大胆な権限委譲で、生のビジネスを経験できるチャンスを。
――御社の事業内容について教えて下さい。
主軸の『ロケットモバイル』は低コストで定額制のため、従量課金のように「予算の幅が読めない」ということがなく、スムーズに導入してIoTを促進できるのが特徴です。たとえば10年単位のプロジェクトであっても、ずっと同コストで使用することができます。個人から法人に至るまで幅広い層から支持され、現在約1500社とお取引があり、クラウド管理や太陽光発電など多岐にわたる分野でお使いいただいていますね。当社にとっても永続的に深いご縁を紡げる「ストック型」として安定した収益を得ることができます。このIoTビジネスを起点にWebメディアやシステム開発、M&Aといった領域も手掛けています。
――若手が活躍し、社内の雰囲気は自由闊達です。どのようなことに注力されたのでしょうか?
「理不尽な組織にはしたくない」という想いがあったので、設立当初から“しがらみ”などが生まれないよう努めていたのが、功を奏したと思います。あと意識的に行っているのが「新しい風を吹き込み続ける」ことですね。現在学生インターンが15名いるのですが、毎月新たに1~2名を迎え入れています。社内はつねに新鮮な環境で、組織の硬直化が起こりません。
――「起業したい」という学生のポテンシャルを活かす、独自の手法を教えてください。
当社の門を叩いてくれる学生インターンは全員高いモチベーションを持ち、中でも8割くらいが「将来独立したい」という志向性なのが特徴です。現時点で独自のアイデアやビジネスの種を持っているわけではないものの、ポテンシャルを秘めている人材に対して、当社が一部のリスクを背負いつつ育成と組織拡大のために「スモールビジネスの権限移譲」をしていますね。いきなり大きなプロジェクトを担当してもらうのは、当社としてのリスクももちろんありますが、学生にとっても大きな負担になってしまいます。
「スモールビジネス」の具体例としては、M&AしたWebメディアやECサイトなどが挙げられます。主体的に運営を担当してもらうことで、学生のうちから生のビジネスを学べる機会を提供。ノウハウは既に社内に豊富に蓄積されているので、それらを存分に使ってキャリアを積むことができるのです。場合によってはグループ会社の代表を任せて起業を支援するケースもあります。
学生インターンだからこそ、きちんと正当な報酬をもらい、多くの経験をしてほしい。その一心でIoTビジネスの利点を活かし、若手への投資を続けています。
時代を先取りし過ぎて迎えた逆境も、全力でピボットして糧に。
――逆境を感じた出来事はありましたか?
10年ほど前、Web漫画を翻訳して世界中に発信するサイトを立ち上げました。今は画力も高く表現力豊かで上手なWeb漫画作家が活躍し、世間の注目を集めるような作品も多数見受けられますが、当時は少なかったですね。SNSによる拡散も今ほど流行っておらず、そもそもWebで漫画を読む文化が根づいていない状況でした。良質なコンテンツを集めるために資金を投入したのですが、マネタイズに苦労して約半年で厳しい状況に陥りましたね。
――どのように乗り越えられたのでしょうか。
苦境の中、私たちが目を付けたのが「翻訳」でした。当時のAI翻訳は今よりも精度が低く、内容としてはほぼ直訳でした。一方、クリエイティブに求められる翻訳は担当者が命を削るように培うノウハウであり、味がある文章というのは一朝一夕には得られません。そこで「翻訳ビジネス」にリソースを集中し、「日本のコンテンツで、外国人のファンを獲得する」をコンセプトにしたビジネスへのピボットを決意。資金調達は海外のプラットフォームを使い、クラウドファンディングで集めました。
「海外進出したい」というニーズは数多く存在していたのですが、現地法人が必要であったり、税金面が複雑だったりと敷居が高くて第一歩を踏み出せない企業や個人が多かったのです。ところが当社には、Web漫画事業で培った海外進出のノウハウがありました。そこでとあるテレビゲームが大ヒットすることになり、起死回生になりましたね。
――当時を振り返って、どのような感想をお持ちですか?
上記以外にも自分の経営者としての未熟さからボードメンバーが去っていき、ステークホルダーに心配をおかけしたこともありました。ただ、そうしたことを「逆境」とはあまり感じていないのが本音です。立ち上げ期の経営者に苦労はつきものなので「倒産を回避するために経営陣が全力で資金調達」という出来事も周りから見たら大変かもしれませんが当事者としては、至って普通のことでした。また、間違いを繰り返すことはご法度ですが、失敗から教訓を学べます。当社の場合は「ストックビジネスへの原点回帰」でしたね。
たどり着いたのは「ストックビジネス」を貫くという信念。
――構造的にグッドスパイラルを実現されていますが、御社が目指すビジョンを教えてください。
ほかのビジネスと比較したとき、ストック型の優位性として「安定的に成長し、リソースに余裕が生まれる」ことが挙げられます。そのリソースを使って新たな仲間を集めて育成したり、新規事業に投資したりすることができるのです。また、お客様との信頼関係を継続的に構築することが最重要なので、無理なノルマなどとも無縁。組織の構造上、不毛な争いやパワハラなどが起こらない文化が形成されているので、いわば「農耕型ビジネス」を展開していると言えるでしょう。とくに今の若い人は「搾取」という言葉に敏感なので、働きやすい企業風土を醸成することは経営的にも不可欠な要素だと捉えています。
当社の場合、学生インターンの育成やM&Aした会社の収益を更に伸ばすことにリソースを振り分けています。若手人材に経験を積んでもらうとともに、任せた企業が社会に役立つ存在に成長すれば、グループ全体でシナジー効果も期待できます。IoTを駆使した社会課題の解決方法は無限大に存在しているので、ゆくゆくは「ものづくりの事業承継」といった、伝統を礎としつつ新ビジネスを展開するような領域にも挑戦したいですね。育成スキームが仕上がり、道筋が見えてきたのでワクワクしています。地道に信頼と仲間を集め、説得力のある実績を積み上げることが、次世代を見据えたときに何より重要ですね。
いきなりスターになんてなれない。眩い輝きほど陰の努力も人一倍。
――最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。
「地道にコツコツを継続することが、何より重要である」ということですね。たとえば、ベースボールのワールドワイドな大会で世界と日本を熱狂させたスター選手であっても、少年時代から血のにじむような努力の積み重ねがあった上で、スターとして活躍できるのです。成功者の輝きの部分だけに目がいきがちですが、見えていない陰の部分で「地道にコツコツ」が間違いなく存在しています。テレビで「最近急に露出が増えたな」と思う芸人さんでも10年以上のキャリアをお持ちの方がほとんどです。SNSなどでの「キラキラしているように見せかけている人」に惑わされてはいけません。
「石の上にも3年」という言葉の意味は重く、努力を継続することでスキルが身につき、徐々に信頼を勝ち取ることができます。新しい発想もゼロから生まれるわけではなくて、最低でも1000日続けているうちに造詣が深まり、アイデアの源泉になるのです。あと、これは決して他人に押し付けはしませんが個人的には「気合と根性」も好きですね。特にベンチャー企業の経営者はいざというときには「胆力勝負」という側面があると考えています。ダラダラと日々を過ごす人と、毎日努力やチャレンジをする人だと年数を経てどんどん差がついてきます。下積みを経て得たノウハウの再現性は大きいので、間違いなく自分の資産になります。だから「こうする!」と決めたことは、トコトンやり続けてください。