ベトナムに、新しい農協を。
—— KAMEREOでは、どのような事業を展開されていますか?
ベトナムのホーチミンに本社を置いて、農産物を飲食店やホテル、小売店などに卸すためのプラットフォームを構築しています。単純にいうと、お客さんがwebサイトやアプリを通してオーダーすると、野菜が届く仕組みをつくるビジネスですね。
日本だと、注文したら届くのは当たり前ですが、ベトナムは事情が違います。ベトナムには日本でいう農協のような仕組みがないため、流通経路がすべて個人の卸売店でつくられています。流通の川上から川下まで全部が個人のお店なので、注文一つとってもすごく不便なんです。
そんな中でKAMEREOはスタートアップとして、ベトナムに新しい農協のような仕組みを立ち上げようとしています。新興国には似たようなモデルがすでにあって、インドネシア・中国・インドではすでに多くの企業が類似事業をやっています。ベトナムではまだ少数ですが、少しずつ競合が出てきていますね。
―― 競合他社とは、どんな点を差別化していますか?
価格の安さと、配達の正確さです。日本では指定した時間に注文したものが届くのは当たり前ですが、ベトナムではそうした文化が浸透していません。これから当たり前のことを、当たり前にしていく必要があると考えています。
―― なぜベトナムで事業を始められたのでしょうか。
日本国内で飲食事業をやるのが大変だと分かっていたのが大きいですね。ベトナムみたいな新興国だとGDPが毎年6.5%、飲食市場に限れば10%以上伸びている。一方の日本は、1%も伸びていないのが現状です。同じ飲食事業をやるなら、伸びている国のほうが面白いと考えました。
自分は平成生まれなので、高度経済成長期のような激動の時代を経験していないんです。日本は安定して、このまま成長が止まってしまうかもしれないから、今の50〜60代の方が経験したような時代を経験したいというのも、ベトナムを選んだ理由の一つです。
―― なぜ飲食の業界での起業を考えられたのですか?
ベトナムの流通経路に疑問を持ったのがKAMEREOを立ち上げたきっかけですが、そもそも飲食業界に興味を持った理由はもっと単純で。飲んだり食べたりすることが大好きだったからです。
そこで自分が、食事や飲み物を提供する側に回りたいと思いました。でもただ飲食店を経営するのではなく、飲食店をサポートする側に回った方が、社会に対するインパクトが大きそうだったから、今の事業形態を選んでいます。
若者が集まる職場
—— 現在、社員は何名くらいいらっしゃいますか?
オフィスにいる方は60名くらい、倉庫で働いている方を含めると180名以上になります。日本人ばかりではなくて、自分と共同創業者以外全員、ベトナムで現地採用した方たちです。契約書面もすべて英語とベトナム語なので最初は一苦労でしたが、今は慣れましたね。
―― 社員には、どのような方が多いでしょうか?
比較的、若い方が多いです。ベトナムは平均年齢が29歳の若い国、というのもあると思いますが。なので採用にも日本みたいにネットを使っていて、求人プラットフォームに採用広告を出したり、SNSで人を募ったりして、働く人を探しています。
すべては「自分のせい」
—— これまでの事業経験で、最大の逆境について教えてください。
やはり、コロナ禍で売り上げが激減したことですね。ベトナムのコロナ対策だと、本当に家から外に出られなくなります。結果、会社に人が来れない状態が続いたので、売り上げが90%ほど落ちました。
対策も打てないし、そもそも卸先の飲食店が閉まっているから売り上げも立たない。もう何もできない状況だったので、従業員の給料を一部ストップしたりして耐え忍びました。最終的に貯めていた資金と、ベンチャーキャピタルから調達した資金を合わせて、難を逃れた形です。
―― もし資金調達ができなかった場合、どうするつもりでしたか?
どうしようもないですよ(笑)有難いことに資金を調達できたお陰で会社を続けられましたが、もし調達ができなかったら潰れていたでしょうね。ただそうなったとしても、また新しいことに挑戦したいと思います。
今やっている事業は、おそらく続けなかったでしょうね。コロナという外的な要因が原因だから、ビジネスモデルそのものに原因がないからといって、事業を続けることはしないと思います。同じような災難に見舞われたとき、また潰れてしまう可能性が高いですから。
―― 逆境を経験して、心が乱れることはありましたか?
人間だから感情は動きます(笑)ただ、エモーショナルコントロールは大切にしていますね。失敗を誰かのせいにしたり、スタッフやチームの人に押し付けたりしないよう、意識しています。結局、全部社長である「自分のせい」なんですよね。
例えばスタッフが問題を起こしたとしても、そのスタッフのせいだけにするのではなくて。スタッフを雇ったのは自分なんだから、どうしてこの人を雇ったのかを考え直します。なぜか分からないけど、問題を起こすような人を採用していたなら、採用の制度を見直す方が先決ですしね。
ベトナム市場で、1番のプラットフォームに。
—— 将来の展望について教えてください。
大きなインパクトを社会に残すのが一つの目標なので、もっと事業を拡大して、お客さんを増やしたいと考えています。今は1500社くらいと提携していますが、目標に比べたらシェアが圧倒的に足りない。最終的には、数十万社との提携を目指します。月並みな言い方になりますが、まずはベトナム市場で1番になりたいです。
ベトナムの市場は競合が少ないし、ポテンシャルもある。他の国に進出するというよりは、ベトナムで集中的にシェアを拡大していくことを考えています。
―― その後のことについては?
最終的にこうなりたい、というビジョンはありませんね。自分の仕事でも投資でも、ずっと仕事を続けていければ良いと考えています。最近は早期リタイアしよう、みたいな風潮がありますが、自分はそうしたいと思わないです。一生働き続けた方が幸せだと思いますし、自分のやりたいことに向けて動き続けたいです。
海外に目を向けて、日本からベトナムに飛び出したわけなんですが、それ自体はさほど大きな挑戦でも、ターニングポイントでもなかったと思っています。証券会社で働いていたころに、東南アジアがこれから伸びてきそうだから行きたい、行こう、くらいの気持ちでした。
起業してしばらくすると、新しい挑戦が減ってくるといいますが、自分はそんな事はないと考えています。何かに挑戦していれば、何かしら新しいことに当たるし、考えてもなかったことが起こる。そういう出来事に知的好奇心を満たされているのも、働き続けられる理由かもしれません。
起業は、ゲームみたいなものだととらえています。夢中になってやって、成長してという過程を踏んで、それがまた楽しくて。会社員だと他人のゲームに参加している状態だから、自分としてはあまり面白味が無いなと感じます。ゲームの結果、いろんな人から感謝してもらえると、素直に嬉しいですから。
ただ難しいのは、自分1人でやっているわけじゃない点ですね。今一緒に働いている180人の生活を背負っているから、自分の選択ミスが命取りになる。給料を払えなくなって倒産したらと考えると荷が重いですが、その時はその時ですね。海外は日本よりも人を切りやすいので、コストを考えて割り切れるようになると、また変わるのかもしれません。
―― 最後に、メッセージをお願いします。
自分は中高生の頃から学習意欲が強くて、知らないことをもっと知りたいと思う性質でした。興味のあることには飛びつく考え方だから、失敗もリスクだと思っていないです。最初は怖いこともありますが、やらなかったら何も残らない。だから怖くても始められます。
そもそも怖いか怖くないかという気持ちは、失敗を恐れる気持ちからくるものです。失敗しても何とかなると思えれば怖さを乗り越えられるので「失敗しても何とかなる」と思えることが大事だと思います。