多様性と社員を大切にする組織から、自由な発想が生まれる。
――御社の事業内容について教えてください。
「デザイン力」と「アイデア力」を武器に、雑貨やアパレルといった多岐にわたるオリジナルグッズ(物販やノベルティ)などを企画・開発し、海外で製作~納品までをワンストップで行なえるファブレス型で事業を展開しています。単にモノを提供するだけにとどまらず、お客様の“想い”を引き出して形にすることで、ものづくりの楽しさや幸福感を社会に伝え、「みんながワクワクする一歩先の世界をつくり続けること」を目指している会社です。
ロゴには、つくりたいの「つ」を右上に傾けると、ユニファーストの頭文字「U」になるデザインを施しています。少し視座を変え、工夫とアイデアで物事をオモシロクするという願いを込めていますね。
また、みんなに喜ばれるデザインの製品を社会にリリースするため、各工程はリレーのバトンを渡すように、一言一句間違えない指示を出して徹底した品質管理を実現。デザインの言語化は難しいところがありますが、入口となる営業がお客様の壁打ち役を担いながら的確なヒアリングを行ない、それを受けてデザイナーも精密に具現化します。そんな高度なコミュニケーション力をもっていることも当社の強みのひとつです。
――経営理念の「五方よし」は、どのように生まれたのでしょうか?
きっかけは、元法政大学大学院教授で経営学者の坂本光司先生(人を大切にする経営学会会長)からの学びと、自分自身の実体験からですね。父親は企業の創業者らしく、ワンマンで組織を引っ張るタイプで、理由はいろいろ合ったと思いますが、社員を解雇しているのを目にしたこともありました。創業者は辣腕を振るうことが必要だったかも知れませんが、僕に求められる資質は違うと考えています。北風と太陽でたとえると僕は後者で「従業員が安心して働ける環境を整えた方が、人間が本来もっている能力を発揮できる。失敗しても再び立ち上がってチャンスを掴めるのが良い会社。」というモノサシを経営基準にしています。実際、経営者になってからはひとりも解雇していません。
――社内の雰囲気について教えてください。
役職や社歴、年齢に縛られることなくフラットに意見を言い合える風土だと思います。僕自身、20代の社員に対して「これってどう思う?」と若手の考えを聞くことも多いですね。「何かあったら、直接言って欲しい」とも伝えており、責任者を通さずダイレクトに社員とやりとりをするケースもありますよ。多様性を重んじる社風が根づいていますが、そもそも僕の学びもキャリアも“人種のるつぼ”のロスからスタートしているので、人種や年齢、ジェンダーや社会的ステータスなどを一切気にしたことがないですね。
徹底して事前にリスクを洗い出し、準備して構える。
――逆境経験とそれを乗り越えた方法について教えてください。
前提として僕の場合、失敗しないように事前にリスク要素を洗い出してから物事に望むタイプなので、想定外の大きな失敗というのはないですね。これはアメリカにいたころ、本気で取り組んでいたDJ経験が原点にあります。人種や民族、都市部や地方などによって好まれる曲は全然違うため、どんなオーディエンスに対しても対応できるよう入念に事前準備を行なっていました。その経験が経営においてもリスク管理をする“クセ”として身についています。創造的でありながら、冷静な視点を併せもつリアリストという感性も磨かれました。
その上で「逆境を感じたこと」と言えば、語学が苦手なのに単身で乗り込んだロスでの学生時代でしょうか。当たり前ですが英語しか通じない環境なので、声だけのコミュニケーションになるドライブスルーなんて最初のころは「緊張する」「通じない」の二重苦で、もう地獄でしたよ(笑)。乗り越えた方法は、日中に学校で学んだ単語やイディオム、文法や表現方法などをその日のうちに普段の生活や夜のDJ活動などで「意識して使うこと」で脳内に定着させていきました。ちなみに音楽に目覚めたのは、僕の生まれた墨田区の下町がルーツです。周りの先輩たちがラップやDJ、ダンスなどをするヒップホップカルチャーが根づいており、自分も自然と音楽を始めていました。
──創業者の父が急逝後、後継者に。経営の上での課題や解決法などはありましたか?
アメリカ生活の後、当社に就職し事業の基礎や営業を経験してから一度離れました。2014年に戻ってきた翌月、父親が急逝という局面を迎えたのです。そのとき、私が感じたのはせっかく能力の高い社員が集まり高いノウハウや知見をもっているにも関わらず、「現状維持に甘んじている。こんなに有能な社員、質の高いサービス、信頼のおける仕入れ先がいてくれているのに、顧客基盤拡大志向・上昇志向が伴わないのはもったいない。」という課題でしたね。そこで、月100件のテレアポでの新規開拓を実施するなど、率先して社風の変革を行いました。テレアポで案件依頼をいただいた中には、今でも末永くお付き合いをいただいているお客様もいます。また、企業理念やコンセプトを企画立案して浸透させるCIなども作成し、2019年社長に就任しました。
──そんなご経験から、今の経営哲学に至られたのですね。
たとえば「自分や家族のコンディションが悪い」と、パフォーマンスは落ちますよね。だからまず、自社社員の安定を守ることが重要です。坂本先生の提唱する「人を大切にする経営」を貫くことで、サプライヤーやお客様とその家族、地域に貢献します。
理想を徹底して追求すると、実は業績も向上する。
――今後の展望についてのお考えをお聞かせください。
日本はすでに成熟した社会なので、急成長する国ではないと捉えています。そうした状況下で経営者に求められる志向は「年輪を積み重ねるべく着実に成長し、グローバル社会で生き残る」ということではないでしょうか。新ビジネスを開発して急拡大を目指すよりも、社員の成長を促すことの方が重要です。当社はその“インフラ”として存在したいですね。社員の成長や、当社を取り巻く人的資源の充実が、結果的に当社を成長させてくれます。坂本先生を通して「5方よし経営」の志をもつ経営者仲間たちとの出会いがあったからこそ、市場環境要因にもブレない考え方を持てていると思います。会うたびに初心に戻れる仲間たちの存在には本当に感謝しています。
──理想を追いかける上で、具体的な取り組みを一例教えてください。
ほぼ毎年「人事制度の見直し」を実施しています。社会の価値観が激変している中で、旧態依然の指標にこだわるのは意味がないどころか弊害です。たとえば今の社会では、「賃金を〇〇%上げる」という目標が叫ばれていますが、一般的にはそれを制度内に織り込むと既存の昇給スライド方式では上昇率に追いつけません。プリンシプルを厳守しながら、杓子定規ではなく時代に即した仕組みづくりに日々悩み、実行しています。人が人を点数で評価する所謂「定量型の評価制度」に対しては、以前から疑問をもっていました。できれば今後は時間をかけて、定量的な評価はしない方法、即ち、十人十色の性格によりそった人間らしいコミュニケーションを軸にした「人的資源成長システム」を企業文化の中に根付かせていきたいと思っています。
現実に即した視点をもつ。そして「好き」を仕事にする。
――最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。
僕がいつも学生たちに伝えているのは「成長性が高い業界に就職して、“早期に高収入を得よう”という考えはもたない方が良いよ」ということです。少子高齢化で出生率も人口も減り続け、日本という国が全体的に下り坂の中で、「新規性が高く、これから急成長する業界や会社」で就職先を探す軸よりも、「自分が人として成長できる会社」で探す軸の方が、現代の日本社会の若者たちの価値観には即していると感じます。
2019年前に学生たちからインバウンド需要で人気を集めていた観光やレジャー産業は、コロナ禍で大きく冷や水を浴びせられました。本当に何があるかわからない世の中で必要なのは、社会から求められるコミュニケーションスキルやバイタリティを構築することではないでしょうか。そのためには「自分が好きなこと」や「趣味」といった没頭できることを見つけ出し、それに近い仕事ができる会社に就職してコツコツとスキルを磨き、継続することが大切だと思います。また、その際に「働きやすい環境かどうか?」「理念にシンパシーを感じられるか?」といったポイントも重要です。
もう1点は「情報にアンテナを張る」ことの必要性です。大学でデジタルメディアを学び、修業期間に広告業界を経験したからこそわかるのですが、報道や広告の裏側に真実があります。メディアで得た話を鵜呑みにするのではなく、国内外を問わずできるだけ一次ソースにアクセスして確認する習慣をつけると、情報に対する感度が向上しますよ。