在庫から利益を生み出すシステム
—— 御社の事業内容について教えて下さい。
事業としては小売やSPA(製造小売業)がお客様です。企業の在庫を上手に利益に変えていき、そのための色々な分析機能をSaaSモデルで提供している会社です。在庫を利益に変えるのは、当たり前じゃないかと思うかもしれません。しかし、弊社のお客様のサービス導入当初のデータを分析すると、抱えている在庫のたった2割からしか利益が生まれていないのが現状です。
抱えている在庫の20%から8割の利益が生まれていることは、パレートの法則と一緒で、データでも示されました。残り80%の在庫は利益を生み出していないのですが、本当に利益を生み出せないのだろうか、というところがそもそものスタート地点なんです。そこで、残り80%の在庫から利益をもっと生み出すような分析機能をSaaSモデルで提供しています。
―― 社内の雰囲気、社員さんはどんな方が多いですか?
傾向としては個性が豊かで、お互いを尊重しあって仕事ができているなと思っています。例えば、お客様の課題を解決するときも、先頭でフロントに立っていない人も解決するために、どうしたらいいか一緒に伴走して考えるような雰囲気がある会社かなと思っています。
どちらかというと、サポーティブな社員が多い印象はありますね。これが実は良し悪しだなと思ってるんですよ。サポーティブなメンバーが多いと突き進んでいく力が弱いので、組織上の課題はその辺にあると感じています。
組織のベースを作っていく段階においては、サポーティブな人が多い方がお互い協力し合おう、支え合おうというカルチャーが生まれてくるので、いいフェーズを踏んだと思っています。でも、次の成長のためには、もう少しオフェンシブな社員が欲しいですね。
3度の倒産危機を乗り越える過程で開発したシステムとは
—— 今はサスティナブルな世界が叫ばれている中で、逆行している現状に課題意識を持たれて起業したのでしょうか?
もともと課題意識があったわけではなく、起業したベビー服の事業で在庫が増えすぎて、倒産危機を3回も経験しました。倒産危機を乗り越えていく過程で、在庫の種類や数を増やすのではなく、持っている在庫を効率よく利益に変えていく分析の方法、計算ロジックを生み出し「FULL KAITEN」が開発できたのです。
小売業の経営者は、皆さん在庫で悩んでますから。自分が作った仕組みが小売経営者の皆さんにとって役に立つものになるだろうと考え、今の事業に変えたというところです。
―― 事業にするにもパワーがいるはずですが、踏み切ろうと思えたのはどうしてですか?
もともと私はこの在庫分析のロジックを外販するつもりはなかったんです。新卒から起業するまでの間は、システム関係の仕事をしていました。何社か転職しつつ、企業に何かしらのシステムを納品する仕事をしてたんです。でも、そういうのに飽きたというか。BtoBで、かつシステムみたいな話になってくると、直接人が喜んでいる様子が見えないんですよ。
誰かの役に立ってる手応えもなくて、その辺が自分の中ではだんだんストレスになっていきました。B to Bに限界を感じていたので、B to Cのベビー服の事業を始めました。そのような経緯があったので、「FULL KAITEN」の原型ができても、ビジネスにする考えは全くありませんでした。
でも、うちの妻がシステムを売る方が儲かるって言い出したんです。妻とは前職も同じで、私の働きぶりをよく知っていましたから。「ベビー服見たって、どれが可愛いとかわからんくせに。ベビー服の会社の社長ではあなたの良さが活きない。人に何かを説明して、良さを理解してもらってお客様の役に立っていく仕事をする方があなたの良さが活きる」と言われたんです。
とはいえ、B to Bシステムの仕事が嫌になっているのに、「なんでまたそこに戻らなあかんねん」みたいな対話があって。でも、3回も倒産しかけたじゃないですか。倒産危機って、家族、子供もいるとなると想像できないくらいの地獄です。
2人で給料9万円で、3回目の倒産危機のときは、もう2人目もいましたから。倒産危機の地獄を「FULL KAITEN」の原型で乗り越えてきた。まともな精神状態を取り戻して笑顔になれて、毎日楽しく過ごせるようになったわけです。
世の中の小売業の経営者で、在庫で悩んでない人なんていませんから。妻が「私たちがこんなに笑顔を取り戻せたこのシステムが、世の中の小売経営者を笑顔にできないはずがない。」と言ったんです。
それは、もっともだなと思ったんですよね。そこでスイッチが入ったので、やるなら本気でやろうと決めて「FULL KAITEN」を事業化しました。
世界の大量廃棄問題を解決するミッションを達成するために
—— 今後のビジョンについて教えて下さい。
2018年の秋、大手アパレル取締役の方との商談の場で「フルカイテンが多くの企業に導入されていったら、地球を救える可能性があるよね」と言われました。壮大すぎて、最初はどういうことかなと思いました。
例えば、Tシャツ1枚作るのに3トンの水を使うんです。当然、石油や資源も使いますよね。森林の伐採も行われる。有限な資源を使って作られた商品が、市場規模を無視するほどの量になり、最終的に廃棄されていく。廃棄されるときも同じように、資源を無駄遣いするわけです。水、石油を使い二酸化炭素を大量に排出する。フルカイテンを導入する企業が増えて、在庫の効率が良くなったら、今までのように在庫を抱えなくても業績が良くなるわけです。今よりも資源の無駄遣いが減ります。
今私たちが生きているこの時代に何か変わるかわかりませんが、自分の子供やその次の世代に、今より良い地球にバトンタッチできるかもしれない。
―― すごいですね。具体的にはどのような取り組みをされているのですか?
事業としてフルカイテンが世界の大量廃棄問題を解決するミッションを達成するために、手段としてスーパーサプライチェーン構想があります。
今のFULL KAITENは、抱えた在庫を効率よく利益に変える価値を提供することで、今売るべき在庫を可視化します。作る量が適正化される段階にいくのは一足飛びには難しくて。在庫を効率よく利益に変える価値を提供するために、導入企業各社の売上や在庫のデータを、毎日FULL KAITENに自動で蓄積しています。2021年度は4000億円分ぐらいの売上データがFULL KAITENに蓄積され、2023年度には1兆円を超える予定です。
データが蓄積されると日本全体で生産量の予測が可能になります。例えばアパレル業界は来年どれぐらいの市場規模で、カットソーの枚数はこのくらい作っておくといいというのが見えてきます。
データが溜まったら、次は生産量の需要予測に参入します。これを5年ぐらいのスパンで行う予定です。そうすると、サプライチェーンも上流から下流まで、本当の意味で必要な商品が必要な量だけ流通する形に変わっていきます。ここまでできたら、大量廃棄問題が解決に向かうと思っていて、まず国内で形にしてから海外に進出するのが5年後の話です。
組織としては、非常に壮大なミッションを達成しようと思ったときには、同じような人ばかりいるような会社じゃ無理だと思ってるんです。これから先、一人ひとりの個性が尊重されて、良さが綺麗にはまり合ったような組織を作りたいと思っています。
小さな変化、進化に気づき柔軟に対応する力が大切
—— 最後に、若者に向けてメッセージをお願いします。
自分や周囲の小さな変化、進化に気づくことが一番大事だと思います。これからの時代は人口減少と高齢化の2つにより、日本の市場がすごく縮小していきます。人口の減少は毎年60万人ずつ減っているんです。去年63万人ほど減少しましたが、鳥取県と同じ人口です。2025年からは100万人ぐらいのペースで減少していき、政令指定都市が毎年なくなるようなイメージ。2020年から2030年までの10年間で、九州と同じ人口の1400万人も減ることが統計上出ています。
この人口減少が50年続くという統計上の結果があり、日本で起きていることは笑い事じゃありません。少子化も進み、0〜14歳の若年層は12%しかいません。15〜64歳の労働人口が60%です。残り28%が65歳以上の高齢者。15〜64歳の人たちがどんどん高齢者層に移っていくので高齢化がどんどん進みます。一方で15〜64歳の層に入ってくる若年層は12%しかいないため国全体が老いていくのです。合計特殊出生率も1.3台と低すぎて0〜14歳の若年層も増えません。
国がものすごい勢いで年をとっている。高齢化と人口減少がダブルで並行して進んでいるので、日本の市場規模は縮小していくに決まっています。
そうすると、在庫を大量生産することで製造原価を抑えてどうにか利益を確保していたような、言い換えれば規模の論理でどうにかなっていた会社はどうにもならないんですよ。規模で戦えるのは本当にごく一部の資金的な体力がある会社だけですね。そんな会社は日本には数社しかありませんので、ほとんどの企業にとって規模の論理で生き抜くのは至難の業です。
また、規模の論理が通用しなくなった時代というのは効率の追求が意味をなさなくなった時代だとも言えます。
規模が拡大を続けていた時代は、経済の分母が大きくなるのですからビジネスの現場でも効率を追求すれば得られるリターンも大きかったわけです。例えば大量生産するための機械の開発などが最たるものですね。
そういう時代に重宝されたのは正解を知っているという能力です。
こういう問題はどう解決すれば良い、という答えを知っている人がビジネスの現場でも重宝されたということです。
しかし今は規模が縮小を続けている時代です。経済の分母が小さくなっていますので、そんな中で効率を追求したところで得られるリターンは少ないわけです。
このような効率の追求が意味をなさなくなった時代では、正解を知っていることの価値が下がっていきます。
なぜなら問題が複雑かつ多すぎるからです。
例えば人口減少と高齢化は明らかに日本の経済を衰退させている要因ですが、その原因となると複雑ですし多岐に渡りますよね。
だから規模が縮小している時代に重宝されるのは、こういう問題はこう解決するという正解を知っていることではなく、問題の原因を見定め、その解決策考え、実際に試し、それを繰り返して解決に導くという極めて泥臭い能力なのです。私はそういう能力のことを生きる力と呼んでいます。
日本の学校教育は今もまだ正解を教えることに比重が置かれていますが、ぜひ学生の皆さんには正解ではなく問題を定義する力をまず身につけて欲しいですね。
そのための一歩は、目の前で起きていることと理想の状態のギャップを言語化し、ギャップの発生原因を自分なりに考えてみるという習慣をつけることです。
生きる力のある若い人たちが増えていくと、きっと日本はまた輝き出すと思います。
みんなでそんなことができたら楽しいですね。