MiraError(ミラエラ)

【ラクサス・テクノロジーズ株式会社 児玉 昇司】「世界中を笑顔に」するために。人の意見に左右されない「自分の人生を生きろ」

2022/12/15

Profile

児玉 昇司

ラクサス・テクノロジーズ株式会社  創業者 取締役 Founder

早稲田大学EMBAを修了。シリアルアントレプレナーとして累計120億円以上を調達し、会社売却などを経て自身4度目の起業となるラクサス・テクノロジーズ株式会社を2006年に創業した。たたみ約10畳ほどの小さなオフィスからスタートし、広島を拠点に東京にもオフィスを展開。現在では、広島オフィスに95名以上の従業員を抱える企業に成長。

同社は2015年2月、ファッションシェアアプリ「Laxus(ラクサス)」をローンチ。毎月定額で有名ブランドバッグを使い放題(貸したり借りたり)できる、サブスクのC2Cサービスとしてスタートした。7年を迎えるLaxusは、内閣総理大臣表彰 日本サービス大賞 優秀賞など数々の賞を受賞し、アプリは米国・日本で160万ダウンロードを突破。循環型社会を目指す取り組みとしても注目されている。

そんな児玉氏にファッション業界における課題とそれに対する取り組み、また求めている人材について伺った。

ファッションが「地球のお荷物」になっている現状

—— まずは現在の事業についてお伺いできますか。

近年、ファッションは環境負荷が高く「地球のお荷物」のような状態になっている現状があります。弊社の事業を通じ、そのような現状に対して変容させていけるのではないかと考えています。実際に、この7年間一度もカバンの破棄をしていません。

環境負荷に関する課題を解決する方法は、ファッション以外のどのような切り口でも良いのですが、それぞれの得意分野があると思っています。ファッションはさまざまな人に「届きやすい」ものである一方、ファッション業界の中で一番ヒエラルキーのトップにあるものから落としていかないと、課題解決につながる取り組みが業界全体に真似されず、広まっていかないんじゃないか、と思うんです。そのような観点から、トップにある「ラグジュアリーブランド」からスタートしました。

また、「高いラグジュアリーブランドを安く提供しますよ」というものではなくて、もう少しサステナビリティにしたい、という思いがあったんです。

――ファッション業界における課題にはどのようなものがあるとお考えですか。

2015年のスタート当初、「サステナビリティ」はあまり馴染みのない考え方でした。ここ2~3年で日本でもサステナビリティやSDGsといった考え方が広まりましたが、我々は最初からこの視点をもっていたんです。

「大量生産・大量廃棄」は、はっきり言ってどんな人がやっても儲かります。しかし、その裏側には児童労働のような問題もあります。服を作るために、幼い子どもが働かされているんですよ。ほかにも、原料のコットンを取るために散布する枯葉剤は、人体にとって有害なものだと知られていても、採取効率のために使用されている現実があります。

そして、そのような危険な環境での労働に従事している人の多くは、識字率が0%だったりします。危険を防ぐためのマスクも、それがなんのためのものなのかわからないし、雇用側も説明せず責任をもたず、大量生産のために利用しているんです。

近年では、ファッション業界のこのような現状を問題視する声が急速に広まりました。大きなアパレルブランドでさえ「エシカル(良識的な)コットン」を使用していないという理由で、不買運動からの倒産に至った例もあります。

「世界中を笑顔」にするためには「社員にフィットする」会社に

—— ファッション業界の現状を知って、なぜ解決しようと行動されたのですか。

私は4回起業しているんですが、すべて「世界中に笑顔を」を理念にしています。「世界を変えたい」と思っていて、世界中を笑顔にするためにできることはなにか、と考えたときに、自分にできる事業領域はここだなと思いました。

 私自身はとても恵まれていて、比較的早い段階で成功した方だと思うんです。そのような恵まれた環境にいて、まわりに目を向けたときに、アラスカやインドでは泣いている子や死んでしまっている子もいる、そんな現状を目の当たりにしました。

「仕方ないよな」と思った一方で「それじゃダメだ」とも感じました。自分ひとりがお金持ちになって遊べる人生も良いけど「もっとできることもあるんじゃないか」と思って、「世界中に笑顔を」を理念にしたんです。

実は、誰を笑顔にするか具体的に「海外の5歳の女の子」と明確にしています。社内でも、なにか困ったことがあったときには「これを指針に判断しよう」と、社員たちと決めています。

日本にとどまらず世界に目を向けているのは、インターネット社会になってきてボーダーレスになってきていることも理由のひとつです。

――社風についてお伺いできますか。

基本的に「世の中にフィットさせましょう」「お客様に合わせていきましょう」という企業が多いんじゃないかと思います。でも「社員に対してフィットしましょう」といっている社長はあまりいないですよね。

だから、うちは両方やろうよ、と。たとえば、弊社では赤ちゃんがいて働けない人をアルバイトで優先的に雇っています。世の中に向けて良い顔をする企業に限って、実は社員をないがしろにしているような「ブラック企業」みたいなのも多い。「2~3時間しか働けない」という人に対して、企業として必要ないと切り捨てるのではなく、弊社では積極的に雇用しています。

実は、弊社ではアルバイトさんに対しても1on1をやっています。その日に入った人にも、です。1on1で夢をたずねたときに「家を建てたいんです、そのために働いています」と答える人がいたとします。そんな人に「じゃあ今10億円あげたらどうする」と問いかけてみると「将来に備えて貯金します」なんていう。

それって夢は「貯金」ってことになるんですよ。だから、意外に夢を明確にもっている人はいない。そういった人に対して、夢ってなんだろうっていうのを1on1で少しずつ話していく。「家を建てたい」とか「子どもが欲しい」っていうのは、夢じゃなく「人から期待されていること」だったりするんです。

それって、自分の人生じゃないよね、だから「正しい夢をもとうよ」と言っています。仕事を辞めたいけど辞められないのは「辞めちゃいけない」と思い込んでいるからなんです。

弊社の社員に「辞めたければ辞めていい、もう1回働きたかったら入り直せばいい」と言っていたら、3回辞めて4回入り直してきた人もいますよ。

――現在はどのような方法で事業展開を進めていますか。

今は、流入経路としては口コミが多いですね。あとはたとえば、ユーザーの中にはひとつカバンを借りている、という人もいればふたつ借りるという人もいます。口コミからの流入と同一ユーザーの中で利用個数が増えるといったところで、伸びていっていますね。

もちろんずっと同じカバンを借り続けることもできるんですが、Laxusの楽しさって良い意味での「とっかえひっかえ」にあると思っています。利益的に考えれば、使い続けてもらった方が送料もかかりませんが、楽しみ方としてはもったいないですしね。

でも、そんなに気に入ってもらえているなら「売りますよ」と。永遠にレンタル費用を払い続けるなら、購入した方がお客様のためになると思い、最近は売却することもあります。

人に相談したときに100%共感されるものはない

—— 今まで苦しかったことはありますか。

サービスの開始当時は「借りてまで使う人なんていない」なんて言われることもありました。「汗水流して働いたお金で買うから良いんでしょ」という価値観が常識だったんですね。

当時は、有給なんて取れない、取らない社会が当たり前で、「24時間働け」という風潮の中で出産に立ち会えないなんていうのもありましたね。「私がしんどかったんだからあなたも同じ思いをしなさい」というような、人のチャンスを奪おうとする人もいました。

――そのような風潮がある社会の中でも、なぜ気持ちが折れることなく続けられたんですか。

私自身が起業した理由は、社会課題の解決ももちろんですが「なんとかしてチョロく、簡単に生きていけないかな」と思ったのもあるんです。 継続できた理由は、私の中で明確な答えがあって「人に相談するときに100%共感されるものはない」ってことですね。一番良いのは、1~2割が賛成で8~9割が反対しているようなときです。

相談したときに、100%賛成してもらえる状況は2パターンあって「すでに遅すぎる」か「相手が話をちゃんと聞いていない」かですね。

たとえば「今から通販事業を始めようと思ってる」と言ったとして、今なら通販が当たり前になっているから賛成する人は多いでしょう。でも、昔はそうではない。ほとんどの人が賛成するような状況のときは、スタートするには遅すぎるんです。

なので、当時はたくさん反対されたから「あ、これはいけるな」と思いましたね。

相談する相手はいろいろな人が良いと思います。身近な人に相談する場合、一番自分を思ってくれている親を説得できなければ、マーケットを説得することなんてできないんですよ。

スタート当時のユーザーは、アッパーサイドの方が多い傾向でした。高価なものを買いもするし、借りもする。宝石類なんかも本物も購入するけど人工のものも使っていて、宝石採掘が児童労働の温床になっていることを知っている。

だから、そういった社会課題に対する理解があることを示すために、自分のブランディングとして弊社のサービスを使っていたんですね。

そのあと一般ユーザーに対しては、サービスについてわかりやすく提示しました。「使い放題」であることや「ブランドの尊さ」を。世の中には、ラグジュアリーブランドを模した商品がたくさんありますよね。デザインが似ているものがそうです。

でも、似ている商品を購入しても、ブランドのデザイナーには一銭も入らない。だから、デザイナーをリスペクトしよう、良さを称えよう、と広め続けて、結果少しずつ浸透していった形です。

――採用について苦労した経験はありますか。 

一番最初の起業のときは、ひとり雇うことが怖かったですね。その人の生活がかかっているという責任感がありました。今は、責任感プラス弊社のことを好きかというのをよく考えます。能力をそれほど重視しなくなりました。

たとえば「能力があるのでなんでもできます、でもLaxusのことは知りません」という人よりも「なにもできませんがLaxusが大好きです」という人の方が入社後に伸びたりするんですよね。

 

「シンプルに物事を考える」

—— なにかで迷ったときの考え方や意識していることはありますか。

「シンプルに物事を考える」ということを大切にしています。みんな本質的にはわかっていて、ビジネススクールなどでも学ぶことなんですが、実際に現場に出ると突然できなくなるんです。 だからこそ、課題に対してシンプルに捉えれば、自ずと解決策が見えて結果につながります。

シンプルに物事を考えるには「なぜこうなったのか」「なぜこの行動をしたのか」を考えることが大切です。

たとえば、物を買うときに「安いから買う」ということも多いと思います。でも本当に買ったものが必要かというと、必要ないことも多いです。であれば、高かったとしても、今必要なものを買うべきですよね。こうして、物事の本質を考えて、シンプルに捉えることが大切だと思います。

 

次の舞台は「世界」まずは目の前の人をファンに

—— 今後の事業展開について教えてください。

次は「世界」ですね。5年後には、50都市にLaxusを根付かせたいと考えています。まずは、ラグジュアリーブランドでシェアリングをして「物を捨てない」というところから。類似の事業はありましたが、ラグジュアリーブランドを安く使えることを全面に出していると失敗しているケースも多いです。

でも、「物を捨てないこと」にフィーチャーしているから、エシカルに物を使いたいと思っている人が多く集まって良いコミュニティになるんです。「良いことをしたい」と考えている人が集まるから、不道徳なことはしない。汚してしまう、盗られてしまう、ということも少なくなります。そのためには、目の前の人をファンにするということが大切だと思っています。

 

「自分の人生を生きろ」

—— 最後に若者へメッセージをお願いします。

「自分の人生を生きろ」ですね。「あなたは本当にそう思っていますか?」「ほかの人のために生きていませんか?」と。自分のために生きてくださいと言いたいですね。

すごく偏ったものであっても、たったひとりの人を満足させられるものは10万人が共感してくれるんです。でも、たくさんの人の意見の中間を取ろうとすると、誰も満足しないものができてしまう。

嫌われないものをつくることは、好かれるものをつくるのとは違います。人間関係でも、嫌われなければ好かれるわけではないんですね。ほかの誰かが、責任をとってくれるわけでもない。だからこそ、自分のために生きて欲しいと思います。

ラクサス・テクノロジーズ株式会社

設立 2006年8月31日
資本金 16億2824万120円
売上高 非公開
従業員数 98人(2020年12月時点)
事業内容 ファッションシェアアプリ「Laxus(ラクサス)」
URL
この記事が気に入ったら
いいね ! しよう