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【株式会社 リモハブ 谷口 達典】社長になること自体には興味はなかったが患者さんの悩みを解決できるなら起業してみようと思えた

2022/11/10

Profile

谷口 達典

株式会社 リモハブ 代表取締役 CEO

大阪大学医学部を卒業後、国立病院機構大阪医療センターや大阪大学医学部附属病院などで循環器専門医として臨床に従事。

スタンフォード大学発の医療機器開発次世代リーダー育成プログラムである「ジャパンバイオデザインプログラム」を修了し、同プログラム第一号となる株式会社リモハブを2017年に設立。医師を続けながら会社経営にも従事。2022年にはエア・ウォーター社へグループインすることで販売経路の拡大を目指す。

医師のキャリアを持ちながら起業へと舵を切った谷口氏に、チャレンジ精神の大切さと経営ビジョンについてお伺いした。

研究だけでは直ちに解決できない課題にチャレンジする

—— まずは御社の事業について教えてください

在宅で実施できる遠隔の心臓リハビリシステムを開発しています。
元々私は循環器内科の医師をしており、心不全患者さんの再入院率の研究に取り組んでいました。心不全は高齢の患者さんが多く、一度退院しても再増悪してしまい、再入院率が非常に高いのです。一方で、心臓リハビリを実施すると、再入院率が低下することがわかっています。

心臓リハビリでは、トレッドミル(ルームランナーに似た健康器具)やエクササイズバイクなどの有酸素運動を週3日以上実施することが推奨されています。しかし、家族の送迎の問題や会社勤めで病院に来られない問題など、病院に来て心臓リハビリを継続するのが難しい現状があります。

これらの理由で、心臓リハビリは、その有効性にも関わらず、実施率はわずか10%にも達しません。私はそれまで臨床研究に取り組んできていましたが、この問題は研究だけでは解決に近づくまでになかなか時間がかかることを強く感じていました。

それなら、課題を解決するための直接的なソリューションを開発すれば、患者さんの再入院率の低下を、より早く実現できるのでは?と考え、「病院でなければ受けられなかった心臓リハビリを在宅へお届けする」というコンセプトを元にシステム開発を始めました。

——他社との差別化はどういったところにありますか

在宅への遠隔リハビリの提供については、他社も色々と参入してきています。
最近では、ソニー(株)とエムスリー(株)が合同で(株)サプリムさんを立ち上げましたね。

しかし、他社がどちらかと言えば「ヘルスケア」の切り口で開発を進めているのに対して、弊社では「医療」の切り口でサービスが提供できるように事業を進めています。

弊社では、大阪大学を中心とした医師主導治験(医師が行う治験)を進めていて、現在10施設以上の病院と連携して、新医療機器としての承認を目指しています。医療機器として承認を得ることにより保険適用が可能になり、心臓リハビリの継続にとって重要な要素の一つである経済的負担を軽減することができます。

また、医療機器では、業許可、医療者ネットワーク、医学分野の専門知識などが必要になるため、他業種の他社が参入しようとしてもなかなか簡単に実現できるものではありません。さらには、新しい医療機器の場合、治験を完了するだけでなく、PMDAという規制当局に承認されるにも長い審査期間が必要になります。こういった高い参入障壁を前にして、他の企業が同じようなサービスを実現しにくいのも弊社の強みです。

——なぜ、医師でありながら起業するという決断が出来たのですか?

社長になりたいという気持ちは、元々ありませんでした。
2015年に文科者が支援している医療機器開発のための人材育成プログラム『ジャパン・バイオデザイン』に参加し、そこで起業という選択肢があるということを認識しました。

冒頭お話ししたように心不全では再入院する人が多く、その再入院率を下げたいと思っても、学術研究だけではすぐに再入院を減らすまでには至りません。
そういう、患者さんがきちんとした医療を受けられていない現状がある中で、それなら今見えている根本的な課題を解決するソリューションを開発した方がゴールに近いんじゃないかと考えました。

——最近子会社になりましたが、その理由などお教えください

M&Aの話は「おめでとうでよかったですか?」と質問されることも多いのですが、弊社も望んだグループインなので「それで大丈夫ですよ」といつもお答えしています。(笑)

日本ではM&A、すなわち買収となると身売りのような印象で捉えられてしまうことがよくあるのですが、海外ではむしろ、スタートアップ企業は医療機器を開発し、大企業へM&Aされた後、その大企業のブランドの販売チャネルを使って広く普及させることがよくあります。

エア・ウォーター(株)は、在宅に医療機器を届けるための販売チャネルや営業体制を持っており、弊社のシステムをより早く確実に患者さんに届けられることを確信しています。

DTx(デジタルセラピューティクス|デジタル技術やIoTを用いて病気の治療を行う技術)領域の中では、弊社が日本で初めてのM&A事例だと思うので、この事例が今後の医療機器エコシステムの構築、ひいては業界の発展につながればいいなと思っています。

——社内の雰囲気はどうですか?やはり医療者が多いのですか?

社会課題を解決したい、世の中にないモノを作りたい、という熱意を持ったメンバーが多くいる企業です。
医師は僕だけですが、医療者であれば看護師もいますね。
他には、エンジニア、テクニカルサポート、事業開発、バックオフィス業務の方など、医療にとらわれず様々な職種の方がいます。

開発に関しては、立ち上げ当初こそ外部に委託していたのですが、やはりいい物を作るためには同じ夢を持った仲間たちと、熱意を持って開発に取り組みたかったので、自社で開発体制を構築することにしました。

またメンバーはこれまでリファラル採用(推薦や紹介による採用)が多かったのですが、現在は即戦力となる人材の採用を進めています。

 

医療業界だけでは出会えない人との出会いがあり、自分も成長を続けられる

—— 過去の逆境経験のお話を伺いたいです

そういった意味では、起業してからというものの、ここでお話しできないようなことなど本当にいろんなことが起きています。(笑)
もちろん資金面の課題もありましたし、人の課題もありました。

なので、「あの時こうしていれば良かった。」といったような反省も多く、それらは今後の事業に活かしていきたいと思っています。
あと、僕自身が会社で働いた経験もなく起業しているので、元々いた医療業界とビジネスの業界とのギャップは大きく感じており、色々と学ぶことが多いです。

一つはコストについてです。
やはり事業をするためにはサステナビリティが必要なので、当然ですがコスト意識は高くもつ必要があります。一方で、医療業界はこれまでコスト意識がビジネス業界と比べて、低い領域であったように思います。そもそも日本の医療では、患者さんのためであれば最終お金がいくらかかっても何とかしなければならないという考えが根底にあります。そのため、原価割れを起こして赤字経営になっている病院もある程です。

もう一つは人材についてです。
言い古されたことだと思うのですが、何か事を成し遂げるためには、とどのつまり「人」が大事だと言われます。医師は(特に以前は)一匹狼的に動くことも多かったように思うので、治療方針はある程度自分で決められるし、治療法も決められますが、会社だといろんなプロフェッショナルが関わってプロジェクトが進める必要があります。なので、ビジネスに関わるようになり、医師として働いていたときよりもより一層人の重要性を感じるようになりました。

幸いにも弊社の離職率も低く、自分たちで課題に向けて一人一人が能動的に動いてくれており、たくさんのメンバーにすごく助けられていますね。
いずれも今は変わってきていますが、まだまだ医療業界にも変えられるところはあると思っており、僕は医療とビジネスの両方に関わる者として、医療業界にも色々とフィードバックしていきたいとも思っています。

——今後のビジョンをお聞かせください

今は運動療法にフォーカスした遠隔の心臓リハビリシステムを開発していますが、本来心臓リハビリでは、運動療法だけでなく、服薬指導、栄養指導、生活指導といった内容も求められます。これは包括的心臓リハビリといって、まさに「疾病管理」と同じようなものになります。我々はこの先、現在開発している遠隔心臓リハビリシステムを在宅疾病管理プラットフォームへと発展させていきたいと考えています。

 

株式会社リモハブ

設立 2017年3月
資本金 205,788 千円
売上高 非公開
従業員数 20 人
事業内容 遠隔心臓リハビリシステムの開発
URL https://www.remohab.com/ https://www.facebook.com/remohabjp/ https://www.awi.co.jp/ja/index.html
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