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【株式会社サワダ製作所 木下 聡】対話が培うチームの力でお客様と社会を支える

2023/08/02

Profile

木下 聡

株式会社サワダ製作所 代表取締役

2005年、34歳でサワダ製作所に入社。前職は電力関係の会社に約10年間勤務。入社当初から営業に携わり、営業部長、役員を経て、2023年から代表取締役に就任。主軸事業は、水面計・液面計、バルブの設計・製造、販売を専門としている。主要顧客は電力・製鉄・製紙・医療など。一般の方の目に触れる機会はほとんどない、縁の下の力持ち的な役割で、事故を防ぎ、経済を支えている木下様に、対話をとおして一体感のあるチームをつくることの重要性について伺った。

縁の下で社会を支える

――御社の事業内容について教えて下さい。

主軸事業は、水面計・液面計、バルブの設計・製造、販売です。水面計・液面計は、水や液状の薬品を貯蔵する密閉容器の中に、どれくらい液が残っているかを直接目で見て確認するための計器です。身近なイメージとしては、家庭用の電気ポットには透明な窓がついていますよね。あれと同じ役割をするものです。

身近な場所では、大阪の梅田地下街の空調(冷暖房用)用ボイラーに当社の水面計が使われています。ボイラーは水を熱して蒸気を発生させる装置です。水が切れて空焚きになると非常に危険なので、水面計を設置して水がどれくらい残っているかを外から見られるようにしているのです。

――センサーなどではなく、目視なのですね。

やはり、人が直接目で見て確認したいという要望は根強くあります。そのほかにも停電などの影響を受けないといったアナログならではの良さを評価していただき、1950年の創業以来、幅広い業界でご利用いただいています。主なお客様は、電力会社や製鉄、製紙会社、全国のクリーンセンター(リサイクル可能な資源の分別・可燃ごみの焼却処理・残渣の無害化処理などを行う施設)です。ボイラーで生成された蒸気は、医療機器のメスなどの消毒に使用されています。みなさんの生活を安全安心に管理してもらうために、見えない根っこの部分で社会を支えています。

――まさに縁の下の力持ちですね。業界の中での御社の強みはどういうところにあるのでしょうか? 

ひとつは技術力です。私たちの製品が使われる場所には、圧力と温度が非常に高く、水が約370℃くらいでようやく沸騰する環境もあります。そのような環境で使える製品を作るには技術力が必要なため、提供できる企業は国内では3社のみです。より低い圧力用のものになると提供できる会社数は増えますが、そこまで多くはなく、かなりニッチな業界です。

もうひとつは、お客様の要望に全力でお応えすることです。長いお付き合いのお客様から「サワダは、何かあったときに助けてくれるから取引きしていて安心」とよく言っていただきます。少ないとはいえ、競合はある中で、これが当社の強みであり、差別化できているところかと思います。

チーム力でお客様を支える

――「何かあったときに助けてくれる」とは、具体的にはどういうことでしょう?

何十年もお使いいただいているものですと、お客様がどれほど丁寧にメンテナンスしておられても、どうしても故障は発生します。故障すると、お客様のビジネスは止まってしまいます。そのため、供給面は非常にシビアで、必要なときにすぐに提供できる状態を保っておかなければなりません。

もちろん、在庫は揃えていますが、それ以上の数をご用意しなければならないときもありますし、カスタマイズされたものの場合は、作らなければならないケースもあります。どんな場合でも、「この日にちでなんとかしてほしい」という急なご依頼にもつねに対応してきました。

――残業はないとうかがっていますが、残業なしでどうやって急な依頼に対応しているのでしょうか?

まず、納期短縮のための日頃からの努力があります。生産管理システムで生産スケジュールを管理して継続的に改善していますし、整理・整頓・清潔を目指す3S活動やムダ取りを行い、レイアウトなども工夫しています。カスタマイズしてお納めした製品のデータは全てデータベースで保存しており、昭和40年代の製品でも材料さえ揃えば、すぐに製作できる体制を構築しています。

さらに、仕事の見える化を進め、いざというときは、職人さんの仕事の半分くらいをほかのメンバーが手伝えるようになっています。

急なご依頼に対応できるのは、このような日頃の積み重ねに加え、「会社全体で何とかする」という文化が浸透しており、36名の従業員全員が協力する、チームとしての一体感があるからです。協力することで納期が守れ、お客様に喜んでいただける。それが「部門を越えて協力して何とかしよう」という気持ちを強めるというプラスのサイクルになっています。

――40名近いメンバーが、緊急時にもチームとしての一体感を持って動けるのは素晴らしいですね。協力する文化をどのように育んで来られたのか、教えていただきたいです。

 ベースになっているのは、日頃からのコミュニケーションですね。先ほどのサイクルでいえば、営業がお客様からのお礼を電話や訪問時の会話で聞いたときは、タイムリーに製造や技術部門に伝えてくれています。何かあったらすぐに誰かが声かけして集まって対応を相談してくれているところをよく見ます。何十年間の積み重ねを通じて、今の会長や先代が培ってきた我が社の文化です。

部下とのすれ違いから対話の大切さを学ぶ

――木下様は入社されて何年になられますか?

 入社したのは 2005年ですから、約17年ですね。前職は電力関係の会社で、10年ほど勤めていました。入社当初からずっと営業部門です。営業部長から役員になり、今年から代表取締役になりました。今の会長が2代目で、自分は3代目になります。

――17年間で、一番大変だったことを聞かせてください。

 2008年に韓国に進出して、5年後に撤退したときです。当時、日本の営業部門の責任者でしたが、韓国での営業も必要ということでサポートに行っていました。言葉の違いに加え、ビジネス上の文化や慣習、考え方の違いもあって、ストレスは大きかったですね。加えて、辛い食べ物が身体に合わず、体調管理にも苦労しました。 

結局、コストと品質のバランスが取れず、撤退を余儀なくされました。現地採用の社員を解雇しなければならないのがほんとうにつらくて。

それも良い経験だったと、今は思っています。また、日本にいる部下とのすれ違いからも大切なことを学びました。

――すれ違いというのはコミュニケーションの問題ですか?

そうですね。私の方は、あまり会話ができていない時期があっても、「大丈夫だろう」「わかってくれているだろう」と思っていたんです。ところが、帰国して話したときに、彼が涙ながらに訴えてきました。「木下さんは変わってしまった」と。「一緒にやろうと言っていたのに話もできていない」「志も変わっている」と言われて。

 そのとき、対話の大切さを痛感しました。わかってくれているつもりになっていただけで、全然対話が足りていなかったんですよね。日常でも起こりがちなことだと感じて、それからは、一層対話を重視するようになりました。

お客様の声から新しい価値を生み出す

――5年後、10年後にどんな会社になっていたいですか?

 お客様の求める価値を見つけて、それに見合った商品やサービスを提案して選んでもらう。それを通じて、さらに世の中に貢献していきたいです。

そのための施策として、1年半ほど前から、中堅メンバーで商品企画室を作り、月に数回、「お客様がこんなことを言っていらした」と話し合う機会を設けています。そこから新しいものが生まれて、5年後、10年後には商品のラインナップが増え、カタログが厚くなっていたら良いなと思っています。 

――そういった提案から新商品が生まれた事例はありますか?

典型的な事例は樹脂製のバルブです。元々は金属製しか作っておらず、他社から仕入れて販売していました。営業担当者の提案をきっかけに、5年かけて自社で商品化。今は事業の柱の一つに育っています。

 そういう提案があったとき、「幾つ売れるんだ?」などと、すぐに言ったりはせず、まずはやってみる方向でみんなで考えます。私自身も一緒になって、お客様にどんな価値を提供していくのかを考えるのはとても楽しい時間です。みんなからたくさんのアイデアが湧き出てくると、胸が熱くなり、「なんとか前に進めて行こう!」という気持ちでワクワクします。今のポジションで最もやりがいを感じる瞬間です。

――最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。 

 臆せずチャレンジしてほしいですね。うまくいかなかったとしても、次こそ成功させるにはどうすれば良いかを考え、また挑戦すれば良いのですから。また、人にはそれぞれ優先したい価値観があることを理解して、自分と異なる価値観も受け入れる。その上で、チームで成果をあげることに達成感を持ってほしいと思います。

株式会社サワダ製作所

設立 昭和33年(1958年)3月
資本金 1500万円
売上高 非公開
従業員数 36名
事業内容 水面計及び液面計の製造並びに販売 / バルブ及びコックの製造並びに販売 / 前各号に付帯する一切の業務
URL https://www.sawada-obk.com/
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