ノロウイルス経口ワクチンを作って多くの命を救いたい
—— まずは、御社の事業内容について教えて下さい。
弊社は昆虫のカイコ(蚕)を活用して医薬品に使用する特別なタンパク質を作り、そのタンパク質でヒト用と動物用の試薬や診断薬、ワクチンなどを開発・製造している九州大学発のベンチャー企業です。薬は液体タイプも製造していますが、特に粉末タイプの経口ワクチン開発に力を入れています。
弊社が目標としているのは、対ノロウイルス用の経口ワクチンを早期に実用化すること。ノロウイルスは日本だと対処療法を行えば2~3日で回復へと向かうとされている感染症ですが、衛生環境が整っていない国では最悪の場合命を落とすケースもあります。たとえば、アフリカでは年間20万人以上がノロウイルスによって命を落としていて、そのうち4分の1は5歳にならない子どもが亡くなっているんです。
このような悲惨な状況を解決したいという想いで、ノロウイルス経口ワクチンの開発に取り組んでいます。
なぜ経口ワクチンにこだわるのかというと、経口ワクチンなら手軽に摂取していただけるからです。液体タイプだと注射による摂取になるので医療人材や注射器等が必要になります。液体タイプは冷蔵保存の場合が多く、管理も輸送も大変です。
その点、経口ワクチンなら処方してもらって自宅で飲むだけでいい。常温管理もできるので、設備が整っていなかったり医療従事者が不足していたりする国や地域でも手軽に活用できます。ノロウイルス経口ワクチンが世の中に普及すれば多くの命を守ることができると思い、日々研究開発に努めています。
——御社は2021年9月に新型コロナウイルスの抗体価をチェックするキットをリリースしたと知りました。そのサービスはどんな目的があるのでしょうか。
新型コロナウイルスの抗体測定サービスは、体の中に今どれぐらいコロナに対しての免疫があるかチェックするものです。このチェックをすることで、将来的に自分が必要なタイミングでコロナワクチンの接種を検討できたらと考えています。
今出回っているコロナワクチンは高い効果が期待できると言われているので、摂取している方も多いのではないでしょうか。ただ、コロナワクチンは副反応がでやすいとも言われているので、短いスパンで打ちたくないと思っている方も少なくないはずです。
はたして自分は抗体価が持てたのか、またワクチン接種から数か月経ったときにまだ免疫があるのかを確認することで、安心したり摂取のタイミングを考えたりできればいいなと思っています。
ほかにも、「数か月前にコロナワクチンを打ったけど、旅行に行って大丈夫かな」と心配になったときにこのキットを使っていただき、体に抗体がどのくらい残っているか確認していただくと旅行を楽しめるかなと思います。
「前を向いてやろう」と割り切る勇気。ビジネスは決断力が大切
—— 以前、起業したときのお話を伺わせてください。
儲からないから辞めるしかない部分もあったのですが、そのときは「前を向いてやろう」と割り切った感じですね。
ビジネスでは決断力が大切だと思っていて、たとえば役職のポジションだったら決断を早くしないと物事が進まないですし、前に進まないと部下もイライラしてしまう。IT系・AI系・SaaSとかは流れが変わるのが本当に早いですよね。
流れに乗り遅れないためにも基本的にはイエスorノー、やるorやらないというのは相談されたらその場で決めるようにしています。
打ちのめされても引きずらない。サービスの普及を目指してできることを
—— 今の事業で苦労されていることはありますか?
製薬会社に行って「カイコはいろいろな可能性を秘めているから、ぜひ一緒にプロジェクトをしませんか?」と話しても「カイコって薬になるの?」と言われますし、一般の方にカイコを活用して経口ワクチンを作ろうとしているというと「虫を口に入れるの?虫なんて食べられない」と曇った顔をされてしまうんですよ。そうやって打ちのめされることは多いですね。
でも、それをぐずぐず引きずってもしょうがないので、「じゃあ、それを解決するためにはどうすればいいのか」と考えています。解決策としてはカイコを体に摂り入れても大丈夫と認知していただくのが大切だと思うので、経口ワクチンを作る前にカイコを使ったサプリメントを販売予定です。
カイコを使ったサプリメントを販売し、普及させることによって安心感を与え、いざ経口ワクチンができたときに抵抗感なく使っていただけたら嬉しいですね。
地域復興にも協力。プロモーションに力を入れてサービスを売る
—— 今後の取り組みを教えてください。
九州大学では100年以上前からカイコを研究対象としており、さまざまな系統のカイコを継代飼育をしている背景があります。カイコの中には医療薬の材料となるタンパク質をたくさん作ってくれるカイコもいて、そのカイコが弊社の事業のベースです。
そして、弊社の事業はこれから量産化していく段階に入っています。そうすると、カイコは1〜2億頭必要になってくるのですが、その数をすべて自分たちで育てようと思うと大変です。そのため、廃校や荒廃地を活用してカイコを一緒に育てようと地方の自治体に声をかけています。こうして生産プラットフォームも増やしつつ、地域復興もできたらと模索している感じです。
——今後の課題があれば教えてください。
弊社のサービスの認知、特に今は抗体測定サービスをもっと世の中に広めたいと思っています。抗体測定サービスはwithコロナの時代に非常に役立つ商品だと自負しているのですが、ただ単に「抗体測定サービスがあります」というだけでは、どう役立つのかわからないので皆さんなかなか使う気にならないじゃないですか。
だからこそ、プロモーションに力を入れていきたい。今、国内の大手広告代理店に協力いただいて周知しようと動いています。
また、サービスの認知とともに、会社としての認知度も上げたいですね。おかげさまで弊社は福岡のテレビ番組で取り上げていただくことも多いので、九州エリアでは知名度は上がってきていますが、全国で考えると知名度はまだまだです。
これからサービスを売っていくうえでも、会社名の認知度がカギとなるので啓蒙活動は重要だと思っています。
経験は無駄にならない。経験を積みスキルを磨いて世間を見よう
—— 最後に、就職活動中または就職を控えている若者に向けてメッセージをお願いします。
今、学生さんの中には新卒でベンチャー企業に行きたいと言ってくれる方も多いのですが、この業界では経験を積んだ人、スキルがある人の需要が高いです。
なので、新卒のときにはベンチャー企業以外の興味を惹かれる会社に入って、そこで経験を積むことをおすすめします。若いときにする就職は大きなチャンスになりますし、新卒じゃないと入れない大手企業もいっぱいありますよ。
経験は決して無駄にはなりません。ギャップがあったら転職するという選択肢もあるので、まずは就職した会社で経験を積み、スキルを磨きながら世間を見てみてはどうでしょうか。
また、就職活動というのは自分たちが企業をよく知る場でもあります。企業の方に直接あったり訪問したりして、自分が企業を選別するという気持ちで挑んでみてください。