オフラインのコミュニティとして運営しています。「ビールを飲んで繋がる」という世界観を起点にビジネスパーソン同士の結びつきを促進し、参加者の情報やニーズをデータベース化することで営業支援や採用活動に使っていただけるサービスとして提供しています。あまり他には無いビジネスモデルだと思います。
このビジネスを始めた、きっかけの1つとして、私のSNSの繋がりに、もともと起業家やマーケティングやウェブITビジネス関連の人たちが多かったということがあります。SNS上で「こんな人を採用したい」という経営者がいて、「働きたい」と手を挙げる人がマッチングする…といったやり取りを目にしました。採用や案件獲得などがSNS上で発生する、ただ、それはオンライン上だけでの付き合いではなく、会ったことのある知り合い同士、もしくは紹介だから成り立つのだと。それでオンラインだけでなくオフラインでの出会いを重視した「コミュニティ」という形に注目したのです。
――井上様の個性や強みが存分に発揮されたビジネスですね。
「思いついたことをとりあえずやってみる!」という性分なので、現在進行系で新しいビジネスにチャレンジしています。ビジネス開発は私が担当しているのですが、まずは走らせてみるというやり方で様々な事業に手を出しています。「ヒットしそうなイベント」などサービスの根幹に関わる部分をいくつも企画し、実際に走らせてみる。その中で反響が良かった、集客のあったコンテンツを横展開させて、そこからはメンバーたちに託しています。
今後の再現性を考えると私のマンパワーだけに依存するのではなく、仕組みづくりが必要だというのが課題としてありましたが、徐々に進んでいます。今年の始めは全部のオペレーションを自らやって「死ぬほど休みがない」という忙しさでしたが、メンバーたちに任せて私はあえて離れてみたところ、頼もしい働きのおかげか、それでも事業が回ることをわかったので、少し休む時間が取れるようになってきました。最近の一番の収穫です。
私は「ゼロイチが好き」で「ルーティンワークは苦手」なので、手掛けた仕事はマニュアル化して、これからはどんどんメンバーたちに引き継いでいきたいと思っています。
3つの苦境を乗り越えて得られた、人生とビジネスの哲学。
――逆境経験とそこから学んだことについて教えて下さい。
起業することを、周りからは「リスクをとっている」と思われがちですが、私自身としてはディフェンシブに物事を考えて行動しているので「立ち直れないほどの逆境」に陥った記憶はないです。ただ、振り返ると「大変だったな」と思うことが3回くらいはありましたが。
1つ目は、2005年にバンドを解散したときです。学生時代に立ち上げた音楽レコード会社で“裏方”としては成功を収めていましたが、プレイヤーとしては挫折しました。「音楽がないと死んでしまう」というほど人生を捧げてきたので、全てを失ったような喪失感に襲われた日々を過ごしたことがあります。その時にどうやって乗り越えたかというと、「これまでやってきたことが全部間違っていたのだから、真逆のことをしよう」と考えることにして、即行動に移しました。たとえば、それまでは真面目な性格だったので「終電までには帰宅する」生活だったものを、「終電から遊びに行く」といった極端な行動に切り替えました。結果として視野も広がり、これまでとは違った風景が見えるようになり、新しい生き方に舵を切るようになったのです。
2つ目は、音楽の会社を辞めた時ですね。当時32歳でそれまで「音楽」が自分の人生の中心だったので、自分の“社会的な価値”を見いだせず焦燥感に苛まれる時期がありました。そこで、「一般的なビジネスの型を学ぼう」と青山学院専門職大学院に通ってMBAを取得することにしたのです。青学時代はとても楽しく、有意義な時間でした。年齢も性別もバラバラの多様な学友たちと切磋琢磨しながら、これまで実戦で身につけてきた経営手法を体系化された経営論と比較して、答え合わせが出来る環境は魅力的でした。また、金融や医療業界のビジネスパーソンたちといった、これまで出会ったことがないような方たちとも縁を結ぶことができました。今でも恩師と学友は一生の宝物です。
3つ目はサラリーマン時代です。デジタルマーケティングコンサルタントとして働いた後、転職してメディアコンサル営業本部長を経て、グループ会社に転籍し自社マーケのマネージャーへと4年半で随分ジョブホップしました。浮き沈みのある経営者時代と違い、毎月一定の給料が入ってくるので全額使い切るといった生活を謳歌できたり、時代の最先端の情報に触れて、豊富な知見を得ることができたりというメリットがあった一方で、スケールメリットを求めて組織に属したのに結局はしがらみがあって「やりたいことができない」という閉塞感や、結果を出しているのに評価されなかったり、組織ゆえのストレスを抱えたりといったデメリットも多く感じました。コンサルは結局、自分を売り込む仕事なので「だったら、独立しよう!」とフリーランスを経て2度目の起業に踏み切ることにしたのです。
企業と人の架け橋になり、社会に貢献する。
――冒頭でおっしゃっていた「リファラル×コミュニティマーケティング」以外の事業について教えてください。
会社員時代にコンサルタントとしてデジタルマーケティングやメディアに携わる中で、ビジネスの誕生や成長過程などを体験し、ノウハウや知見を得ることができました。そのため、独立当初はデジマやメディアを用いたコンサル事業からスタートし、今でも継続しています。ただ、結局のところコンサル業は他人のビジネスを手伝う、つまりリソースを提供する仕事で本質的にはサラリーマンと同じ、もっと言うと時給の高いアルバイトのようなものなのです。そういう意味で、人との架け橋となり、感謝される「リファラルビジネス」の方がやりがいある仕事と感じるので、今はそちらに注力しつつ、関わる人たち全員に価値を生み出すようにしています。私が企画したコンテンツ、例えば交流会やオンライン上でご紹介した人の双方から「いい出会いがあった」「仕事に繋がった、ありがとう」と喜んでもらえることは、この上の無い喜びで、この仕事をやってよかったと感じます。
――今後のビジョンについて教えて下さい。
スタートアップや中小企業で「商品やサービスに魅力があるのに、営業やマーケティングが出来ていない」という会社は数多く存在します。そんな時は私たちの出番です。マーケティングのプロ人材とのご縁を紡いだり、BtoBリード(潜在的な取引先や顧客)の獲得に役立ったりと「リファラル」で、無限に広がるビジネスチャンスを後押しします。そんな「周りの挑戦を後押ししていく」のが私たちのビジョンです。個人的には「規模」にあまり関心がありません。なんとなくの100人より、「たった1人に強烈な感動を与える」方に価値を感じます。もちろん沢山の人に私たちのコミュニティマーケティングを届けたいという想いもありますが、売り上げを追いかけて規模拡大をKPIにするのではなく、深い仲間が集まる場所を大切にしていきたいと考えています。
大人たちの「常識」を疑い、自らの「良識」を鍛えよう。
――最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。
人生は1度きりなので、自分が正しいと選んだ道に進むべきです。親や大人たちは「これが常識だ」という価値観を押し付けてきますが、歴史的にみると、それは短期間、たった70年ほどに作られた「常識」です。現在の「当たり前」は、ほんのちょっと過去の人が作った概念でしかないので、この先30年後には逆になっているかも知れません。自らの良識を頼りにして人生を生きるべきなのです。その「良識」を形成するためには勉強が必要です。良質な書籍を読んだり、先生に習ったりするなど何でもいいと思います。私も今でも、色々な方にお会いして学ぶ「耳学問」やひたすらネットで情報検索してインプットを続けています。また、座学による知識の詰め込みも決して無駄ではありません。何かの資格に挑戦してみるのも良いです。たとえば3ヶ月間、毎日2時間勉強すると決めたとして、意外と続けられる方は少ないと思います。短期決戦で、やりぬく覚悟と行動力はビジネスの成功には不可欠です。仮にその資格が直接的に仕事の役に立たなかったとしても、資格取得のために勉強した内容が意外なところで役に立ってくるものです。情報が多い世の中に今後もなっていくはずなので、正しい情報を選択できる「良識」を持つために日々、勉強に時間を使って欲しいです。